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野村運送社長の野村孝博さんが、かつて、同社の7トン車の配車を担当していたとき、7トン車は6台ありましたが、サイズが同じなのは2台だけだったため、荷台が短くて積みきれないトラックを配車することや、車長が長くて納品場所に入れないトラックを配車することもないように気を遣わなければなりませんでした。そこで、野村さんは、トラックの入れ替えの際、おおよそ一般的なサイズの荷台に統一していき、6~7年程度で全車の入れ替えが終った結果、サイズが統一され、配車業務がシンプルにすることができるようになりました。
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今回も、前回に引き続き、野村運送社長の野村孝博さんのご著書、「吉野家で学んだ経営のすごい仕組み-全員が戦力になる!人材育成コミュニケーション術」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、野村さんが、吉野家でアルバイトをしていたとき、5時55分に来店した顧客から朝定食の注文を受けたものの、6時になっていなからと断ったことがあったそうですが、後に社員の方にきいたところ、席で6時まで待ってもらえば朝定食を提供してよかったときき、顧客からの要望には柔軟に応じる考え方が重要ということを学んだということについて説明しました。
これに続いて、野村さんは、標準化により業務の簡素化を図ることが大切であるということについて述べておられます。「吉野家では、アルパイトに業務を任せるためのマニュアル化が徹底されています。その基てあるマ二ュアルは、かなり分厚いものでしたが、商品の種類が少ないためにある程度のページ数でまとめられていたといえます。ファミリーレストランのようにメニューの多い業態では、同様のマニュアルを作成した場合、それこそ膨大なページ数になってしまいます。優秀な人であれば、膨大なマ二ュアルをしっかりと読みこなすのでしょうが、私のように何卷にも渡る長編小説や、分厚い本に圧倒されてしまうような人間はそうもいきません。
とはいえ、ページ数を抑えれば、解説は大雑把になってしまうでしょう。吉野家のマ二ュアルがしっかりしているのは、先述したとおり商品構成がシンプルであることが一つの要因です。当時、メインとなる牛井は並・大盛・特盛の3種であり、量が異なるだけ。サイドメニューは玉子、みそ汁、お新香、ごぼうサラダ、ポテトサラダの5種類。朝定食は焼魚定食と納豆定食の2種類。ほかに牛皿とライスがありますが、これらは盛り付け方が牛井と違うだけで、内容は基本的に同じものです。
加えてビールと日本酒もありましたが、今でもすぐに思い出せるくらいのシンプルな商品構成でした。(中略)精算=毎日の棚卸しもこうしたシンプルな商品構成だからこそ、アルパイトに任せて実施することができたのでしょう(近年は当時よりもメ二ューが増えています)。私が今の会社に入社したばかりの頃、『配車』という、お客様からの依頼を受けてトラックを手配する仕事を担当しました。トラックは俗に2トン車、4トン車、7トン社、10トン車などと呼ばれますが、実際には車両が持つ機能によってさまざまな呼び方があります。
そして、それらのトラックがすベて同じサイズかといえば、そうではありません。用途によってさまざまなサイズがあり、例えば4トン車でも、荷台の長さが6.2mの車両もあれれば、5.8mと短い車両もあります。当時、そんなことさえ知らなかった私は、お客様から『4トン車を1台お願いします』との依頼を受けて、トラックを割り当てて車両ナンバーを報告すると、お客様から『このクルマは荷台が短いので積みきれません』と車両の変更を要求されてしまいました。そんなやりとりが何度かあり、お客様のほうが弊社の車両に詳しいという恥ずかしい状態であることに気が付いたのです。
前任者はそれが当たり前という認識で、今思えば商売道具であるにもかかわらず各トラックの仕様が無視されていたのもおかしな話なのですが、私はその後すぐに各車両の荷台サイズを計測して一覧表にしました。すると、荷台サイズはバラバラ、最大積載量もまちまちでした。私が担当した車両のうち、7トン車と呼ばれるトラックは6台ありましたが、サイズが同じなのは2台だけでした。取引歴の長いお客様であれば、先述したように弊社の車両に詳しくなっていただいているのですが、初めてのお客様はそうではありません。
荷台が短くて積みきれなくてもいけませんし、長くて納品場所に入れなくてもいけませんから非常に気を遣いました。そのような状況は簡単には改善できませんでしたが、車両を代替えする際に、おおよそ一般的なサイズの荷台に統一していきました。幸い、古い車両が多かったので、6~7年程度で全車の入れ替えが終わり、サイズの統一が図れました。これにより、配車業務がシンプルになり、今では担当者とお客様とのやりとりもスムーズです。サイズがバラバラになってしまった原因は経営者の側にあるでしょう。
正確にいえば、購買担当者ですが、中小の運送会社では経営者が担当することがほとんどです。会社経営の立場からすれば安く仕入れることは重要ですが、例えばトラックメーカーから出来合いの車種を勧められるなどということもあります。中古販売会社から新古車を勧められるといったケースもあるでしょう。それが用途にマッチするのであれば問題ありませんが、出来合いのトラックが用途を満たしてくれることはまれです。
120万円安く買ったとしても、10年乗ると考えれば、120万円÷10年÷12カ月=1万円/月です。先述した煩わしさが解消ざれるのであれば1カ月に1万円、20日稼働したとして500円/日。チリも積もれば山となりますから1日500円は痛いがもしれませんが、標準化して効率がよくなれば、1カ月に1万円多く稼ぐのは難しくありません。安値に魅了されて使いづらい車両を仕入れるより、業務の簡素化が図れるように標準化することのほうが重要です」(65ページ)
この、商品の種類を減らすことで成功した事例として、私は、マブチモーターの事例を思い出します。同社のホームページには、標準化について次のように記載されています。「創業初期の主力市場であった玩具業界においては、お客様ごとに異なる要望に合わせて受注生産を行っていました。モーターが個別仕様のため、多品種少量生産となり、コスト高に陥る結果となっていました。また、その当時の玩具用モーターの大半は、欧米のクリスマス商戦向けの製品に組込まれるため、生産量の季節変動が激しく、年間を通して安定した雇用や品質の確保が困難でした。
これらの問題が、モーター生産数量が急増するにつれ顕在化してきたため、根本原因である個別対応から脱却し、同時に季節変動を緩和する必要性があったのです。上記の問題に対して当社は、お客様のニーズを集約し、最大公約数的な標準モーターを作ることにしました。機種を絞り込むことで大量生産や生産の平準化が可能となり、雇用と品質が安定し、個別対応時に比べコストが大幅に低減され、モーター価格を劇的に下げることが可能となったのです。
モーターコストの低減は市場での価格競争力を持続・拡大させ、さらにモーターの性能を絶えず進化させることで用途の拡大にも効果を発揮しました。こうして標準製品を購入するお客様が増加すれば、規模の経済効果により、さらにコストを削減できるという好循環が生まれ、持続的な競争優位の維持に成功したのです」このように、モーターの標準化は、生産する側にも購入する側にもメリットがあり、同社の戦略は成功しました。
したがって、中小企業でも、取扱商品を絞り込むと同時に、コストでのメリットを提示すれば、需要を増やす機会が得られるかもしれません。ただし、製品を絞り込むことだけが、必ずしも優位な戦略であるとは限りません。中小企業白書2018年版によれば、熊本県熊本市にあるシタテル株式会社は、衣服生産プラットフォームサービスである「sitateru(シタテル)」を運営しています。
「sitateru」には、「1,00を超える国内の中小縫製工場等をデータベース上で把握し、都市部のデザイナーや小売店等、衣服を作りたい事業者とマッチングすることで、少 量・短納期での生産を実現」しています。具体的には、従来の業界の商慣行では最少ロットは300枚のところを、sitateruでは最少ロットを50枚で受注できるようにしたり、「生産のリードタイムも通常、半年から1年かかるところを、1~2か月まで短縮することが可能」になりました。このように、多品種少量生産で優位性を発揮する場合もあります。
ここで注目すべきことは、製品を絞り込む戦略も、多品種少量生産も、どのような製品を提供するかではなく、どのように提供するかで優位性を発揮しているということです。すなわち、現在は、品質や価格での競争は限界になってきており、提供方法などで優位性を発揮する時代になっているということです。経営者の方は、このような視点をもって経営に臨むことで、競争に勝つための戦略を見つけられるようになると、私は考えています。
2025/5/23 No.3082