[要旨]
ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんによれば、同社のフィロソフィーに、他部門や社外の人で困っている人がいたら、積極的に助けるをたすける精神を重視すると記載しているそうです。なぜなら、セクショナリズムのように、自分のことしか考えずに行動する人は、自社の顧客からみると迷惑をかけることになるからということです。
[本文]
今回も前回に引き続き、ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんのご著書、「社長の仕事は人づくり」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、奥迫さんによれば、ドクターリセラでは従業員教育に注力しており、これによって従業員の方は学ぶことによろこびを感じ、それを仕事に活かしてみたいと考えるようになったことから、能動的に仕事に臨むようになったということについて説明しました。
これに続いて、奥迫さんは、部門を超えて助け合う考え方が重要ということについて述べておられます。「フィロソフィーの一つに『結(ゆい)の精神』があります。これはべンチマーキングにいった長野県の『伊那食品工業』で教わった言葉で、かみ砕いていうと、助け合いの気持ちのことです。ドクターリセラの本社6階に約100人が入る大会議室があり、ときおり講習会を開きます。講習会担当の社員がいますが、担当者だけで会場設営すると作業がなかなか終わりません。こんな場合も担当者は慌てません。『明日、講習会があります。
業務終了後、机や椅子を出すのを手伝ってもらえるとうれしいです』ると、と他の部署に声をかけると、わらわらと人が集まってきて、会場設営の手伝いをしてくれるからです。このように困っている人がいたら躊躇なく助ける気持ちを、結の精神と呼んでいます。欧米企業は社員に『ジョプ・ディスクリプション(職務記述書)』を渡して、一人ひとりの仕事の範囲や責任を明確にしています。いっけん合理的ですが、それで本当に社員やお客様は幸せになれるのでしょうか。一人ひとりの責任の範囲を明確にしすぎると、『これは自分の仕事ではない』という無責任社員が現れ始めます。
みんなが自分の守備範囲に固執すれば、際どいところにポールが落ちたときに対応できません。それはお客様にとって迷惑です。社員同士がともに笑い、喜び、お互いを理解し、認め、励まし合い、援助する。そうやって社員がさまざまなものを分かち合える会社が、私にとっての理想の会社です。結の精神を持ってもらいたいのは、社員間だけではありません。伊那食品がある長野県伊那市は、雪深い地域。雪で立ち往生した車を何人かで押している人がいると、地域の方は『きっとあの人たちは伊那食品の社員さんたち』とわかるのだとか。ドクターリセラの社員も、このように結の精神を広く発揮する社員になってほしいと願っています」(177ページ)
奥迫さんのいう「結の精神」は、ほとんどの方がご理解されると思いますが、実際にこれを浸透させることは難しいと、私は考えています。というのは、中小企業を含め、多くの会社では、いわゆるセクショナリズムが起きてしまうからです。奥迫さんは、「みんなが自分の守備範囲に固執すれば、際どいところにポールが落ちたときに対応できません」とご指摘しておられますが、これはセクショナリズムが起きていると、まさに、際どいところに落ちたボールを拾おうとする人がいません。では、際どいところにボールが落ちてきたとき、従業員の方に、それを積極的に拾おうとしてもらうにはどうすればよいのでしょうか?
これには様々な方法がありますが、そのひとつは、従業員の方から部分最適の考え方を取り除き、全体最適の考え方を持ってもらうようにすることです。では、全体最適の考え方を持ってもらうためにはどのようにすればよいのかというと、これもひとつだけではありませんが、定期的な配置転換や、小集団活動などが効果があると、私は考えています。そして、これも私がこれまで何度もお伝えしていますが、従業員の方が全体最適の考え方をするようになるには、時間がかかります。ですから、歩みは遅くても、着実に考え方が良い方向に向くよう、地道な働きかけを行っていくしかありません。
ところで、私は、引用部分の伊那食品工業さんの対応を読んで、山崎製パンの対応を思い出しました。これは、ダイヤモンドオンラインの記事で次のように紹介されています。「2014年2月に首都圏・甲信越を襲った大雪の際、多くのクルマが立ち往生した中央道談合坂サービスエリアで、納品時間に間に合わなかった山崎製パンの配送トラックが積荷のパンや団子などを無料で配り、その写真とともに短文投稿サイト『ツイッター』で称賛されたニュースを覚えている向きも多いだろう。
実際にはこの美談は、会社としてあらかじめマニュアルなどで定めた対応ではなく、納品指定時間を大幅に過ぎ、工場に持ち帰っても廃棄処分の道しか残されていなかったことから本社の承認を得たうえ、食料に困っているサービスエリアのドライバーたちに特別に配布したというのが真相だ。だが、何気ない『ツイッター』のつぶやきをマスコミが注目したことから大きなニュースとなり、翌日には山崎製パンの株価も上昇。翌月の定時株主総会でも話題となるなど、同社の危機管理への姿勢が食品企業としての矜持とともに図らずも周知されることになった」
このドライバーの対応は、あえて意地悪に評価すれば、売名行為と受け止めることもできなくはありません。しかし、無意識に善意として行ったとしても、意図して売名行為を企てたとしても、もし、このドライバーが部分最適の考え方しかしない人で、セクショナリズムに陥っていたとしたら、パンを配ることはしなかったと思います。したがって、私は、山崎製パンでは、少なくとも全体最適の考え方をする人材を育成しており、その結果の現われのひとつとして、前述のようなパンを配る対応が起きたのだと思います。そして、そのような人材を育成している山崎製パンは、これからも業績が伸びていくと思います。
これは蛇足ですが、かつて、山梨県で地場スーパーを経営していた小林久さんによると、小林さんの経営するスーパーが倒産したとき、「非常時にパンを届けることで有名なあのパン屋は、『これまでありがとうございました』と、食べきれないほどのランチパックを持ってきた」そうです。こういった事実を見聞きすると、山崎製パンのさまざまば対応は、決して偽善ではないと、私は考えています。繰り返しになりますが、全体最適の考え方が従業員に浸透しているからこそ、その効果の現われのひとつとして、部外者の人も助けようという行動になって現れるのだと思います。
2025/7/22 No.3142
