[要旨]
会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんによれば、独立開業した直後は、顧客が少ない一方で、店舗の家賃や従業員の給与など、固定的な支出が多いために、すぐに手元資金が底をつき、さらには、銀行に融資の返済も行わなければならないため、経営者の方は想定以上に金策に苦しむことが多いことから、十分に慎重な計画を立ててから開業することが望ましいということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんによれば、融資はなるべく利用しない方が望ましいものの、融資を受けざるを得ないこともあるので、そうであれば、業績が好調なとき、すなわち、融資を受ける必要がないけれど銀行が融資をしたくなるタイミングで融資を受けることが、パワーバランスの観点からも有利な条件で契約できるということについて説明しました。
これに続いて、中谷さんは、独立開業時の注意点について述べておられます。「通常、初出店の際には、駅前やロードサイドなどの好立地にテナントを探すことからスタートする。商売をやろうという人なら、周辺価値の重要さなど、教わらなくても本能的に知っているからだ。そこで運よくいい物件に出合えたとしよう。そのテナントを契約するにあたり、まずは保証金、仲介手数料、前家賃などの必要経費が発生する。
そしてその後には、造作工事費、備品、仕入れなどの開業資金が必要となり、まだ1円の売上も上がっていないにもかかわらず、開店準備の最中にもテナントの家賃は計上され、研修期間中にもかかわらず社員の給料は発生する。さらには自分自身も店舗に近いマンションなどへと引っ越した場合、プライベートにおいても敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、そして引っ越し代ほか諸々のお金が、まるで羽が生えたように出ていくことになる。
何とかそれを乗り切り、めでたくオープンまで漕ぎつけたとする。しかし、本当の地獄はここからだ。毎月月末には、店舗と住まいのダプル家賃が引き落とされ、造作工事のローン返済とリース料の支払いなどが追い打ちをかけてくる。もちろん人件費だって軌道に乗るのを待ってはくれない。社員にもそれぞれの生活があるから、どんなに従順な社員でも、金の切れ目は縁の切れ目である。
こうして自転車を漕ぎ漕ぎやりくりし、ようやくお店が軌道に乗ってきたという頃に、満を持して確定申告の時期が訪れる。なけなしの預金から泣く泣く税金を捻出したその後、凹む間もなく今度は住まいの更新時期が訪れる。さらに1年後には店舗の更新。通常はどちらも、家賃の2カ月分ほどの更新料が必要だ。こんな感じであたふたしているうちに、今度は古くなってきた店の備品が壊れ始める。中でもエアコンやポイラーなんかがイカれた日にはけっこう痛い。100万円近い現金が一気に吹っ飛ぶことになるからだ。
しかもこういったトラプルはどういう訳か同時多発的に襲ってくるから不思議である。こんなふうに支払いの嵐に追われているうちに住まいの方は2度目の更新。もちろん立て続けに店舗の更新もやってくる。そして、この時期になると造作のあちこちが傷み始め、そろそろ改装も考えなければならない……。いかがだろう?自営だって、何も考えずに始めてしまうとけっこう大変だ。『これなら従業員として使われている方がマシだった』なんて声を聞くのはこのためである」(182ページ)
よく、独立開業をしたものの、うまく行かなかった人から、「借金なんてするものではない」という話をきくことがあると思いますが、そのような人は中谷さんがご指摘しておられるようなことを経験したからではないかと思います。このような話を聴くことは珍しくないものの、同じような「失敗」をする人がなかなか減らないというのも、私としては、ある意味で不思議に感じています。では、なぜ、このような「失敗」が繰り返されるのかというと、私は、大きく2つの原因があると考えています。
1つ目は、独立開業をする人は、自分の能力を過信し、独離開業後の業績を楽観的に考えてしまうからだと思います。よく、「創業融資を銀行に申し込んだが、融資承認が得られなかった」という話をききますが、融資承認が得られない理由として考えられることは、1つ目は、前述のように、経営者の方の事業の見通しが楽観的であると銀行が判断することと、もうひとつは、仮に経営者の方の見通しの通りに事業が展開するとした場合、その根拠が乏しい(すなわち、計画づくりが粗い)ということが考えられます。
したがって、経営者の方としては独立開業を前にして、労力は最小限にしたいと考えていると思いますが、もし、開業をするにあたり融資を利用したいのであれば、融資契約の希望日の6か月くらい前から銀行に融資の相談を行い、両者の見解が一致するようにすることが、融資承認を得られる近道となるでしょう。
これとは逆に、経営者が単独で開業の準備を進めて行き、開業予定日の1か月前に銀行に融資を打診しものの、承認を得ることができなかったということになれば、開業の準備も無駄になります。また、銀行の判断が必ずしも正しいとは限りませんが、経営者の考える事業計画の見通しを第三者である銀行の目でも見てもらうことは、単独で考えるよりは、見落としている点などを指摘してもらえることもあるので、より確実性の高い計画をつくることができると言えます。
失敗の理由の2つ目は、開業に必要な資金に占める自己資金の割合が低いことです。もし、自己資金の割合が高ければ、仮に、開業後の事業展開が見通しよりも悪化してしまったとしても、その分「借金」の返済負担は軽くなります。このことは当然なのですが、前述したように、独立開業を目の前にしている経営者の方は、独立開業後の事業展開を楽観的に考える傾向があるため、事業を拡大しようとしてしまい、自己資金割合が低くなりがちです。
そこで、資金計画については、少々、厳しく見積もる方が望ましいと、私は考えています。ただ、このように書くと、単純に計画は悲観的に考えればよいと受け止められてしまうかもしれません。しかし、これまで私が事業改善をお手伝いしてきた会社の中には、新たな事業進出のときに、計画以上に来客があり、すぐに店舗のキャパシティを超えてしまったという事例もありました。
ですから、必ずしも、計画を悲観的に策定することが正しいとは限らないのです。でも、悲観しすぎて収益機会を失うことと、楽観しすぎて損失を負うことは、経営資源の少ない中小企業にとってどちらが大きなダメージになるかというと、後者の方でしょう。特に、黎明期の会社にとっては、失敗はほぼ許されないわけですから、計画はワーストシナリオをもとに策定することが、成功する確率を高めることになると、私は考えています。
2025/9/11 No.3193
