鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

親身に話をすることで定着率は向上する

[要旨]

野村運送社長の野村孝博さんによれば、ドライバーたちは1人で仕事をすることが多いので、会社に対する不満やプライベートな悩みについて1人で考え、退職してしまうことがあるということです。そこで、野村さんの方から自分のプライベートについて話しをすることで、相手からもプライベートな相談をしてくれるようにしてもらい、その後のつながりを保つようにしているということです。このように、親身に話をすることで、その後の定着率は向上するということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、野村運送社長の野村孝博さんのご著書、「吉野家で学んだ経営のすごい仕組み-全員が戦力になる!人材育成コミュニケーション術」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、野村さんによれば、運送会社は納品先とは取引がないので、荷物に問題があれば、納品先は出荷元に苦情を言うことになりますが、さらにその苦情は出荷元から運送会社に伝えられるので、納品先で起きた問題は些細なことでもドライパーからの報告が必要になることから、経営者は、部下に対して、「報告をしてくれてありがとう」という気持ちで、問題が起きた時の報告をしやすい雰囲気をつくることが大切だということについて説明しました。

これに続いて、野村さんは、経営者が従業員と対話することで、定着率が向上するということについて述べておられます。「吉野家では、お店を挙げての飲み会だけではなく、シフトが終わった後に個別に飲みに行くこともよくありました。飲みに行くだけでなく、社員のご自宅にお邪魔するなどということもありました。私が苦手と感じていだ方が同席したのですが、こちらの考えすぎだったようで、その後、徐々に親しくなることができました。飲食店、特にスビードが重視されるファストフード店では、ビークの時間帯はまさに戦場です。

次々に来店されるお客様に対応するために皆必死で、指示を出す側も言葉を選んでいる余裕がありません。語気も荒くなってしまいます。ですから、お店で一緒に仕事をしていても、厳しいことばかり言われて、苦手意識を勝手にもってしまうケースがありました。私自身、接客は割と無難にこなしていましたが、パックルームの仕事となるとなかなかうまくできるようにならす、深夜、社員の方と2人のシフト勤務の際、バックルームの仕事を教わっている時にかなり厳しいことを言われました。

できない自分が悪いので仕方がないのですが、2人だけの仕事場で一方的に言われてしまうと、勤務が終わる頃にはヘトヘトになってしまいます。でも、そんな厳しい方が、3人でシフトに入った勤務後に、遊びに誘ってくれました。すでに苦手意識をもっていたので、誘われた時は「なんで??」と思いましたが、話してみるとこちらが勝手に苦手意識左持っていただけで、仕事の上での厳しい言葉も他意はなかったのだということが分かりました。

仕事を離れて個人的なコミュニケーションを取ることで、苦手だと思っていた方とも打ち解けることができたのです。この経験をふまえ、私が時間帯の貴任者の時は、『忙しくなると言葉が荒くなるかもしれないけど、なっちゃったらごめんよ』と先に謝るようにしました。先述したとおり、トラックドライバーは基本的に1人で仕事をします。一匹狼気質の人が多いのですが、そういう人こそコミュケーションが必要です。

1人で仕事をしますから、運転中に1人で考えてしまいます。仕事の不満、家庭の事情などをさまざま考えて、特に相談もなく退職を決めてしまうドライバーもいます。『そんなこと、なぜ相談してくれなかったの?』、『それくらいなら対応できたのに……』などと思っても後の祭りです。仕事場でしか接していないと、仕事以外の顔も見えてきません。昨今では社員のプライペートなことに首を突っ込むのは憚られますが、まずはこちらのプライベートについて話すことで相手も少しずつ話してくれるようになるかもしれません。

プライベートな相談をしてくれるようになったときが、その後のつながりを保ついい機会です。残念ながら、プライベートの相談の9割は『お金』です。急な物入りで、少し大きい額のお金を貸してほしいと言われることが多いのですが、そうした時はどうして必要なのかを含めて、根掘り葉掘り聞きます。お金を貸す際に大切なのは、きちんと借用書を書かせることです。手統きとしては会社でお金を出して、月々の給料から引いていく形が簡単ですが、お金を惜りることの重要性が伝わりません。

また、場合によってはお金を貸さないこともあります。甘やかすことになるだけで本人のためにならないケースです。以前、『140万円貸してください、今日取りに行きます』などと言われたことがありましたが、流石に現金をそんなに持っているはずるなく、まずはお金はそんな安易に借りられるものではないと諭し、そのほかにもいろいろと話をして、最終的には貸さずに済みました。少し話がそれましたが、本人のために親身に話をすることで、その後の定着率は間違いなく向上します」(116ページ)

野村さんは従業員に対する借金について述べておられますが、実際に融資をするかどうかは別として、相手の言い分を聴くことが定着率を高めることにつながります。このことについても、ほとんどの方がご理解されると思いますが、一方で、従業員の方たちと実際に話をする経営者の方はあまり多くないようです。その理由としては、経営者の方は従業員よりも顧客対応を優先してしまうという面があるからだと思います。そこで、私は、従業員の方たちとの面談はスケジュールに組み込んで行うことをお薦めします。

その実例として、日本マクドナルドのOBで経営コンサルタントの松下雅憲さんは、ご著書、「店長のための『スタッフが辞めないお店』の作り方」の中で、店長は、新人スタッフに対して、3日目、30日目、3か月目に、オリエンテーションを行うことをお薦めしておられます。「スタッフが辞めないお店では、初日から3か月間は、1回目のオリエンテーションで渡した『オリエンテーションガイド』と『基本作業手順書』を使って、新人を一人前のレベルに導いていきます。

そして、3か月経つと今度は、さらに成長をしていくために『“店舗目標”にリンクさせた“個人の強みを伸ばし弱みを改善する目標設定”」を行なうのです。たとえば、『お客様へのお薦め力を向上させるために、お薦めアタックを1日2回行なう。成果は、1日10回のお薦めを成功させることで評価する』といった感しです。この目標設定で大切なのは、ただ単に『○○を行なう』の行動レベルではなく、『○回成功させる』という成果レベルで評価していることです。行動は、あくまで成果を得るための手段なのです。

このように、具体的な行動と成果の目標を設定し、この行動と成果に対して毎日店長や先輩からフィードバックを行なうのです。これをすれば、マンネリゾーンになんて入っている暇はありません。スタッフが辞めないお店では、3か月目を迎えたら、この目標設定のためのフォローアップオリエンテーションを行なうのです。私が、かつてお世話になったマクドナルドやとんかつ新宿さほてんでは、これらはあたり前のスタッフの成長プロセスになっています」(62ページ)

松下さんのご支援するファストフード店では、新人スタッフに目標を設定するためのオリエンテーションを行うことで、離職を考える機会をなくすという副次的な効果があります。もちろん、目標設定を行えば、新人スタッフは成長するし、定着率が高まることで、新たなスタッフの採用のためのコストや、育成するためのコストの発生を避けることができます。このように、従業員の方たちとの面談は、遠回りのようで、会社の競争力を高めたり、コストを削減したりする効果があります。したがって、現在、従業員の方との面談をあまり行っていないという経営者の方は、これをスケジュールに組み込んで実践することをお薦めします。

2025/6/3 No.3093