鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

顧客の役に立つことで関係を強化する

[要旨]

ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんは、沖縄教育出版の朝礼を見学したところ、同社では、売上のことを「お役立ち」と呼んでおり、ドクターリセラでも売上をお役立ちと呼ぶことにしたそうです。なぜなら、沖縄教育出版では、売上を得ることを直接の目的とせず、顧客の役に立つことをした結果として売上を得ることができるという考え方で活動をしており、そのことは顧客との良好な関係を構築し、事業の安定化させることにつながっているからだということです。


[本文]

今回も前回に引き続き、ドクターリセラの社長の奥迫哲也さんのご著書、「社長の仕事は人づくり」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、かつて、奥迫さんは、顧客第一主義の経営をしたいと思いつつ、利益との兼ね合いをどうするかと考えていたそうですが、北九州にある美容室を見学したところ、同社は顧客第一主義の実践によって顧客と深い関係を構築し、業績を高めていることから、奥迫さんも自社で顧客第一主義の経営を実践しようと考えるようになったということについて説明しました。

これに続いて、奥迫さんは、同社では売上を「お役立ち」と呼んでいるということについて述べておられます。「ドクターリセラは、売上のことを『お役立ち』と呼んでいます。お客様のお役に立てば、その結果としてお金はついてきます。つまり売上は『どれだけお客様のお役に立ったのか』のバロメーター。業績が前年比90%なら、お客様に9割しかお役に立てていないことになります。お役立ちという言葉は『沖縄教育出版』から拝借しました。沖縄教育出版は日本一長い朝礼をやる会社として有名で、その朝礼を見ると涙が出ると噂を聞いて見学に行きました。

ここでは朝礼の内容に触れませんが、私が驚いたのは、社員のみなさんが朝礼開始時刻の1時間前に来て、会社の近くにある小学校のまわりを掃除していたことです。聞いてみると、義務でなく、みなさんが自主的にやっているといいます。こうした行動が自然にできるのは、地域社会の役に立ちたい思いが社員のみなさんに浸透しているからでしょう。そして、その秘密は『お役立ち』の言葉にあるのではないかと思い、さっそく私たちもマネさせてもらうことにしました。

さて、『売上=お役立ち』というと、『売上を増やしたければ、お客様のお役に立てばいいのか』と勘違いする人もいます。しかし、お役に立つことは売上を増やすための手段ではありません。お客様のお役に立つこと自体が仕事本来の目的であり、売上は、あくまでもその結果に過ぎないのです。ここを間違えると、結局、『売らんかな』のサービスになり、お客樣に見透かされてしまいます。

いつもより丁寧にサービスをしても、『どうせお金のためでしよう』と見破られて、かえって感動から遠ざかります。まずお客様のお役に立つことを考える。これを『お役立ち精神』としてフィロソフィーに明記しました。その結果、社員の意識にも変化が現れています。大手のエステ会社から転職してきたある社員は、当初、『今日の売上目標はいくら、からこのサプリメントを売りましょう』というスタイルで朝礼をしていました。これはまず売上が先にある考え方です。

しかし、しばらくして朝礼のスタイルが変わりました。お客様一人ひとりのカルテを見て、『鼻のまわりの毛穴を気にされているから、この商品をおすすめしましょう』と、お客様の幸せから出発して自分の仕事を考えられるようになったのです。おそらく『お役立ち』という言葉を使い統けることで『お客様のお役に立つ』が先に来るようになったのでしょう。彼女は独立してリセラサロンのオーナーになりました。お役立ち精神を忘れずにいれば、必ずお客様から支持をいただけます」(32ページ)

顧客との取引を、都度の購買とだけ考えた場合、どれだけ多くの商品を販売するかという考え方で顧客に接することになると思います。しかし、顧客生涯価値(Life Time Value、LTV)という考え方をもって顧客と接することを考えた場合、顧客との関係を深め、長期間にわたって取引をしてもらおうとすることになります。このことにより、顧客にとって不要な商品は販売せず、必要なものだけを購入してもらおうという姿勢で接することになります。

その結果、自社に対する顧客シェア(顧客の支出のうち、自社商品の購入による支出が占める割合)を高めることになり、それは自社の売上を安定させることにつながります。したがって、奥迫さんの指す「お役立ち」は、顧客関係の強化によってLTVを増加するための活動であると、私は解釈しています。

別の事例では、Amazonでは、かつて購入した商品には、「○○○○年○○月に購入」と表示し、誤って同じものを再び購入してしまう失敗を防いだり、自社が販売する商品だけでなく、他社が販売する同一商品も比較して購入できるようにして、顧客にとって最も有利な条件で購入できるようにしたりして、Amazonでは買い物を失敗しないという安心感を利用者に与えています。このような対応は、LTVや顧客シェアを高めることになり、都度、購入する顧客を増やすことよりも効率的に売上を増加させることになります。したがって、現在、売上が伸び悩んでいるという会社の経営者の方は、「お役立ち」という考え方を取り入れ、LTVや顧客シェアを高める活動を実践することをお薦めします。

2025/7/18 No.3138