[要旨]
北の達人コーポレーションの社長の木下勝寿さんは、新人を育成するために、広告のつくりかたを教えてから、広告を実際につくらせ、先輩のOKを得てから出向するようにしたのですが、新人たちの中には、実際に広告の効果があったかどうかは把握せず、先輩のOKをもらうことを目的化してしまう人も現れたそうです。そこで、木下さんは、個人にKPIを設定する必要があると感じたということです。
[本文]
東証プライム市場に上場し、化粧品などの通信販売を営んでいる会社、北の達人コーポレーションの社長の、木下勝寿さんのご著書、「チームX-ストーリーで学ぶ1年で業績を13倍にしたチームのつくり方」を拝読しました。同書で、木下さんは、KPIの活用法について述べておられます。「2021年6月、全盛期は毎日1,000人の集客ができていたが、この頃の1日平均集客人数は3分の1以下(303人)にまで落ちていた。
この時期、新しく打った手として、『KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)マネジメント』がある。簡単にいえば、日常業務を数値化して評価する仕組みだ。当時のマネジメントは、組織の肥大化に追いつけていなかった。全メンパーが10人以下の頃は手分けして仕事をやっていたので、誰が何をやるか、すぐにわかった。だが、100~200人規模になると、一人ひとりは全体の一部の仕事しか担わない。なのに、10人の頃と同じマネジメント体制のまま組織だけが拡大していた。
メンバーのうち、全体が見えているのはごく一部だけ。業績が落ちたとき、一人ひとりが何をすベきかわからなくなっていた。だこれは、私が直接行う前の広告クリエイティプの新人研修でのエビソードードだ。広告クリエイティプの目的は、広告を出稿して新規顧客を集客すること。クリエイティプのつくり方を新人に教え、実際につくり、出稿してみた。なかには、成果が出るものもあれば、まったく成果が出ないものもある。結果を踏まえ、修正して出し直し、PDCAを回していく。
このとき注意すベきことがある。『とりあえず広告を出してみる』姿勢だと、新人の広告は質が低いため、成果が上がらないどころかユーザーに悪印象を与え、プランド棄損につながるケースがある。よって、新人はいきなり広告を出すのではなく、まず先輩にチェックしてもらい修正。ある一定レベルになったものだけを出稿するようにした。一部の特別センスがいい人を除けば、新人がいきなり広告をつくってすぐに先輩のOKが出ることは少ない。よって、何度もつくり替えることになるが、徐々に目的が『集客できる広告』から、『先輩がOKと言う広告』にすリ替わっていった。新人が出稿した広告では、次のようなことが頻発した。
『あれ?この広告では“楽天ランキング1位の商品はこれだ!”と書いてあるけど、リンク先のページにはそんなことは全然書いてないじゃない』『すみません、リンク先のことまで考えていませんでした』また、『先日、面白い広告出したね、結果はどうだった?』『あ、結果は知らないです』このように、新人の大半が、何のために広告をつくるのかという本来の目的からズレてしまっていた。全体が見えていない人を正しい方向に導くには、『これさえやっていればいい』という仕事のガイドラインに加え、うまくいっているかどうかが明確にわかる『数値指標=KPI』が必要だ。
KPIがない状況では、上司や指導役の先輩から『OK』と言われる広告をつくることが目的になってしまう。経営面では、『無収入寿命』、『5段階利益管理』、『上限CPOの設定』(詳しくは拙著『売上最小化、利益最大化の法則』参照)なと独自のKPIを細かく設定していたが、それまで個人の働きにはKPIを導入していなかった。メンパー一人ひとりが自ら判断できるよう、KPIを設定する必要性を感じた」(59ページ)
引用部分の内容をまとめると、手段と目的の取り違えが起きることを避けるために、KPIを設定するとよいということだと思います。そして、このKPIは数値で示される目標であるため、否定的に評価する方も少なくないようです。というのは、数値目標を与えられた人は、その数値の達成ばかりに行動が囚われてしまうということです。そのようなネガティブな側面は、実際に起きていると私も感じていますし、北の達人コーポレーションでも同様のことが起きたことから、木下さんがその是正のための行動を起こしています。
しかし、そのようなネガティブな側面があるとしても、数値目標は設定する方がよいと、私は考えています。それは、木下さんもご指摘しておられるように、手段と目的の取り違えを避けることができるようになることです。例えば、本当は、集客数を増やすことが目的なのに、先輩からのOKをもらうことを目的としないようにするためには、集客数をKPIとすることは、その効果を期待できます。そして、ここでは木下さんが指摘していませんが、KPIを導入することのもうひとつの効果は、従業員の方が会社の業績の向上にどれくらい貢献したかを客観的に示すことができるということです。
このことは、個々の従業員の方の努力を、より正確に評価しやすくなり、従業員の方のモチベーションを向上させることにつながります。一方で、KPIに否定的な考えを持つ経営者の方の中には、KPIの設定に労力を要すると考えている方もいるようです。というのは、個々の従業員の方がKPIを達成しても、会社全体の業績が向上しないということも起きるからです。このようなことは、北の達人コーポレーションでも起きており、その度に、木下さんは、KPIの修正を行っているようです。
しかし、私は、このKPIの修正を通して従業員の方たちの足並みをそろえ、事業活動を組織的なものにしていくことが、まさにマネジメントだと思っています。前述したように、数値目標を使うことにはデメリットもありますが、それでも事業活動を組織的なものとし、業績を高めていくためには、数値目標を活用することは避けられないと思います。そして、数値目標を利用することのデメリットが最小限となるよう、適宜、部下たちの活動を管理し、修正を加えていく役割が経営者に求められていると、私は考えています。
2025/6/13 No.3103