[要旨]
北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、同社は無借金で年商100億円を達成した方法は、稼いだ以上に使わないというルールを守ってきたからということです。当然、融資を受けることで時間を買うという考え方もあり、また、ルールを破りたいと思ったこともあるけれど、木下さんはそれを乗り切る工夫を続けてきたことから、現実的ではないと思われることであっても、まず、ルールを守るという強い考え方で事業活動に臨むことが大切ということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんによれば、かつて、北の達人コーポレーションでディレクターへの昇格試験を、商品知識が不足していたために何度も不合格になった部下に、OEMメーカーとの商談に同席させたところ、それまで彼女が知らない情報が次々に出てきたことから、社内の情報だけでは不足することに気づき、勉強をし直して、昇格試験に合格したということがあり、このことから、木下さんは商品に関する理解を深めるには、情報源の幅を広げることが大切と考えているということについて説明しました。
これに続いて、木下さんは、無借金で年商100億円を実現できた理由について述べておられます。「偉業を成し遂げるには、最初に『理論上達成可能な作戦を用意する』のがスタートラインだ。この作戦ができていないまま動いても偉業が成し遂げられることはない。ただ、作戦はあくまでも理論上のものなので、実行していくと想定外のことが起きてくる。それをつぶし統けていくことで偉業は実現されるのだ。やみくもに頑張っていても、偉業が実現することはない。
たとえば、多くのスタートアップ企業が資金調達に多大な時間を使っていたとき、私は一切それに時間を使わず、無借金のまま年商100億円の上場企業をつくった。これは頑張っていたらそうなったのではなく、最初から『理論上達成可能な作戦』を準備していたからだ。具体的には、『稼いだ以上に使わない』というシンプルな作戦だ。これさえあれば、絶対に赤字にならないし、借金を抱えることもない。この作戦を続けていれば、絶対に失敗しないのだ。
しかし、理論上達成可能な作戦を実行していくには様々な困難にぷち当たる。『無借金で100億円までいった』と言うと、『どうやって実現したのですか?』と聞かれるが、『“稼いだ以上に使わない”ルールで経営した』と言うと鼻で笑われ、『理論上はそうですが実際には無理ですよね、本当はとうやったのですか?』と聞かれる。それでもなお、『いや、本当にそれをやりきったのだ』と答える。すると、ほとんどの人はそこで沈默したり、話題を変えたりする。
あらゆる事業は、『理論上達成可能な作戦を立て』ながら、『その実現を阻むものを乗り越える』ことで必ず成功する。こう考えると正しい質問は、『実現を阻むものを、どうやってつぶしていったのですか?』と聞かなければならないのだ。『理論上達成可能な作戦』をいかに現実に落とし込んでいったか。私が起業した年の初月は粗利が5,000円くらいだった。シンプルなルールに従っていたので翌月は5,000円以上使えなかった。起業当初は簡単なホームページ(HP)しかなかった。
正直、きちんとしたものをつくりたかったし、注文がきたときの受注・発送処理を行うソフトも必要だった。だが月5,000円しか使えないと外注できないので、HP制作も受注処理ソフトも書籍で勉強して自分でつくり上げた。当時はパソコンを使い始めて1年足らずのスキルしかなかったので大変だったが、こんな程度でルールは破れない。また、商品を仕入れるお金もなかったので、商品が売れてお客様に代金をもらってから仕入元に払う契約にしてもらった。
『稼いだ以上に使わない』というルールでやっていると、自然に手元資金でできるやり方を工夫するようになる。ネットで販売しているとデータ計測が必須だが、当時はデータ計測ツールは月額何十万円もするサービスが主流だった。もちろんそんなお金はないのでネット上でいろいろ探すと、フリーランスプログラマーが同様のデータを計測できるプログラムを1万5,000円程度で販売しているのが見つかり、それを導入した。いろいろ探せば、無料ソフトや通常の100分の1くらいの価格のものがたくさんある。
そういったものを探していれば、事業をやるのに大したお金はかからないと思った。当社は創業以来、お金に困ったことがない。それは『お金がある』からではなく、『お金をかけずにやる』習慣が身についているから自力ですベてやると時間がかかる。『時間をお金で買う』という考え方もあるが、それは資金力がある人がやることで、お金を借りてまでやるベきではない。私はすベて自分でやったことにより、多大な経験という資産を得た。
当社では、独自のマーケティングシステムを自力で構築できるようになったし、独自の管理会計を生み出し、高収益企業になった。この他にも、『稼いだ以上に使わないルール』を破りたくなる出来事が多々起きたが、その都度工夫してなんとか乗り越えた。結果、無借金経営のまま100億円企業をつくることができた。私は、『それは現実的ではない』という言葉が一番嫌いだ。『理論上達成可能な作戦』をいかに現実に落とし込んでいくかが仕事なのだ」(203ページ)
私は、無理に無借金経営にこだわる必要はないと思っていますが、逆に、融資に依存し過ぎないようにするには、木下さんのような考え方で事業に臨む方法は効果があると思っています。商品仕入代金については、数か月で返済可能になるので、私は融資を受けても、融資依存の状態にならないと思いますが、設備資金については、融資を受けて調達した設備によって得られる利益が、当初の計画通りに得られなくなると、融資依存の状態になる可能性があるので、こちらについては木下さんのように、「稼いだ以上に使わない」というルールに徹していれば、それを防ぐことができるようになると思います。
ちなみに、京セラ創業者の稲盛和夫さんも、京セラの黎明期は、融資を受けることに消極的だったようです。「私は(先輩経営者から薦められて利用した)借金を返そうと思ったものですから、脱税しようともしなかったし、山分けをしようとも思わなかったのです。さらに収益性をあげて、10%の売上利益率だったものを、20%にしよう。そうして税引後に300万円残るようにしよう。
そうすれば3年間で(1,000万円の)借金が返せるではないかと、素朴にそう考えたのです。そのときは『高収益を目指そう』とは思っていませんでしたが、とにかく、税金も全部払った残りが300万円必要だと思ったからこそ、自然に『高収益』企業へと舵をとったわけです。つまり、『借金を返すためには、高収益でなければならない』と自分なりに考えたことが高収益企業への始まりだったのです」
稲盛さんは、融資を早く返済するために、利益率の高い事業を目指そうとしたのですが、目的は違うものの、土台の部分は木下さんと同じだと思います。事業を拡大しようとするときは、当然、設備投資が必要ですが、そのために、融資を利用するとしてもある程度の利益率が必要です。したがって、木下さんや稲盛さんのように、利益率を高めることに最も注力しなければならないということです。
2025/6/18 No.3108