鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

営業も社員教育も延期しても中止しない

[要旨]

野村運送社長の野村孝博さんによれば、同社では、営業活動も社員教育も、お客様ヘの情報提供とトラプル対処に比ベると緊急度は低いので、お客様対応を優先させているそうですが、社内の対応は延期することはあっても、重要度はお客樣対応と同じかそれ以上なので、会社の未来を考えると中止することはないということです。ただ、『トラプルがあったから』、『忙しかったから』と、社内の緊急性の低い仕事を後回しにする理由はどんどん出てきますので、経営者は、肝に銘じて取り組まなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、野村運送社長の野村孝博さんのご著書、「吉野家で学んだ経営のすごい仕組み-全員が戦力になる!人材育成コミュニケーション術」を読んで私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、野村さんが、野村運送に入社したころは、棚卸時に在庫差異が出てしまうケースがよくあったそうですが、その在庫差異については、顧客と設定した許容範囲を大幅に逸脱していたため、月に一度実施していた棚卸を、吉野家に倣って、毎日実施することにしたところ、容易に在庫差異の要因がつかめるようになり、ミスを防ぐためにマニュアル化することで、顧客からの信頼や品質の向上につながったということについて説明しました。

これに続いて、野村さんは、仕事の優先順位について述べておられます。「吉野家における仕事の優先順位については(中略)、最優先はやはりお客様対応です。しかし同社では、緊急度が低く重要度が高い作業が、お客様対応の合間に上手に盛り込まれていました。弊社のサービスで最優先なのは、お客様の商品をお預かりして、指定ざれた場所に届けることです。各ドライバーに指示を出して指定された場所で商品をお預かりし、指定された時間に指定された場所へお届けします。

しかしこのサービスは予定どおりにこなすことができればいいので、緊急性は高くありません。緊急性も重要性も高いのは、まずサービスに付随する情報です。特に見積もりはスピードが命ですから、依頼があってからお待たせすることなく提示するのがベストです。見積もりを依頼してくるお客様は、その見積もり金額を基準に、ご自身のお客様に折衝します。そのため、見積もりの提示が遅くなれば、お客樣の動きも遅くなり、ビジネスに影響が出てしまいます。先述したとおり、どんな仕事にも前工程と後工程があります。

ですから、弊社では後工程をスムーズにするために、依頼された見積もりは、原価計算をしっかり行って、ほぼ当日に提示しています。この点を評価してくださるお客様が多く、多少単価が高くても弊社に発注いただく場合もあります。ほかにも、使用するトラックの車両ナンパー、担当するドライバーの名前と携帯電話番号など、求められる情報はいくつもあります。

それ以外の問い合わせにどれだけ迅速に回答できるかで、受注できるか否かも変わってきます。トラプルへの対応も緊急度が高いです。予定どおりに仕事をこなしてくれればいいのですが、トラックは故障することもありますし、ドライバーが体調不良になることもあります。予備のトラックを置いている会社もありますが、ドライバーの体調不良のために余剰人員を雇っておくような会社はほとんどありません。

そうしたトラプルの場合は、管理職が代わりに乗務することになります。もちろん私自身もトラックに乗ります。運送会社でトラプルといえば交通事故です。事故対応は、事故の大小や過失の有無にかかわらず即座に対処しなければなりません。管理職はできる限り現地に急行するベきです。倩けない話ですが、かつては事故の程度を軽く見て、対応を後回しにしたことで相手を不快にさせてしまったり、お客様が先に謝罪に行ってしまったりということがありました。

以前、逆に弊社が事故の被害者となったケースがありました。幸いドライバーにケガはなく、車両も少し傷がついた程度だったので修理の必要もないくらいでしたが、相手の運送会社か県をまたいで、わざわざ当日中に謝罪に来てくれた経験がありました。このような経験から、弊社でも、どんなに軽微と思われる事故やトラプルであっても即座に謝罪に伺うようにしています。

そうした緊急対応に追われて儀牲になるのが、日常の事務仕事と営業、社員教育です。事務仕事は、締日までに分散して処理するなどしてもらいますが、それでも負担が大きくなる時は、ほかの社員の手を借ります。営業活動はアポイントを取るなどしていなければ先延ばしになってしまいます。社員教育も、担当者がトラプルの対処に動かなければいけない時は延期にします。営業も社員教育も、お客様ヘの情報提供とトラプル対処に比ベると緊急度は低いので、お客様対応が優先となります。

社内の対応は延期することはできますが、重要度はお客樣対応と同じかそれ以上なので、会社の未来を考えると中止はあり得ません。とはいえ、社員に過度な負担をかけることもお勧めできませんので、こうした時こそ経営者あるいはリーダーの踏ん張りどころといえるでしょう。『トラプルがあったから』、『忙しかったから』と、社内の緊急性の低い仕事を後回しにする理由はどんどん出てきますが、重要性が高いことを肝に銘じて取り組みましょう。トラプルの時こそ会社の真価が問われます」(54ページ)

私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、多くの(というよりも、ほとんどの)中小企業は、日々、目の前の仕事をこなすだけで精一杯ということです。そして、業績がよい会社とそうでない会社の違いは、どれだけ緊急度の高い仕事を減らし、重要度の高い仕事を能動的に取り組むことができるようにするかということだと思います。

最悪なのは、あまり採算が得られない顧客からのクレームの対応に追われてばかりいて、クレームなどは少ないけれど採算が得られている顧客との取引拡大の機会を逃している状況が続いていることです。さらには、経営者も従業員も、クレーム対応を乗り越えることが最も大切な仕事えあり、そうすることが会社の利益を増やしていると勘違いしてしまっていることです。確かに、クレームに対処することは大切ですが、それが必ずしも利益につながっているとは限らないのですが、それを把握できていないことも少なくありません。

また、野村さんは、迅速な見積もりを提示することを重視し、そのことが顧客からの評価につながっていますが、このような対応が実践できるのも、原価計算を行える体制構築という重要性の高い仕事を後回しにしなかった結果だと思います。では、緊急度は低くても重要度の高い仕事を後回しにしないようにするにはどうすればよいのでしょうか?その方法は1つだけではありませんが、私は、日報を書くことだと思います。もちろん、日報の書き方には工夫がるのですが、この日報を書くことで計画的な活動を行い、業績を向上させている会社経営者は少なくありません。

ただ、この日報を書いたり、計画を立ててそれを実践する経営者の方は、割合としては低いということも実態の要です。ありていに言えば、計画的な行動ができない経営者とは、いわゆる三日坊主の経営者ということです。少し上から目線で恐縮ですが、三日坊主の経営者は、意思があまり強くないことが原因ということでしょうから、重要度の高い仕事を後回しにせず、強い会社をつくることができるかどうかは、結局は、経営者の意思の強さに帰するということになるのだと思います。

2025/5/20 No.3079