鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

プラス思考は意識しなければ身につかない

[要旨]

経営コンサルタントの長谷川和廣さんは、プラス思考というのは、あえて意識して持とうと思わなければ身につかない思考なので、常にプラス思考を意識して仕事に臨まなければ、良い成果も得られないということです。そして、上司は部下に対して、プラス思考を持っているかどうかもきちんと評価しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの長谷川和廣さんのご著書、「2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長谷川さんは、プロフェッショナルの人とは、華々しいファインプレーを連発するする人のことをイメージされがちですが、実際はそうではなく、エラー(取りこぼし)をしない人だということであり、なぜなら、そのような人の方が、安定的に成長するからで、上司はそのような人に仕事を任せたいと考えるということについて説明しました。

これに続いて、長谷川さんは、意識してプラス思考を持つことが大切ということについて述べておられます。「ある大学の心理学の授業で、学生たちに思いつくだけの『プラスの言葉、マイナスの言葉』を対比で書かせたそうです。たとえば『彼は頭が良い、彼は無能だ』、『彼はスマートだ、彼はデブだ』、『先生の言い方はきついがためになる、先生の言い方はきつくてトゲがある』という風に。すると、マイナスの表現のほうが多く出てきたというのです。

これは何を意味するのでしょうか?先生が言うには、普段から世の中をマイナスの感情で見ている人が多いということです。よく『プラス思考が大切だ』といわれます。仕事も一緒で、上司は部下の発言から、その辺りを見極めています。上の例は大学生のケースでしたが、彼らのマイナス思考が社会人になって、すぐにプラス思考に変わるとは考えられません。プラス思考というのは、あえて意識して持とうと思わなければ身につかない思考だからです」(77ページ)

長谷川さんは、「プラス思考というのは、あえて意識して持とうと思わなければ身につかない思考」ということは、多くの方が同意されると思います。すなわち、人は意識していなければ、物事をネガティブに捉えてしまうということです。そして、ネガティブな意識を持って行動をすれば、それは成果にも悪影響を与えるわけですから、事業活動が成功するかどうかは、ポジティブな意識を持つことができるかどうかが重要な要素になると言えます。

このことについて、私は、若き日の稲盛和夫さんが松下幸之助さんの講演を聴いたときのエピソードを思い浮かべます。「松下さんは、ダムをつくって常に一定の水量を保つような、余裕のある経営をやるべきだというダム式経営の考えを話されました。講演のあと、一人の聴講者が立って、『私も経営者の一人として、余裕をもたねばならないという考えはたいへんもっともだと思う。しかし、私どもの企業は、今、現に余裕がない。その余裕をつくり出すためには、いったいどうしたらいいかを教えてほしい』と質問されました。

まさに聞きたいところで、一同、思わず身をのり出して、松下さんの答えを待ちました。すると松下さんはにっこりとして『そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけれども、まず、余裕がなけりゃいかんと思わないけませんな』とおっしゃいました。皆は一瞬失望して『全然回答になっていない』と声に出して言う人もおり、会場はざわめきました。しかし私はそのとき、鉄槌で打たれたように非常な感銘を受け、これだと思いました。

松下さんは『こうありたいと思わなかったら、絶対そうはならない。まず、思うことが大切で、理想を持ちながらも、それは理想にすぎず、現実にはむずかしいという気持ちが心の中にあっては、ものごとの成就が妨げられる』ということをおっしゃったのだと私は思いました。以来、私は、『こうありたい』と強く思うことがすべてのスタートになるということを経営理念のべースにおき、若い人々にも松下さんのお話を繰り返し説き続けています」

少し話が外れるのですが、松下さんに「どうすればダム式経営ができるようになるのか」という質問した経営者がいたように、私のようなコンサルタントに対して、「業績を回復するにはどうすればよいのか」という質問をする経営者の方は少なくありません。だからといって、私は、その質問に回答を拒むことはせず、その時点で考えられる方法をお答えするようにしています。ただ、他人から聞いた方法というのは、どうしても受動的にしか実践できません。

というのも、「もし、この方法でうまくいかなかったら、この方法を教えたあの未熟なコンサルタントの責任だ」と頭の中で考えているからです。もちろん、コンサルタントは経営者の改善活動の支援や助言を行うためにいるわけですから、コンサルタントの支援や助言を活用することは当然です。しかし、どのような改善策を実践するのかは、最終的には経営者自身の責任で自ら意思決定したものとして実践しなければ、その後の活動に身が入らず、改善活動の結果もあまりよくないものとなってしまいかねません。

2025/8/23 No.3174