鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

プライスOFFキャンペーンは麻薬?

[要旨]

会員制ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんは、かつて、売上が減少したときに、それを回復させようとして、安売りキャンペーンを実施したそうです。しかし、その効果は一時的であり、すぐに売上は減少しただけでなく、店のイメージも安い店となってしまったり、横柄な利用者が増えて従業員のモチベーションが下がったりしたため、安売りキャンペーンは避けた方がよいと考えるようになったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、ヘアサロン、ルパッチインターナショナルのオーナーの中谷嘉孝さんのご著書、「リピート率90%超!あの小さなお店が儲かり続ける理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、中谷さんによれば、日本の美容業界では、実力があるというだけでは必ずしも業績がよくなるとは限らないので、しかるベきPRにより、生活者に「買うベき理由」、すなわち「価値」をきちんと伝えなければならないということについて説明しました。

これに続いて、中谷さんは、値引きキャンペーンは結果としてあまり効果がないということについて述べておられます。「そんなこんなで、ミーハー客に散々振り回されたその後、不況はさらに深刻化。我がへア業界もデフレの波に飲み込まれていった。そして、当然の流れで資本力のある企業が業界を侵食し、駅前にはカット1,000円の量販格安サロンが破竹の勢いで増殖していく。

当然、そっちに流れるお客がひとり、またひとりと出るたびに焦りは増していくわけだが、もともと技術屋集団であるへア業界のマーケティング能力は極めてゼロに近く、当然僕もその中のひとり。思いつく集客の最終手段は、キャンペーンという名の安売りだった。ところが、蓋を開けてみれば案の定、安売りで集まるお客は、やっぱり安いのである。ミーハー客同様に、プライスダウンで集客すると、あたりまえだがプライスダウン目当てのお客しか集まらない。つまり、品質に響いたわけではなく、OFFに響いたお客だから、OFFを止めれば、蜘蛛の子を散らすように去っていくのだ。

そんな調子で、キャンペーンが終わるとパッタリと客足は途絶えた。そして、よそがキャンペーンを始めれば、キャンベーンハンターは一目散にそっちへ流れる。だから、一度始めたらキャンペーンはやめられない。そのうちにお店そのものの価値までも軽く見られ、横柄な客が増えるほどにスタッフのモチベーションも下がっていく。それでも安売りをすると途端に数字は上がるものだから、ビジネスとしては成功していると勘違いしてしまう。“キャンペーンは麻薬”とはまったくうまい例えである。安売りで呼んだお客とは、技術や心で繋がっているわけではない。

一生懸命尽くしたところで必ずしもリピートには結びつかない。愛が通じない客を相手にする日々が統くと、どんなに店が忙しくてもなぜか満たされない。毎日がぜんぜん楽しくないのだ。集客テクニックとしては正しくても、生き方としては正しくないんじゃないか?この問いの答えを模索する日々が続いた。『本当の答え』は休み休みでなく、考え続けた先にある。そう信じ、自問自答を繰り返した。集客以前に、このへア業界に未来はあるのだろうか?そもそも商売を営んでいる意味って何?そんな数々の壁にぶつかりだしたのも、この頃だった」(27ページ)

私がフリーランスになったばかりのころ、やはり、なかなか仕事が得られなかったので、安売りキャンペーンを繰り返しました。しかし、中谷さんがご指摘しておられるように、安売りキャンペーンに反応するクライアントは、私を評価しているのではなく、価格を評価しているので、そのようなクライアントは、価格が安くなければ契約を継続してくれません。それでも、「売上がまったくないよりは、報酬額が安くても、仕事がある方がまし」と考えて、安売りキャンペーンを続けていた時期がありました。

このようなことは、後になってみれば徒労でしかないということが分かるのですが、当時は、仕事がないとコンサルタントとは言えないという不安を消すために、非論理的なことをしていたわけです。コンサルタントでありながら、自らはコンサルタントらしからぬ行動をしていと言えます。だからといって、私は、安売りキャンペーンはまったく意味がないとも考えていません。特に小売業などの場合は、潜在顧客に実際に店舗に足を運んでもらうきっかけにしてもらったり、他の商品をついで買いしてもらったりするという効果はあるでしょう。

しかし、安売りキャンペーンに頼ってばかりいれば、根本的に業績は向上しません。自社の事業の魅力を高めるという根本的な活動に力を注ぐ中で、それを補足するために安売りキャンペーンを行うことに意義があると思います。上から目線で恐縮ですが、かつての私のように、「売上が減ったらどうしよう」という不安を消す目的や、事業の魅力を高める活動をせずにすまそうという目的で安売りキャンペーンを繰り返して行けば、早晩、事業は行き詰まることになるでしょう。

2025/8/30 No.3181