鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

サプライズをするのは凡事徹底の後

[要旨]

ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんは、顧客に感動を与える方法として、サプライズよりも凡事徹底をお薦めしているそうです。その理由は、サプライズがお客様に驚きを与える「動」の感動だとしたら、約束を守って生まれるのは「静」の感動であり、派手さはなくてもあたり前のことをやり続けて結果を出せば、顧客の心に深い感動が生まれ、さらにその感動は、サプライズによって生まれる瞬間的な感動と違い、長期間、顧客の心に残るからだということです。


[本文]

今回も前回に引き続き、ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんのご著書、「社長の仕事は人づくり」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、奥迫さんは、沖縄教育出版の朝礼を見学したところ、同社では、売上のことを「お役立ち」と呼んでいたことから、ドクターリセラでも売上をお役立ちと呼ぶことにしたそうですが、それは、沖縄教育出版では、売上を得ることを直接の目的とせず、顧客の役に立つことをした結果として売上を得ることができるという考え方で活動をしており、そのことは顧客との良好な関係を構築し、事業を安定化させているからだということについて説明しました。

これに続いて、奥迫さんは、顧客と約束を守ることが大切ということについて述べておられます。「フィロソフィーに『約東を守る』項目があります。『あまりにもあたりまえだが、できない人が多い。だから自分も少しくらいは、と考えてしまう。あたりまえのことを愚直に実行する人が、信用を得る数少ない人になる』私はサプライズより、こちらを重視しています。納期の日にお客様に製品をお届けする。お客様からのお問い合わせは、先延ばしにしないでお答えする。

ビジネスをやるうえでごくあたりまえですが、お客様もあたりまえと考えているから、それを確実にやり遂げる必要があります。あたりまえのことをやっても感動は生まれないのではないか。それは正しくありません。サプライズがお客様に驚きを与える『動』の感動だとしたら、約束を守って生まれるのは『静』の感動です。派手さはないが、あたりまえのことをやり続けて結果を出せば、お客様の心に深い感動が生まれます。その感動は、サプライズによって生まれる瞬間的な感動と違い、静かに、そしていつまでもお客様の心に残るでしょう。

アトピーでなるベく汗をかかないようにと、スポーツクラブの合宿への参加を泣く泣く見送っていた小学生のお客様がいました。エネルギーが有り余っている小学生の男の子にとって、みんなと一緒に走り回れないのはとてもつらいことです。しかし、サロンに通い続けた結果、肌が改善。汗をかいても平気になって、いまではお友達と元気に走り回っています。お客様本人はもちろん、我が子を見守っていたお母さまもホッと胸をなでおろしました。

このお客様に対て、私たちは何か特別なサプライズを行ったわけではありません。私たちがまずやるべきはこのお客様が通われるサロン様が肌を改善する結果を出すために、安心で安全な品質の製品を滞りなく供給することです。すなわち、メーカーとして必要なことを地道にやり続けただけです。しかし、それによって実際に肌が変わり、お客様の生活や人生が変わりました。派手さはなくても、期待された結果をきちんと出すことで感動は生まれます。サプライズを狙うより、まずはあたりまえのことをきちんとやりましょう。

本社に保険の代理店の方が営業にいらっしゃったとき、ドクターリセラの社員について、次のようにお褒めいただいたことがありました。『みなさん、感じがいい。だから来るのが楽しみで』感じがいい、は感覚的な表現です。何を見てそう感じたのか、もう少し具体的に聞いてみると、『挨拶がいい』と教えてくれました。『僕が得意先を訪問する回数は、せいぜい年に2~3回。多くの得意先は、僕がお邪魔すると、“この人は誰だろう”といぶかしげな眼でこちらを見てきます。

でも、リセラさんの社員は、僕が誰だかわかっていなくても、“こんにちは!”と明るく声をかけてくれます。そうやって温かく迎えてくれる会社は、そんなにないんです』挨拶は、人間関係の基本です。また、見ず知らずの間柄でも、挨拶からコミュ二ケーションが始まって関係構築につながることが多々あります。知っている人でも、知らない人でも、顔を見たら挨拶するのはあたりまえ。また、挨拶に特別なスキルは必要ありません。その気になれば誰でもできる、簡単なことです。

それでも『たかが挨拶』とバカにしないで愚直にやり続ければ、その積み重ねによって人の心は動きます。徹底したいのは挨拶だけではありません。遅刻をしないとか、約東を守るとか、仕事をする中での『あたりまえ』はたくさんあります。はたして、みなさんはそれらをおろそかにしていないでしょうか。平凡なことを非凡なくらいに徹底することを「凡事徹底」といいます。サプライズをするのは、あくまでも凡事徹底の後。そのことを忘れないでください」(46ページ)

引用部分の冒頭で、「フィロソフィー」という言葉が出てきますが、これは、ドクターリセラの経営理念のことようです。そして、奥迫さんは、サプライズをするのは凡事徹底の後と述べておられますが、私も、次の理由から、奥迫さんと同じ考えを持っています。1つ目は、例えば、普段は挨拶をしない従業員からサプライズを受けた場合、その顧客は、何らかの下心があるのではないかと感じてしまうと思います。やはり、サプライズをサプライズとして評価してもらうためには、普段から良好な関係があることが前提になると思います。

2つ目は、凡事徹底は、ある面で、難易度が高くないということです。とはいえ、凡事徹底も実践できないという会社も見ることがありますが、それは、スキルが低くてできないというよりも、心構えの問題だと思います。そして、奥迫さんは、「派手さはないが、あたりまえのことをやり続けて結果を出せば、お客様の心に深い感動が生まれる」と述べておられますが、高いスキルが不要で、顧客を感動させることができるのであれば、まだ実践していない会社は、すぐに実践することが得策といえます。(ただし、凡事徹底の効果は一朝一夕には現れない点について、注意しなければなりません)

3つ目は、凡事徹底ができない従業員は、サプライズをするスキルもないということです。サプライズはスキルの高い顧客対応です。どういうサプライズをしようかと考えることはそれほど難しくないかもしれませんが、その前に、一人ひとりの顧客を注視していなければ、サプライズをする機会を見逃してしまいます。また、そういった注意力は、顧客を喜ばせることに喜びを感じるという高い意識を従業員が持たなければなりません。だから、凡事徹底を実践できない人が、サプライズをしようと思っても、その機会に気づくこともできないでしょう。

でも、凡事徹底を実践し、そのことが顧客を感動させているということに気づけば、さらにどうすれば感動してもらえるだろうと考えるようになり、サプライズを行う機会を掴むことができるようになると思います。ですから、前述したように、まだ凡事徹底を実践していない会社は、すぐに凡事徹底に着手することをお薦めします。そして、繰り返しになりますが、凡事徹底の効果はすぐには現れませんので、実践すると決めたら、直ちに実践することが大切です。

2025/7/19 No.3139