[要旨]
ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんは、エステ業界のクオリティーのばらつきがあり、これが、エステ業界の発展を妨げる要因のひとつになっていると考えたそうです。そこで、エステ業界の底上げができれば、より多くの顧客に喜んでもらえると考え、2013年にサロン向けのスクールである「リセラアカデミー」を開講し、肌理論や実技、接客に必要なマナー、さらに店舗のマネジメント、経営に必要な知識などを指導するようにしたそうです。
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今回も前回に引き続き、ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんのご著書、「社長の仕事は人づくり」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、かつて、奥迫さんは、部下に対して怒鳴ることがあったそうですが、新卒採用を始めてから、新卒の従業員を見て、社会人として勉強する機会がなかったのに、怒鳴るようなことをしてはかわいそうだと感じるようになったこtから、一歩引いて接するようにしたところ、部下たちから悪い情報が届くようになり、ボトムアップ型で自律的な活動ができる会社になったということについて説明しました。
これに続いて、奥迫さんは、エステ業界の底上げのために、エスティシャンの養成を行っているということについて述べておられます。「ドクターリセラの使命は、多くのお客様を幸せにすることです。この使命の実現にあたって、長らく気になっていたことが一つありました。それはエステ業界のクオリティーのばらつきです。エステティシャンに、美容師や理容師のような国家資格は必要ありません。極端な話、誰でもその気になればエステティシャンを名乗って開業することができます。門戸が広いことは基本的にいいことだと思います。
しかし、それゆえに玉石混交でなかにはお客様を満足させることができないところも存在します。これは私たちの直接のお客様であるサロン様にもいえることです。現在、ドクターリセラにはお得意先様の口座が2,700あります。有名なエステチェーンでも全国で100店舗であることを考えると、エステ業界で有数のネットワークといえます。ただ、それだけの数があれば、エンドユーザーであるお客様を幸せにできるだけの知識や技術が水準に達していないサロン樣もいます。残念なことですが、それは紛れもない事実です。(中略)
エステ業界の底上げができれば、より多くのお客様に喜んでいただくことができる。そのために私たちが何かできることはないだろうか---。そうした思いから2013年に開講したのが『リセラアカデミー』です。リセラアカデミーは、サロン樣向けのスクールです。肌理論や実技、接客に必要なマナー、さらに店舗のマネジメント、経営に必要な知識なども指導をします。それまでの講習会やインストラクター制度と違うのは、中立性を高めていることです。私たちが従来行っていた講習会やインストラクター派遣は、ベースにドクターリセラの製品がありました。そのためにサロン様が何かの事情でドクターリセラ製品を使わなくなれば、それまで学んだことも一緒に消えることになります。
一方、リセラアカデミーでは、ドクターリセラの製品から離れて、中立的な立場で肌理論や実技を指導します。講師が授業中に『ドクターリセラの製品を買ってください』と営業をかけることは絶対にしません。もちろんお客様の幸せのためにはドクターリセラの製品を使つていただくことが理想です。しかし、現実にはドクターリセラの製品ではカバーできない領域もあります。また、特定の製品に依存しない洲用的な理論や技術なら、何かの事情でドクターリセラ製品を使わなくなっても、学んだものを引き続き活かすことができます。そう考えて、エステ業界全体の発展のためには私たちが一歩引いたほうがいい。そう考えて、中立性を打ち出しています」(226ページ)
多くの方はご存知と思いますが、念のために補足すると、奥迫さんが「ドクターリセラにはお得意先様の口座が2,700あります」と述べた「口座」とは、「販売先の登録」という意味のようです。「登録」は会社によってそれぞれ異なると思いますが、まず、販売相手の登記事項証明書や取引基本契約書をそろえたり、社内システムに会社名を登録したりして、継続的な取引ができる状態にすることです。本題に戻ると、自社の商品の信頼性を高めたり、販売量を増やすためには、販売に関わる人たちの理解を深めてもらうということは有効な手段です。
株式会社獺祭の桜井博志会長は、ご著書、「逆境経営-山奥の地酒『獺祭』を世界に届ける逆転発想法」で、次のように述べておられます。「私たちが直接取引をしている飲食店に居酒屋チェーンの『和民』(ワタミ株式会社)があります。(中略)たしかに和民のようなチェーン店には、普段獺祭を飲まない若者のお客様も多い。しかし、せっかく美味しい酒を造っているのだから、私は若者にも獺祭を飲んでもらいたい。そして、美味しい日本酒とはこういうものだと知ってほしいのです。若者に媚びるつもりはありませんが、『将来は獺祭を飲みたい』と思ってもらいたい。若い人が日本酒の魅力に気づいてくれなければ、酒造業界の未来はありません。
そして、何よりも私たちが取引するうえで大事にしているのは、獺祭をきちんと扱ってくれるか、さらに、一緒に獺祭のプランドを育ててくれるか、ということです。獺祭を美味しく飲んでもらうためには、冷蔵保管をして早めに飲み切ること。和民の場合は、酒の管理を全国の店舗で徹底していますし、一升瓶ではなく、四合瓶で置いてくれています。酒は栓を開けて空気に触れると酸化し、劣化が進むため、量が少ない四合瓶のほうが酒の鮮度を保てるからです。取引する前に『獺祭がどんな酒であるか説明させてほしい』と私がお願いすると、全国の店長が集まる会議で、1時間も説明する時間を割いてくれました。
『ここなら獺祭を大事に扱ってくれる、ブランドを守ってくれる』、そう確信したからこそ、私は和民に置いていただくことを決断しました」獺祭は、2024年9月期の売上高が約195億円となりましたが、このような高い品質を顧客へ届けようとする姿勢が、好業績の要因のひとつと言えるでしょう。ちなみに、私は、同様のことを情報技術業界に期待しています。日本のビジネス界でも情報技術の活用が浸透してきましたが、まだ海外と比較すると十分とは言えないようです。
そこで、情報技術業界に、ユーザーを啓蒙する活動をもっと拡大して欲しいと思っています。そうすれば、潜在的ユーザーのITリテラシーが高まり、それが情報技術業界の売上拡大にもつながります。ただ、これは言うことは簡単ですが、ユーザーを啓蒙する人材を育成することそのものが難しいようです。本業自体も人手不足なのに、啓蒙活動にまで手を広げられないという現実があるようです。ここは、にわとりとたまごの関係のようになりますが、遠くない将来、もっとユーザーの情報技術に関するリテラシーを高める活動が広がることを期待しています。
2025/7/29 No.3149
