鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

止血でしのぐのではなく根本的な治療を

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、かつて、業績が回復基調にあったとき、スキルについてはまだまだ属人的で、スキルアップした人もいれば、相変わらず自分のやり方を押し通している人もいるという課題に直面し、1日1,000人の集客を実現するには、もっと組織的に動く必要があり、教育体制の構築が急務だったことから、教育担当業務に就くと申しでのあった幹部従業員に研修プログラムをつくってもらい、それに基づき人材育成を行ったそうです。このような経験から、木下さんは、組織は付け焼き刃では変わらないので、長期的な視点に基づいて手を打っていく必要があると考えているそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんの会社で、かつて、あるクリエィティブ(広告素材)が奏功したとき、それを他のメディアにも展開することにしていたものの、それが実行されないことがありましたが、あるチームリーダーが課全体のリーダーに立候補し、横展開漏れが起きないようにしたところ、効率的な活動ができるようになったということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、従業員の育成について述べておられます。「2022年4月後半になった。4か月前の2021年12月は、1日平均集客人数は163人だった。だが、各自のスキルアップと横展開漏れ防止により最悪期を脱し、新規集客人数が300人を超えるようになってきた。エースの楠田、サ力モッちやんの活躍はさることながら、タツオの全メンパーに対するマイクロマネジメントが確実に成果を出していた。運用メンバーに対する戦略の優先順位のマネジメントだけではなく、横展開漏れを発見・周知する仕組みをつくり、クリェイティプディレクターにも優先順位を明確に伝えていった。

烏合の衆だったチームも、ようやく組織的な統制が取れてきた。だが、シュウへイがこう言った。『確かに伸びてきてはいるが、このままでは1日1,000人の集客人数に戻すのは無理ではないか』KPI管理による業務の優先順位の明確化、戦略立案、横展開漏れ防止などのタスク管理によって成果は上がってきているものの、『新規採用メンパーの戦力化』、『現メンパーのさらなるスキルアップ』がないと、1日1,000人の目標を達成できる体制にはならないと言う。確かにそうだった。

成果が上がってきているとはいえ、間違っていたやり方がまともになったり、仕事の抜け漏れを防げるようになったりしただけにすぎない。厳密にいえば、『最悪ではなくなった』レベルにようやくなってきたところだ。スキルについてはまだまだ属人的で、スキルアップした人もいれば、相変わらず自分のやり方を押し通している人もいる。1日1,000人の集客を実現するには、もっと組織的に動く必要があり、教育体制の構築が急務だった。そんなとき、『僕は現場を離れて教育に専念すベきだと思います』とシュウへイが言った。当時の直接販売課はすべてがKPIで評価されていた。

シュウヘイも現場の最前線でKPIと格闘し評価されでいたが、現場から離れて教育担当になりたいというのだ。見方によつては『主流から外れる』と受け取られかねない。しかし、シュウへイは続けた。『これによって僕は評価されにくくなるかもしれません。同時に3年目という若いうちに現場を離れてしまう怖さもあります。でも、今の北の達人を経営的視点で見ると、今こそ教育体制をつくることが必要だと思います。そのためには新規メディア攻略チーム時代から育成を担当していた僕が最適なんだと思います』

シュウヘイは将来的に経営者を目指していた。その観点で『自分の評価』のためではなく、『北の達人の経営』の観点から自分が前線から離れる決意をしたのだ。正直、涙が出るほどありがたかった。そして、>ュウへイは『3か月でメンパーを戦力化する研修ブログラム』をつくり、新人や社歴の浅いメンパーを育成していった。組織は付け焼き刃では変わらない。長期的な視点に基づいて手を打っていく必要がある。今までは傷口を防いで止血しているだけだった。しかし、これ以上を目指すには根本的な治療が必要となる」(148ページ)

多くの会社は、事業を拡大するときに、人材育成という課題に直面することは間違いないと思います。北の達人コーポレーションについても、木下さんは、「スキルについてはまだまだ属人的で、スキルアップした人もいれば、相変わらず自分のやり方を押し通している人もいる。1日1,000人の集客を実現するには、もっと組織的に動く必要があり、教育体制の構築が急務だった」と述べておられます。そこで、従業員の育成が必要になるのですが、これは多くの経営者は大切と考えながら、実践されることは、それと比較してあまり多くないようです。

その理由の1つは、デスクワークよりも経験を積ませることの方が売上が増えるし、スキルも身につくだろうという誤解があるからだと思います。この考え方は、かつては通用したかもしれませんが、現在は、商品や販売方法が複雑化してきており、「OJT」というていのいい放任だけでは、十分な育成はできず、また、従業員もモラールがあがらず、離職してしまう可能性も高まります。ですから、現在は、きちんとした育成を行うことは欠かせません。

理由の2つ目は、人材育成をするスキルを持つ会社が少ないということです。特に、自ら起業した経営者は、徒手空拳で事業を拡大してきたため、仕事を教えてもらったという経験がなく、部下に仕事を教えるということもできないことが多いようです。しかし、前述したように、業務内容が複雑化している現在は、経験を積ませるだけよりも、きちんとした研修を受けることで、スキルの習得が早まるだけでなく、属人的なスキルを身に付けてしまうことを防ぐことができます。

そこで、経営者が人材育成を行うことが難しかったり、社内に人材育成スキルを持つ人がいない場合は、外部の専門家に育成を依頼したり支援を受けたりするなどの対応を行うことが望ましいと思います。理由の3つ目は、人材育成は、その効果の可視化が難しく、また、効果が表れるまでに時間がかかるということが考えられます。スキル習得の可視化は、社内資格制度などによって、ある程度可能になりますが、確かに、正確に可視化をしたり、短期間で効果を得ることが難しいことは事実です。

しかし、現在、事業の競争力を高めるには、難易度の高い仕事に取り組めるかどうかにかかっており、人材育成を避けて通ることはできません。むしろ、人材育成は難しいからこそ、それを得意にできるかどうかが、会社の成長の鍵になっていると考えなければならないと私は考えています。したがって、事業拡大を着実に行いたいと考えている経営者は、従業員の教育に注力することをお薦めします。

2025/6/16 No.3106