[要旨]
北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんによれば、かつて、同社であるクリエィティブ(広告素材)が奏功したとき、それを他のメディアにも展開することにしていたものの、それが実行されないことがありましたが、あるチームリーダーが、課全体のリーダーに立候補し、横展開漏れが起きないようにしたところ、効率的な活動ができるようになったということです。
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今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんの会社で、従業員の各個人のKPIを設定しましたが、木下さんはそれだけでは従業員の行動がすぐに変わらないと考え、全員のKPIを一覧表にし、毎朝メーリングリストで全社に流すようにしたそうですが、木下さんも、内心、嫌がるメンバーもいるだろうと思っていたものの、自分の仕事が数値化されることでゲーム感覚が生まれ、楽しんでいる人のほうが多かったということについて説明しました。
これに続いて、木下さんは、ある従業員がリーダーに立候補し、課題が解決したという事例について述べておられます。「この頃、クリエイティプディレクションチームはサ力モッちゃん、運用チームは楠田がエースとして活躍する一方、タツオは運用チームリーダーからもう一段視座を上げ、直接販売課全体を見るようになっていた。あるとき、タツオが直談判してきた。『会社として成果を上げるには、自分が一メンパーとして実務をやっているだけでは限界がくる。直接販売課全体に関わって成果を上げたいので、自分の数値目標を“直接販売課全体の集客成果”にしてください』
運用チームにも、クリエイティプディレクションチームにも、各メンパーは個人として『月間集客人数の過去半年平均の1.2倍』という目標があるが、各チーム全体にも『チーム目標』として同じロジックでつくった目標がある。タツオは『運用チームとクリエイティプディレクションチーム両方(直接販売課全)のチーム目標を自らの目標にしたい』と言い出したのである。その頼もしさに、もちろんOKを出した。そして運用チームのリーダーをタツオの1年後輩の井出にパトンタッチし、タツオを直接販売課全体のリーダーにした。タツオがそう言い出したのには理由がある。
クリエイティプディレクションチームと運用チームの間に、『横展開漏れ』といぅ課題が潜んでいたのだ。あるとき、サ力モッちやんが自らのKPI数値を上げるため、運用チームメソバーと打合せをしていた。運用チームメンパーは『広告クリエイティプが疲弊してきて反応が悪くなってきた、新しいものをつくってほしい』と言った。そこでサカモッちやんは、どの広告メディアに、どのクリエイティプが掲載されているか確認した。すると、『横展開漏れ』が多数あることに気づいた。
広告クリエイティブは一つの広告メディアで成果が出ると、他のメディアでも同じものを出していく。これを『他の広告メディアに横展開する』という。『横展開漏れ』とは、この横展開がしっかりなされていないことだ。たとえば、Aというメディアで成果が出た『あ』という広告クリエイティプを、Bというメディアにそのまま出しても成果が出るとは限らない。理由は2つある。一つは、メディアごとにユーザーが違うから。もう一つは、メディアごとの出稿ルール(文字数や画像サイズ)に合わせて修正した場合、クリエイティプの元々のよさが薄まってしまうからだ。
よって成果が出なければ、『あ』を各メディアごとにアレンジし、『あ’(あダッシュ)』、『あ”(あダッシュダッシュ)』にしなければならない。だが、運用担当者は他の『い』や『う』の広告も運用しているため、少しやって成果が出ないと後回しにしていた。何の実績もない『い』や『う』より、他の広告メディアで成果が出ている『あ』をメデイアに合わせてアレンジしたほうが成果が出るはずだ。だが、そうならないまま放置されているクリエイティプが多数あることに気づいた。
ここに『大ぎな機会口ス』が生まれていたのだ。それに気いたサ力モッちやんは、新しいクリエイティプをつくるのではなく、他のメディァで成果が出ているのに、きちんと横展開されていないクリエイティプを、メディアごとにチューニングしていった。これにより、メディアによっては、前月の3倍の成果を生み出した。このように、クリエイティプカは上がってきたし、運用スキルも向上してきたのに、組合せに漏れがあるために大きな機会口スが発生していた。
これに気づいたタツオが、『全体を見る人間が必要だ』と自らその役割を買って出たわけだ。正直なところ、私自身、長年この部署のマネジメントをしているので、横展開漏れが発生していることに気づいていた。だが、それをメンパーに指摘しても誰も動こうとしなかった。KPIマネジメントがまだ浸透せず、自らの仕事は『KPIの数字を上げること』ではなく、クリエイティプをつくること、『言われたとおりの広告枠を運用すること』になっていたため、みんな自分の仕事ではないという認識だった。
これをサ力モッちやん自ら横展開漏れを埋めることで成果を出しつつ、タツオが横展開漏れが一目でわかる表をつくり、各メンバーに『ここに横展開漏れが起きているからチューニング』としつこく指示していった。こうして徐々に『横展開漏れ』が埋まっていった。やはり監督一人が奮闘してもしょうがない。キャプテンやエースがいるからチームは動く。この頃から、クリエイティプディレクションチームと運用チームの両輪がうまく噛み合い、チームがゴロンと回り始めた」(143ページ)
念のために説明すると、クリエイティブとは、木下さんは具体的何を指しているのかは分からないのですが、広告業界用途では、広告の素材(文章、画像など)を指しているそうです。本題に戻ると、人は仕事に没頭すると、視野が狭くなり、目の前のことに囚われて、非効率的なことをしてしまいます。このような状態は、広く知られているように、部分最適を目指す状態です。木下さんの会社では、各チームが部分最適を目指す状態になってしまい、その結果、「横展開漏れ」が起き、非効率な活動になってしまったと言えます。
そこで、チーム横断的な視点、すなわち、リーダーが、「課」の全体最適を目指す視点で指示を出すことによって、各チームが効率的な活動を行うようになります。ただ、木下さんの会社の場合、課長に相当するポジションがなかったので、全体最適の指示を出す人もいなかったということになるのかもしれません。でも、課長の役割を担いたいという申し出をしてきた人がいるというのは、KPIを導入した効果のひとつなのでしょう。そして、繰り返しになりますが、課長の役割は何かというと、課のメンバーが全体最適の活動を目指すよう指示を出すということです。
さらに、これは社長の役割にもあてはめることができ、社内の各「部」や各「課」がそれぞれの全体最適を目指していたとしても、それが会社の全体最適を目指す活動になっていなけれれば、社長は改善をするよう指示をしなければなりません。すなわち、キャプテン、課長、部長、社長というポジションは、単に、権限を持っている人なのではなく、それぞれの組織の活動を全体最適にする役割があり、そのために権限があるわけです。逆に言えば、そのような指示を出すことができなければ、キャプテン、課長、部長、社長としての役割を果たしているといえず、組織もうまく機能しなくなってしまいます。
2025/6/15 No.3105