[要旨]
オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんによれば、新潟県五泉市の食品スーパー・エスマートは、店舗改装のために、2024年1月下旬から3月まで、2か月の長期休業をしましたが、その際、トイレの増設、出入口の移設、店舗内通路の拡大、床の張替えを行い、結果として売場面積は減少したそうです。このような改装は顧客のストレスを減らすことが目的であり、売場面積は減少しても、同店の売上は増加が見込めるということです。
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今回も、前回に引き続き、オラクルひと・しくみ研究所代表の、小阪裕司さんのご著書、「顧客の数だけ、見ればいい-明日の不安から解放される、たった一つの経営指標」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、小阪さんによれば、新潟県の第三セクターのえちごトキめき鉄道では、国鉄時代の電車を夜行運転する企画を行っているそうですが、鉄道ファンや昔の夜行列車を懐かしむ人たちに人気があり、チケットはすぐに完売するということで、このように、従来と同じことをしているにもかかわらず、新たな需要を見つけることで、新たな価値を提供することができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、小阪さんは、店舗を改装して付加価値を高めたスーパーマーケットの事例について述べておられます。「新潟県五泉市の食品スーパー・エスマートは、2024年1月下旬から3月まで、2か月の長期休業をしました。理由は『改装』です。(店長の)鈴木さんが『改装するためしばらく店を休む』ことを同業者や取引業者に連絡すると決まってこういう言葉が返ってきたそうです。『店舗を広げるんですか?』『もっと品揄えを増やすんですか?』
あまりにも皆が同じ言葉を返すので、鈴木さんも『一般的には、改装=拡大なんだな~』と驚いたと言います。では、エスマートは何のために2か月も休んで改装を行ったのか。改装したものは主に4つ。『お客さん用トイレの増設』と『店の出入り口の移設』、『店舗内通路の拡大』、『床の張替え』です。加えて、スタッフに向けて、倉庫と調理スペースの拡充です。つまり、店舗の面積も広げなければ、品揃えも増やさない。にもかかわらず、2か月も店を休みにしたわけです。その目的は、店の付加価値を上げるためです。
『お客さん用トイレの増設』は、これまでトイレが一つしかなく、年々顧客の数が増えていく中で列ができることもしばしばだったため、これを改善するために男女別に分け、増設しました。『店の出入り口の移設』は、駐車場を拡張したことと、顧客に高齢の足が不自由な方が増えているのに伴って、より不便のないように。『店舗内通路の拡大』は、近年店が混んできたので、少しでも心地よく買い物をしてもらえるように。古くなってきた『床の張替え』も同様。すベて『顧客のため』です。一方、売り場面積に関しては、倉庫や調理スペースを広げ、店舗内通路を広げたことで、少し減りました。
2か月も休んで売り場面積を減らすとは、面積や品揄えの豊富さこそが売上だと思っている人から見れば、『何をやっているんだ?』という話ですが、鈴木さんはこう言います。『お客さんが居心地よく買い物できて、スタッフが働きやすい環境を整えることが、店の価値を上げることにつながって、結果ファンが増えて、業績が生まれると理解しています。改装したら、店の価値が上がる=業績が上がるので、今回2か月休むことも、まったく心配していません。というか不安がありません』」(140ページ)
売上を増やすためには、売り場面積を増やるという考え方は常識的な考え方です。ただ、最近は、これ以外の要素も売上に影響していると考えなければならないようです。そのひとつが、エスマートのように、顧客がストレスを感じないような店舗にするということのようです。別の事例では、コメダ珈琲店の駐車場の設計の例があります。ジャーナリストの谷頭和希さんが東洋経済オンラインに寄稿した記事によれば、コメダ珈琲店の店舗は、『駐車場から設計されている』すです。
その記事によれば、コメダ開発部門統括の専務の高橋敏夫氏は、「駐車場が狭いと顧客にとって良い印象が残らないため、必ず駐車場のスペースを十分に確保してから店舗を設計する」と答えているそうです。これは、運転があまり得意ではない女性や高齢者が自動車を駐車するときにストレスを感じないようにすることで、同店の好感度を高め、来店を促す狙いがあるようです。また、駐車場から店舗に入るまで、階段などは作らず、歩きやすいような配慮もしているようです。
同店はコロナ禍でも業績を伸ばしたそうですが、その要因はストレスを感じない店舗設計も重要な要因となっていると考えることができます。私も、エスマートやコメダ珈琲店のような事例だけで業績を高めることができるとは考えていませんが、かつてのように、商品で差をつけることが難しくなってきている現在は、顧客がストレスを感じないようにするという要素の重要性は高まっていることに間違いはないと思います。
2025/9/17 No.3199
