鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

利益を得るには必要な投資を最大限行う

[要旨]

経営コンサルタントの長谷川和廣さんによれば、競争が激化すると、コスト削減を行おうとする会社が現れますが、これは誤りで、最大の利益を得るために必要な投資を最大限に行わなければならないということです。そして、コスト削減という言葉は、従業員たちに、「何もしないほうがマシ」という発想を植え付けてしまい、事業活動の競争力が下がることになるということに注意が必要だということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの長谷川和廣さんのご著書、「2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長谷川さんによれば、販売代金が入金になったときは、お客様にお礼のひとことを伝えるべきで、なぜなら、売上は現金化して初めて利益が確定するからであり、もし、営業マンが回収のことを考えずに、売上の数字を多くすることに力を入れるようになると、それは、必ずしも会社の利益を増やすことになるとは限らないからということについて説明しました。

これに続いて、長谷川さんは、利益を得るためには、コストを抑えるのではなく必要な投資を行うべきということについて述べておられます。「市場競争が激化すると、企業はいかにコストをカットするかの競争になってきます。もちろん収益を確保するためにはコスト削減は必要不可欠。しかし、コストを削減した結果、売り上げや利益が下がってしまったという企業も珍しくありません。

接待を禁止したせいで大口の取引先を失う、人件費削減のためにリストラしてその分をアルバイトで埋めようとしたら、彼らの能力があまりに低くて現場が混乱したなど、本末転倒のコスト削減は枚挙にいとまがありません。実は、真にコストパフォーマンスを求めるということは、『最小の投資で最大の利益を得る』では不正解。『最大の利益を得るために、必要な投資を最大限に行う』というところから考えるべきだと、私は思います。企業がまず考えるべきは、『初めにコスト削減』ではなく『初めに利益ありき』ということ。

私は細かいコスト削減も徹底的に行いましたが、同時に問屋筋の皆様をハワイ旅行にご招待するなど、業界中が驚くような大胆な投資も行ってきたのです。なぜ『最小の投資で最大の効果』を狙うことがダメなのか、突き詰めて考えてみましょう。あなたが営業マンだったとします。コスト削減を第1に考えるなら、一切飛び込み営業などせずに、お得意様ばかりをルート営業すればいいわけです。交通費も労力もかからないですし、残業も減るので余計なコストは削減できます。しかしラクをした分、当然、営業成績は下がります。

次に『最大の利益を得るために、必要な最大投資を行う』というスタンスの営業を想定してみましょう。まずルート営業の成績をほとんど落とさずに、時間を作るために何ができるかを考えます。毎日回っていた訪問を1日おきにする、電話ですむことは電話ですます、受注システムを簡略化するなどして効率化を進めます。そして空いた時間を新規開拓に充てるのです。コスト削減という言葉の怖いところは、手抜きを誘発する点。『何もしないほうがマシ』という発想は、経営者にとっても社員にとっても命取りになります。

私が50億円の赤字を抱えていたニコン・エシロールで実行したコスト削減の手法は『総量規制』と『ゼロベース予算管理』です。『総量規制』とは、項目の量を問わず、総量を上回らないように規制することで、製造費の削減に効果的です。人間は不思議なもので『30日間、ランチは毎日500円』と決められるより、『1万5000円でやりくりしなさい』と言われたほうが気持ちがラクになり、工夫する楽しみを感じます。つまり、現場の裁量に任せるほうが高いモチベーションを維持できるのです。

『ゼロペース予算管理』とはカーター元米大統領が考案した手法で、予算案を前年べースで考えるのをやめて、1から各部門に予算を割り当てることです。年末の駆け込み工事のような予算確保のためだけのムダ使いが減るだけでなく、必要なものにはきちんと予算をつけるわけですから売り上げに影響を及ぼしません。ニコン・エシロールではこの2つの方法で製造部門は20%、営業・一般部門で30%のコストを削減しました」(47ページ)

例えば、100万円のコスト削減を10年間続けるよりも、1,000万円の投資を行って200万円の利益を10年間獲得することの方が正しい判断だということは、誰でも理解できます。しかし、特に会社の業績があまりよくない時は、1,000万円の投資を行って、それが失敗してしまうと、さらに会社の業績に悪い影響を与えてしまうという懸念もあることから、支出を増やす決断を行うことは、実際には行われないことが多いようです。

しかし、長谷川さんが、「コスト削減という言葉の怖いところは、手抜きを誘発する点。『何もしないほうがマシ』という発想は、経営者にとっても社員にとっても命取りになります」とご指摘しておられるように、コスト削減は、従業員の方たちの士気に悪い影響を与え、事業活動の競争力を弱めてしまいかねません。

確かに、事業活動におけるリスクは避けなければなりませんが、そもそも、果敢にリスクに挑むことに事業活動の意義があります。(なお、誤解を招きやすいのですが、リスクに挑むことと、運任せで活動することは異なりますが、これについてはここでは説明は割愛します)すなわち、大切なことは、コスト削減を目的化せず、利益を得ることが最終的な目的であることを忘れられないよう、経営者の方は、従業員の方たちに対して働きかけを行わなければならないということだと思います。

2025/8/16 No.3167