鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『美容業界』は『教育産業』

[要旨]

会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんによれば、中谷さんのように技術をウリにする職種が属する産業は、教育産業と考えなければならず、なぜなら、プロとしてはあたりまえの専門知識を、素人であるお客樣にわかりやすく伝え、正しい知識をお客様に植えつけていくことは、絶対的な信頼を生み出すからだということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんさんによれば、顧客が店に来ない理由は、顧客が店に来ない理由があるからではなく、(1)商品のよさがわからない、(2)あなたから買わなければいけない理由がわからない、(3)なぜ今なのかわからないという、3つの「わからない」理由によるものだからだということについて説明しました。

これに続いて、中谷さんは、顧客を啓蒙することの大切さについて述べておられます。「お客様との信頼関係を築くための第一歩は、プロとしての知識を一つひとつ教えてあげることである。例えばブラック・ジャック並の名医でも、今の時代は説明が不十分では信用されない。本当なら助からないはずの命を救い、感謝されるベきところが、反対に訴えられる危険さえあるのだ。へアビジネスが生活者に本当にアテにされるブランドに育つためには、髪について何か問題が生じた時に、真っ先に思い浮かベてもらえる存在になるための努力が必要だ。

ただ単に髪を短くするだけなら、駅前の1,000円カットで十分ということになる。ゆえに、まずはお客様にプロとしての知識(技術内容や薬剤の効果など)を、一つひとつきちんと説明することから始まる。『どうせ素人にはわからないから』との理由で説明を怠れば、せっかくのサービスも伝わらず、何の価値も生まないのだ。あなたがもし、僕らと同じ技術や商品を売る職業を営んでいるとすれば、自分たちの職種カテゴリーは『教育産業』であるという自覚を持つとよいだろう。

さらにプロとしての知識を伝える重要性と同様にお店の『想い』、そして『こだわり』を伝えることも大切である。僕らはどんな想いを抱いて商売を営んでいるのか。そしてお客様に提供する技術や商品に込めたこだわりを伝え続けることが重要なのだ。伝えなければ伝わらない。伝わった先からストーリー、つまり物語が始まるのだ。売るとは教えること。教えることは人を安心させてあげることである。そして、決して大げさではなく、教えるとは人を幸せにすることだ。

プロとしてはあたりまえの専門知識を、素人であるお客樣にわかりやすく伝え、正しい知識をお客様に植えつけていくことは、絶対的な信頼を生み出す。よく、信頼はお金で買えないというが、裏を返せぱ信頼はタダで買える。ここでお金云々を持ち出す輩は、あたりまえの情報を出し惜しみしているか、伝える努力を怠っているだけのように思えてならない。あなたのお店にいながら『他所ではこの店と同じサービスを受けることができない!』と、お客様が潜在意識で感じた瞬間、それは浮気のできないお客様、つまりあなたのお店のファンが誕生した瞬間だ」(39ページ)

前回の記事では、自社の商品が売れない理由は、自社の商品のことを顧客が知らないからということをお伝えしましたが、それは、裏を返せば、自社の商品が売れるようにするために、自社の商品のことを顧客に知らせる活動が必要であるということになります。ここで、例えば、中谷さんのような美容師の方で言えば、「自分は美容師であり、顧客を教育するために美容師になったのではない」というようなことを考える方も少なくないと思います。

確かに、かつては、「製品を造れば売れる」(生産志向)、「よい商品であれば売れる」(商品志向)という時代があり、そういう時代であれば、「腕のいい美容師のいる店は繁盛する」ということになるでしょう。しかし、現在は、マーケティング志向の時代であり、前回お伝えしたように、なぜ、自社の商品を買うべきなのかが潜在顧客に伝わらなければ、その潜在顧客はお店に来てくれない時代です。そのような状況を指して、中谷さんは、自社を教育産業と考えるようにすべきと述べておられるのだと思います。

そういう私も、現在、同じことで悩んでいます。というのは、失礼ながら、多くの中小企業経営者の方は、「明日からすぐに効果が出る事業改善策を教えて欲しい」と経営コンサルタントに望んでいるのが現実です。確かに、少し工夫すれば、事業が改善するノウハウはあるので、それをお教えすれば、その会社は業績が改善することがあります。でも、そんなノウハウは、他社でもすぐに実践できるので、根本的な改善とは言えないと、私は考えています。

根本的な事業改善は、自社の環境分析(外部環境分析と内部環境分析)を行ったうえで、それに基づいた精緻な経営戦略を策定し、それが完全に遂行できるように、失敗を繰り返しながら活動する中で、他社にまねできない競争力を身に付けていくことだと、私は考えています。そして、VUCAの時代は、「明日からすぐに効果が出る改善策」はほとんど効果がなく、前述のような方法でしか事業改善ができないのですが、これを理解してくれる経営者の方は、割合としては低いのが現実です。

そういった面で、私の労力の大きな部分は、「顧客教育」に割かれています。話を戻すと、現在の経営環境は複雑だからこそ、中谷さんがご指摘しておられるように、これからは顧客の教育の重要性を認識し、事業活動に臨まなければならないと言えるでしょう。

2025/9/1 No.3183