[要旨]
経営コンサルタントの長谷川和廣さんによれば、商品企画の理想は、シーズとニーズが合致した状態での商品化だそうですが、現実はそれほど都合良く進まず、リーダーは、シーズとニーズがかみ合っていない状態で商品化の決断を迫られるので、このようなときは、市場のニーズを優先し、シーズに合致する点を探って行くという姿勢をとることが基本ということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの長谷川和廣さんのご著書、「2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長谷川さんによれば、PDCAが会社を効果的に操縦する手法であることは間違いないものの、本当の意味でPDCAを理解し、かつ効果的に活用できている会社は少なく、それは、根本的な問題・課題を見抜かないまま、計画を作っているからであり、情報の収集・分析で課題を見極めたうえで解決すべき目標を定め、計画を立案・実行しなければならないということについて説明しました。
これに続いて、長谷川さんは、シーズよりもニーズを優先することが望ましいということについて述べておられます。「商品企画の理想は、シーズとニーズが合致した状態での商品化です。しかし、現実はそれほど都合良く進まず、リーダーは、シーズとニーズがかみ合っていない状態で商品化の決断を迫られます。このとき、いったいどちらを優先すべきなのか。私の答えは決まっています。迷ったら、市場のニーズを選ぶ。これが鉄則です。
シーズを優先した商品は、いわば三振の多いホームランバッターです。現状では市場に求められていないものを提案するのだから、外れる確率が高いのは当たり前。しかし、うまくマッチしてニーズを掘り起こせれば市場をほぼ独り占めして、爆発的なヒットになる可能性もあります。一方、ニーズから発想を始めた商品がまったく売れないというケースはまれです。市場の要望を商品化しているのだから、これは当然です。ただ、表面化したニーズは他社もよくわかっているため、競争が厳しく、市場の独占は困難。野球で言えば打率はそこそこだが単打ばかりのアベレージヒッターというところでしょう。
このように穴の多いホームランバッターばかりの打線と、つなぐ野球で点を取りにいく打線とでは、どちらがより勝利に近づけるか?現代野球では、明らかに後者です。これは商品企画でも同じです。ハイリスク・ハイリターンな商品企画に睹けるより、確実性の高い商品企画で積み重ねていったほうが利益は出ます。まずはニーズとシーズが合致する点を探り、うまくかみ合わない場合は、ニーズから商品を企画してシーズが育つのを待つ。これが商品企画における正しい考え方です」(110ページ)
念のため、ニーズとシーズの違いについてご説明しますと、ニーズとは顧客の要望であり、シーズは収益につながる会社の技術や独自能力を指します。したがって、ニーズに応えようとする商品開発はマーケット・イン型の商品開発であり、シーズを活用とする商品はプロダクト・アウト型の商品です。前者の事例では、酔うことができないけれどビールを飲みたいというニーズに応える商品である、ノンアルコールビールが挙げられます。後者の事例では、iPodに電話の通話機能を組みこんだiPhoneが挙げられます。
話を戻すと、長谷川さんがご指摘しておられるように、マーケット・インの商品はローリスク・ローリターンであり、逆に、プロダクト・アウトの商品はハイリスク・ハイリターンです。そうであれば、経営資源が比較的少ない中小企業は、マーケット・インの商品を提供することが基本ということは間違いありません。ただ、経営者の方の中には、マーケット・インの商品ばかりでは物足りないと考える方も少なくないと思います。そこで、いつかはプロダクト・アウトの商品を世に送り出して、場外ホームランのような大ヒット商品にしたいと考えておられるでしょう。
もちろん、中小企業でも大ヒットしたプロダクト・アウトの商品を開発している事例は少なくありません。例えば、神奈川県横浜市にあるテクニカンという会社は、1989年に「凍眠」という液体凍結機を開発しました。凍眠は、マイナス30度のエチルアルコールで、魚や肉を急速に凍らせるのですが、このとき細胞が壊れないので、解凍したときに、冷凍させる前と同じ味を出せるということです。凍眠は、現在は、約2,000社で利用され、同社の2020年度の売上は8億8,600万円までになっているそうです。
しかし、この製品は当初はまったく引き合いがなく、10年後にようやく売れ始めたということです。すなわち、プロダクト・アウトの製品は、安定的な利益をもたらさないことから、事業活動を維持するためにも、プロダクト・アウトの製品だけに頼ろうとせず、安定的な利益を期待できるマーケット・インの製品も開発することが欠かせないと言えます。したがって、マーケット・インの製品をつくりながら、プロダクト・アウトの製品も狙っていくというスタンスが大切だと、私は考えています。
2025/8/28 No.3179
