[要旨]
野村運送社長の野村孝博さんによれば、仕事には緊急度・重要度ともに高い仕事と、緊急度が高く重要度が低い仕事などがありますが、多くの会社では緊急性の高い仕事が優先され、重要度の高い仕事は後回しにされる傾向にあります。そのため、トラブルやアクシデントなどの緊急度の高い仕事が増えることにつながるという悪循環に陥ることがあるので、緊急度が低いからといって重要度の高い仕事を後回しにすることは避けなければなりません。
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埼玉県入間市にある株式会社野村運送の代表取締役の野村孝博さんのご著書、「吉野家で学んだ経営のすごい仕組み-全員が戦力になる! 人材育成コミュニケーション術」を拝読しました。野村さんは、大学生時代の4年間、吉野家でアルバイトをしましたが、祖父の代から続く野村運送に役員として入社してからは、アルバイト時代の経験を活かして、同社の事業を拡大してきたそうです。まず、野村さんは、同書で、仕事の優先順位について述べておられます。
「吉野家では、お客様が少ないときには接客以外の作業が時間帯ごとに割り振られていました。例えば、使用済み食器の洗浄、使用済みの割り箸をはじめとしたゴミの処理、お客様が使用する箸やしょうゆ、紅生姜、唐辛子の補充、お新香やサラダの準備、お店の清掃、牛丼の品質を維持するためのタレ調整、配送された商品の検品・格納、精算など、接客以外にもやる二とが目白押しです。
そうした仕事は、緊急度と重要度という2つの要素を柱として4つに分けることができまず。A『緊急度・重要度ともに高い』、B『緊急度が低く重要度が高い』、C『緊急度が高く、重要度が低い』、D『緊急度も重要度も低い』の4つです。Aの『緊急度・重要度ともに高い』仕事が、接客を含めたお客様対応になります。お客様が少ない時間帯で作業をこなしていたとしても、お客様がいらっしゃれば、その対応が最優先となります。
Bの『緊急度が低く、重要度が高い』仕事が、来客が少ない時間帯の作業にあたり、これが非常に重要です。Cの『緊急度が高く、重要度が低い』仕事ですが、これは吉野家では記憶する限りありませんでした。そもそも『重要度が低い』のですから、本当にやる必要があるかを検討しなければいけない領域の仕事です。Dの『緊急度も重要度も低い』仕事もなかったと記憶しています。それだけアルパイトのやる仕事はブラッシュアップされていました。運送会社は、業務上、突如としてAの『緊急度・重要度ともに高い』仕事が発生してしまいます。
例えばトラックの故障です。トラックが故障して、走行が続けられないとなれば、積んでいる荷物をどうするか、故障したトラックをどうするか、ドライバーをどうするかをすぐに判断して行動に移さなくてはなりません。あるいは、ドライバーが体調不良になってしまうというケースもあります。また、交通事故の場合も同樣です。先述した対応に加えて、謝罪や交渉も必要になってきます。たとえ交通事故が軽微なもので、ドライバーが仕事を継続できるようなケースでも、上席者が即座に謝罪・交渉に伺うことは非常に重要です。事故やトラプルへの対処は初動が肝心。早く動けば動くほど、相手に誠意が伝わります。
こうしたA『緊急度・重要度ともに高い』仕事が、通常業務に割り込んでくることによって、B『緊急度が低く、重要度が高い』仕事が後回しにされてしまいます。時には、D『緊急度も重要度も低い』仕事が明らかになり、その作業をスリム化できるケースもあるでしょう。しかし、B『緊急度が低く、重要度が高い』仕事は疎かにしてはいけません。例えば、Bである社員教育を中止にしてしまっても誰にも迷惑はかかりませんが、その分会社の成長が止まると心得て、しっかりと取り組むことが必要です」(42ページ)
野村さんがご指摘しておられる、緊急性と重要性の関係については、私が説明するまでもないと思います。ただ、私が中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、緊急性ばかりが優先され、重要性が後回しになる会社が多いということです。この緊急度の高い仕事は、具体的にどのようなものかというと、急ぎの受注、アクシデント、トラブルなど、すぐに思い浮かぶと思います。一方で、重要度の高い仕事は、野村さんが例に挙げている社員教育の他、市場調査、戦略策定、計画作成、実績検証などの管理業務などが該当すると思います。
ここで私が感じることは、緊急度が低いからといって、重要度の高い仕事を後回しにばかりしていると、業績は下がって行くということです。例えば、社員教育は重要であるものの、緊急度が低いために後回しにし続けると、顧客満足度が下がったり、事業活動の精度が下がったりします。また、そのことによって、トラブルやアクシデントが増え、緊急度の高い仕事に追われてばかりということになります。こういった悪循環が続けば、業績が下がるということは容易に理解できることだと思います。
ところが、このことを理解しながら、重要度の高い仕事を後回しにしないようにすることは、頭で考えるよりも容易ではないことも事実のようです。私自身も、緊急度の高い仕事に追われることが続いており、身をもってこのことを感じています。では、どうすれば重要度の高い仕事を後回しにしないようにできるのかということですが、これは、事業活動を計画的に行うとだと思います。
この、計画的に活動することも口で言うほど簡単ではないですが、業績を高めたり、会社を強くしたりする方法は、計画的な活動を行い、重要度の高い仕事を後回しにしないことだと思います。よく、業績を高める方法は、派手で華やかな手法が効果があると考えている人がいますが、そのようなことができるようになるにも、重要度の高い仕事をそつなくこなして、実力をつけているからできることだと私は考えています。
2025/5/16 No.3075