鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

KPIで一番大事なことは『見える化』

[要旨]

北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、従業員の各個人のKPIを設定しましたが、それだけでは従業員の行動がすぐに変わらないと考え、全員のKPIを一覧表にし、毎朝メーリングリストで全社に流すようにしたそうです。これについては、木下さんも、内心、嫌がるメンバーもいるだろうなと思っていたそうですが、その一方で自分の仕事が数値化されることでゲーム感覚が生まれ、楽しんでいる人のほうが多かったそうです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、木下さんの会社で、新人を育成するために、広告のつくりかたを教えてから、広告を実際につくらせ、先輩のOKを得てから出稿するようにしたのですが、新人たちの中には、実際に広告の効果があったかどうかは把握せず、先輩のOKをもらうことを目的化してしまう人もいたことから、木下さんは、個人にKPIを設定するころにしたということについて説明しました。

これに続いて、木下さんは、KPIは可視化することが大切ということについて述べておられます。「『笛吹けども踊らず』のとおり、考え抜いたKPIを設定しても、運用チームにしろ、クリエイディプディレクションチームにしろ、すぐに動きが変わるわけではなかった。KPIで一番大事なことは『見える化』である。今この時点で、自分のKPI評価がどうなっているか、数値ベースで誰にも明確にわかるようにしておかなければならない。それに気づいた瞬間、全員のKPI数値を毎日更新し、自分の数値がいつでもわかるようにした。

それも、わざわわざわざシステムを見にいって確認するのではなく、全員のKPI数値を一覧表にし、毎朝メーリングリストで全社に流すようにしたのだ。これなら意識が高かろうが低かろうが必ず目に入り、『他の人にも自分のKPIが見られている』という独特の緊張感が生まれる。内心、嫌がるメンバーもいるだろうなと思っていたが、その一方で自分の仕事が数値化されることでゲーム感覚が生まれ、楽しんでいるメンパーのほうが多かった」(89ページ)

この北の達人コーポレーションの事例を読み、私は、つまものの販売、いわゆる葉っぱビジネスを営んでいる、徳島県勝浦郡上勝町の株式会社いろどりの事例を思い出しました。同社のWebPageには、次のように記載されています。「葉っぱビジネスを支えるのはパソコンやタブレット端末で確認できる『上勝情報ネットワーク』の情報です。

専用HPは毎日更新され、受注情報・全国の市場情報・今後の予測・昨年度比・栽培管理情報などが見られます。農家は、情報を分析、マーケティングを行い、葉っぱを計画的に栽培管理し全国へ出荷しています。その他、自分の売上順位が分かるなど、やる気の出る“ツボ”をついた情報も提供しています。2017年新システム導入時にはSNSを取り入れるなど時代に応じたシステムづくりをしています」

同社には、農家の「おばあちゃん」たちが、パソコンに表示されている受注情報を見て、つまものを山から採ってきて納めているようですが、個人別の売上順位も表示して、モチベーションを高めているようです。確かに、「嫌がるメンバーもいるだろうなと思った」と木下さんも懸念されたように、個人成績を社内で公表されることを嫌う人もいると、私も考えています。しかし、北の達人コーポレーションでも、いろどりでも、個人の成績を公表することがモチベーションを高めるという効果もあります。

繰り返しになりますが、私は、個人の成績の公表にはデメリットもあると思いますが、メリットの方が大きいと思っています。というのは、前述したようなモチベーションを高めること以外に、透明性が高まるからです。そして、今回は、KPIの可視化を事例として取り上げましたが、KPI以外の情報も、可能な限り従業員で共有化することが、これからの会社には求められていくと思います。そうすることで、従業員の方が、より経営者に近い視点で事業活動に臨むことが可能になるからです。

経営者の方が忘れがちですが、経営者と部下の間での情報格差は大きいことが多いようです。経営者の方が部下の方に対して、しばしば、「あいつは自分の立場だけで判断して仕事をしている」などと不満を持つことがあると思いますが、その一方で、もし、部下の方が知り得る情報が限られていれば、経営者の方と比較して、狭い視点で判断をすることは当然と言えます。

したがって、経営者の方が、事業活動を組織的に行いたいと望むのであれば、社内の情報の透明性を進めなければなりません。そこで、従業員のモチベーションを高めたい、事業活動を組織的に行いたいと考えている経営者の方は、自社の情報がどれくらい可視化されているのかを確認し、あまり可視化が進んでいなければ、その状況を改善することをお薦めします。

2025/6/14 No.3104