鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

『実現できる組織』をつくるのは難しい

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、事業を成功させるには、2つの段階が必要であり、第1段階は正しい経営戦略をつくること、第2段階は、経営戰略を実現できる組織をつくることということです。すなわち、どんなに正しい経営戦略があっても、それを実現できる組織がなければ、経営戦略は絵に描いた餅となるので、経営者には、能力の高い組織をつくる能力が求められているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、同社が無借金で年商100億円を達成した方法は、稼いだ以上に使わないというルールを守ってきたからということだそうですが、その一方で、融資を受けることで時間を買うという考え方もあり、また、ルールを破りたいと思ったこともあるそうですが、木下さんはそれを乗り切る工夫を続けてきたことから、現実的ではないと思われることであっても、まず、ルールを守るという強い考え方をもって事業活動に臨むことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、事業を成功させるために必要なことについて述べておられます。「事業を成功させるには、2つの段階が必要だ。第1段階は、正しい経営戦略をつくること。どの市場に対し、どのような強みを持って参入するか。何をして、何をしないかを判断することが大事だ。経営戦略を立てるのは一人でもできる。だが、それだけでは事業を成功させることはできない。

第2段階は、経営戰略を実現できる組織をつくることた。どんなに正しい経営戦略があっても、それを実現できる組織がなければ、経営戦略は絵に描いた餅となる。経営コンサルタントが伸び悩んでいる会社に、『御社はこうすれば伸びます』と戦略を提案しても、会社側が『そんなことは提案されなくてもわかっている、問題はその戦略を実現できる組織づくりができないことだ』と嘆くケースが多い。『実現できる組織』をつくるのはそれだけ難しいのだ」(260ページ)

この、どのような戦略を実行すれば業績を高めることができるのかはわかっているけれど、役職員がそれを実践するための十分な能力を持っていないために、業績を高めることができない会社が多いということは、多くの方が理解されると思います。これについては、米国の経営学者のバーニーが、1991年にVRIO分析を提唱した際に指摘しています。VRIOとは、経済価値(Valeu)、希少性(Raritu)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)の4つの視点の頭文字をとったものです。

具体的には、自社の強みについて、それぞれの視点に合致するかどうかを見て行きます。(1)経済価値:市場において顧客から強みの価値を認識されているか。(2)希少性:市場において強みの希少性を認識されているか。(3)模倣困難性:強みが他社に模倣されにくいか。(4)組織:強みを十分に発揮できる組織が整っているか。分析の手順としては、まず、調べようとする強みについて、価値があるか→希少性があるか→模倣されにくいか、という順に見て行きます。該当するものが多いほど、その強みは優位性が持続するということが確認できます。

そして、最後に、その強みを十分に発揮できる組織が整っているかどうかを確認します。強みの優位性があっても、それを発揮できる組織がなければ、成果にはつながりません。このような手順を見ると、VRIO分析を提唱したバーニーは、組織が強みを発揮できる状態になっているかどうか、すなわち組織の能力が、強みを発揮するための大きな要因になっていると考えていると思われます。あくまで仮設とはいえ、この、バーニーの考え方を理解する人は多いと思います。

この、木下さんの考え方やVRIO分析の意味につしては、ほとんどの方がご理解されると思う一方で、経営者の方の多くは、業績を高めるためには、どのような商品を売ればよいか、または、商品をどのように販売すればよいかということに目が向きがちです。すなわち、商品戦略や販売戦略など、事業に関する戦略に目がむいているということです。しかし、それらの戦略は、木下さんやバーニーが指摘しているように、組織で実践するわけですから、事業戦略だけでなく人材戦略にも注力しなければなりません。

ところが、これもこれまで何度も述べてきているのですが、組織の習熟度を高めることは、経営者にとってスキルが必要である、効果が表れるまでに時間を要するといった難しさがあり、経営者の方は、これらの課題に取り組むことは避けたいと考える方も多いのではないかと思います。しかし、現在は、経営環境が複雑化しつつあり、とるべき経営戦略も難易度も高くなってきています。したがって、現在の経営者に最も求められる能力は、習熟度の高い組織をつくることであり、それを避けていれば、いつまでも業績を高めることは難しいと言えるでしょう。

2025/6/19 No.3109