[要旨]
会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんによれば、顧客が店に来ない理由は、顧客が店に来ない理由があるからではなく、(1)商品のよさがわからない、(2)あなたから買わなければいけない理由がわからない、(3)なぜ今なのかわからないという、3つの「わからない」理由によるものだからだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんさんは、かつて、売上が減少したときに、それを回復させようとして、安売りキャンペーンを実施したものの、その効果は一時的であり、すぐに売上は減少しただけでなく、店のイメージも安い店となってしまったり、横柄な利用者が増えて従業員のモチベーションが下がったりしたため、安売りキャンペーンは避けた方がよいと考えるようになったということについて説明しました。
これに続いて、中谷さんは、お店に顧客が来ない理由について述べておられます。「へアビジネスは僕にとって天職のはず。なのに、こんなに仕事が楽しくないなんて……。何かが間違っているのはわかるが、その“何か”がサッパリ見えてこない。そんな時、ふと立ち寄ったコンビニで1冊の本が目にとまつた。後にこの本がきっかけで出会うことになる小阪裕司先生(著者)のこの一言で僕は我に返ったのである。『あなたはなぜ今のビジネスをやっててるのか?その問いへの答えがなければ、ビジネスはただの集金活動になってしまう』ビジネスモデル(金儲け)としては正しくても、ビジネススタイル(稼ぎ方)としては正しくないこともある。着眼点が違っていたのだ。
僕がしっかり見なければいけなかったのは、帳簿ではなくて、人の心。『どこ見てたんだよまったく!』という話である。人にはそれぞれ優先順位がある。単純に安売りでお客を集めれば、飲食店でいえば『食』に、美容室でいえば『美』に、それぞれ無頓着なお客を集めることになる。『食』を第一に考える人はおそらく100円ショップで食料品は買わないし、『美』に対する意識の高い人は間違ってもカット1,000円のへアサロンには行かない。反対に『食』に無頓着なお客は不況になると真っ先に食費を切り詰め、『美』に無頓着なお客は真っ先にへアサロン代を節約しようとするのである。
つまり、あなたが提供する商品を第一優先に考える人種を顧客にしなければ、景気に振り回され、とことん不安定な経営を強いられるというわけだ。だから、あなたの職業が正当な価値交換をできる相手を選び、自分の土俵で相撲を取ることが重要なのである。ミーハー客、そしてOFF狙いのお客は、たとえどんなに好みのタイプでも相手にしてはいけない。はじめからあなたの誠意や真心が通じない相手なのだ。先の見えない時代を生き抜く僕たち商人がしっかりと向き合わなければいけないのは、数字でも、銀行でも、税務署でもない。価値を通じてわかり合える『質の高いお客様』である。(中略)
コンビニで小阪裕司先生の本と運命的な出会いをしてからの僕は、なりふり構わず必死にマーケティングを勉強し、そして実践した。貯金を切り崩し、休みも削って、高額のセミナーや合宿にも積極的に参加した。その甲斐もあってか、操縦捍が折れたままで急降下を続けてきた我が店の売上は、地面スレスレでようやくその重い身体を上昇させ、なんとかかつての軌道を取り戻そうとしていた。そこで得た答えを話そう。あなたの会社や店舗がいま現在儲かってないとしたら、その理由はひとつしかない。『誰も知らないから……』、それだけである。
十中八九小さなお店が儲からない理由は、突き詰めればたったこれだけの理由だ。例えば、長年地域に根ざしている老舗店舗の経営者になるほど、自分の店を知らない人はいないくらいに思っている。だが、果たして本当にそうだろうか。試しに駅前で通りすがりの人に『○×屋ってどこですか?』」と訊ねてみてほしい。きっとその残酷な結果に愕然とすることだろう。生活者というのはそれぐらい、周りの風景を気にしていない。ましてや自分の生活に関係のない商店など、最初から眼中にないのだ。
そして、誰もが知っているほどの店ならば、まがりなりにも多少は儲かっているはずなのである。仮に、あなたの店の屋号ぐらいは知られていたとしょう。でも、あなたの提供する『商品』や『技術』の価値、あるいはそれに込められたあなたの『想い』や『こだわり』を生活者は知らないのだ。商品が売れない理由は、この3つしかない。(1)商品のよさがわからない。(2)あなたから買わなければいけない理由がわからない。(3)なぜ今なのかわからない。つまり、お客は来ない理由があるから来ないのではなく、以上の3つがわからないだけなのである」(29ページ)
前々回の記事で、「日本人の80%は味音痴」ということに触れましたが、経営者の方の多くは、自分の専門分野については、当然、詳しいので、専門分野でない「顧客」もある程度は自分の専門分野に詳しいと考えてしまいがちです。そこで、自社製品が顧客から評価されない(売れない)ときに、単に、顧客の専門性が低く、自社製品を正しく評価できない場合であっても、経営者の方は、「自社製品のどこに問題があるのだろう」と考えてしまうことがあるのではないかと思います。
そこで、自社製品が売れない理由は、中谷さんがご指摘されておられるように、商品のよさがわからない、あなたから買わなければいけない理由がわからない、なぜ今なのかわからないからだという前提で、これらを解消すれば、売上が増える可能性が高まります。ところが、これは、私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることなのですが、顧客が来ない理由の3つへの回答を示すことができない経営者の方は少なくないように感じています。
これは、私も、ときどき、経営者の方に質問するのですが、「あなたの会社の製品はすばらしいということは分かりましたが、それでは、そのすばらしい製品を顧客が購入する場合、他社からではなく、あなたの会社から購入する理由は何ですか?」、すなわち、中谷さんのご指摘する(2)の質問をすると、明確に答えられる経営者の方はあまり多くありません。この問いに答えることができない経営者の方は、中谷さんの表現を借りれば、「あなたの職業が正当な価値交換をできる相手を選び、自分の土俵で相撲を取ること」をしていないからだと思います。
この「土俵」は、別の言い方をすれば、事業ドメインといいますが、事業ドメインを明確にしていないと、例えば、高級ヘアサロンの経営者が、普段は1,000円カットサロンに行くような「美」に無頓着な人にアプローチをしてしまうということが起きてしまいます。もちろん、事業ドメインを明確にすれば、すべてが解決するというわけではありませが、事業ドメインが不明確、または、設定していないという経営者の方は、事業ドメインを明確にして、それに基づいた事業展開をするだけでも、事業活動は効率化し、売上の改善が期待できると思います。
2025/8/31 No.3182
