鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

新卒採用で既存の社員が劇的に成長する

[要旨]

ドクターリセラでは、新卒採用を行ったことがきっかけで、既存の従業員の方が大きく成長したそうです。というのは、新卒の新入社員に、同社の考え方をゼロからきちんと教えることで、新卒社員と既存社員のレベルが逆転して、新卒社員のほうが優秀という状況になりかねないので、それまでほぽ手つかずだった既存社員ヘの教育をしっかり行うようになったからだそうです。


[本文]

今回も前回に引き続き、ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんのご著書、「社長の仕事は人づくり」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、奥迫さんは、働きやすさだけでなく、働き甲斐を重視しており、それは、働きやすくても、楽しさや喜びを感じられない職場では従業員は幸せになれないと考えているからであり、そこで、従業員の方には自主性を発揮してもらうようにして、働き甲斐のある職場にしているいるということについて説明しました。

これに続いて、奥迫さんは、新卒採用をすることによって、従業員や社長自身が成長したということについて述べておられます。「ここまで社員教育の仕組みをいくつも解説してきましたが、もっとも効果のあるものをまだご紹介していませんでした。最大の社員教育は採用です。新卒の社員は、他社で揉まれた経験がありません。まだ何の色にも染まっていない状態で、ドクターリセラの経営理念やフィロソフィーがすんなりと入っていきます。その意味で、既存の社員を教育して変えていくよりずっと簡単です。

ただ、『採用が最大の社員教育』とは、新卒社員を増やして会社の中身を入れ替え、リニューアルする意味ではありません。新卒採用することで、既存の社員が劇的に成長します。まず採用担当になった社員が変わります。採用担当になれば、就活中の学生からさまざまな質問を受けます。待遇面の疑間だけでなく、会社の基本的な考え方について聞かれることもある。それに答えなければいけないから、誰よりも会社に詳しくなります。

また、先輩社員も変わります。新卒の新入社員に、ドクターリセラの考え方をゼロからきちんと教えます。新卒社員だけを教育して既存社員を放置すると、新卒社員と既存社員のレベルが逆転して、新卒社員のほうが優秀という状況になりかねません。それでは既存社員はおもしろくないし、新卒社員も仕事がやりにくい。それでは会社としても困るから、新卒社員が入社する前に、受け入れる側のレベルアップを目指して社員教育を強化する必要があります。それまでほぽ手つかずだった既存社員ヘの社員教育が、新卒採用を機に加速します」(208ページ)

私は、奥迫さんの事例を読み、京都橘高校吹奏楽部の部員育成の事例を思い出しました。京都橘高校は、全日本マーチングコンテスト全国大会の常連校で、マーチング関係者の間ではとても注目されている学校のようですが、同部の元顧問の田中宏幸さんは、ご著書、「オレンジの悪魔は教えずに育てるやる気と可能性を120%引き出す奇跡の指導法」で、次のように述べておられます。「私の指針については、総務(部長と2人の副部長)に、ドラムメジャー(マーチングバンドのリーダー)を加えた4名、言ってみれば、京都橘の『役員』にそれとなく投げ掛けて、彼女たちの言葉で全体に伝えてもらう体制をつくって行きました。

吹奏楽部のリーダーである総務も、マーチングバンドのリーダーであるドラムメジャーも、たいへんな役割です。それを担う4名は、しっかりしているとはいえ、生徒ですから完璧ではない、言ってみれば、『弱い人』です。でも、教師という『強い人』である私が、生徒という『弱い人』たち全体を、直接指するよりも、『ちょっと弱い人=役員』が、『ものすごく弱い人=他のメンバー』を指導する方が伝わりやすい。また、役員も弱い人である以上、いきなり指導はできません。『どうすればいいか』を役員4名であらためて相談したり、3年生全員で考えたりせざるをえず、結果として、全員に自主性が生まれます。自立的に行動し、成長させることもできます」

ドクターリセラの採用担当の従業員の方も、京都橘高校吹奏楽部の部長たちも、それほど立場の変わらない人を相手に、質問に答えたり、お手本を見せたりしなければならなくなります。そうなると、上司や先生から質問されたときと違って、「知りません」と答えるわけにはいかないので、懸命に仕事や演奏法について勉強をすることになます。これは、たいへんかもしれませんが、自分を成長させることになります。したがって、採用については社長が担当しているという中小企業では、それを、若い従業員の方に任せてみるということは、会社の風向きが変わるきっかけになるかもしれません。

ただ、中小企業では新卒採用をしようとしても、なかなか応募者がいないという現実があるかもしれません。そこで私がお薦めしていることは、QCサークル(小集団活動)や5S活動です。これらは、従業員の方が身近な課題を自ら解決するための活動であり、能動的に活動する経験を積んでもらうことができます。もちろん、このような活動を始めても、直ちに成果は得られません。しかし、従業員の方を短期間で成長させることはほぼ不可能です。したがって、経営者の方は、長期的な視点から人材育成に臨まなければなりません。

2025/7/27 No.3147