[要旨]
税務会計的に作成された決算書は、会計基準を半ば無視していますから、会計的には不適切である可能性がありますが、一方で、法律で監査法人の監査を受けることが義務づけられている会社は、上場会社や会社法上の大会社に限られているため、税務上は問題なくても、会計上は問題が多いという会社が少なくないようです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、法人税等は会計情報を前提にしており、税務と会計は密接な関係にありますが、税務と会計は同じものではなく、会計は企業の経済的実態を忠実に描写することを旨としていることから、合理性や一貫性を重視していることに対し、税務は合理的判断ではなく政治的判断で決まり、ルールは毎年変わるので一貫性がないことから、会計基準と税制は乖離が広がる一方であるということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、会計基準を守らなければならない会社について述べておられます。「税務会計的に作成された決算書は、会計基準を半ば無視していますから、会計的には不適切である可能性があります。ということは、税務会計的な決算書が容認されるのは、会計基準を真面目に守らなくてもいい会社です。もちろん、会計基準は守るベきものではあります。ただ、会計基準を守っているかどうかをチェックするのは、現実的には監査法人しかいません。
ということは、監査法人の監査を受けていない企業は、決算書が“会計的に”適正でなかったとしても、事実上、誰からも怒られることはなく、罰せられることもないのです。では、監査法人の監査を受ける義務がある会社とは、どういう会社でしょうか。多くの人は『上場会社』と答えるかもしれませんが(中略)、上場していなくても会社法上の大会社に該当すると法定監査義務が生じます。逆に言之ば、それほど大きくなく上場もしていなければ、法定監査義務はありません。それが圧倒的多数です。そういう会社は会計基準を真面目に守らなくても、誰からも怒られないのです。
このように作成された決算書は会計基準に反している部分があり得ますが、一般の人にとっては、達いがあまりわからないでしょうし、問題になることもほとんどないと思います。ただ問題になってから大慌てで対応しなければいけない場合もあります。典型例は、上場を目指す会社です。上場を目指す会社は、上場前の一定期間、監査法人の監査を受けて、決算内容が適正であるというお墨付きをもらわなければ上場できません。そういう会社の中には、『ウチは今までずっと税理士さんに見てもらっていますから、決算内容については大丈夫です!』という会社が結構あります。
ところが、そういう会社にいざ監査が入ってみると、会計上間題だらけで、上場を前にして大慌てということが時々起こります。税理士は税法に照らして適法であるかどうかは見ますが、会計的に適正かどうかは必ずしも見ません。税理士はあくまでも税に関する法律家であって会計の専門家ではないので、会計にはあまり詳しくない可能性がありますし、関心もないかもしれません。そのため、税務上は問題なくても、会計上は問題だらけということが起こり得るのです」(253ページ)
金子さんは、「『ウチは今までずっと税理士さんに見てもらっていますから、決算内容については大丈夫です!』という会社が結構あります」と述べておられますが、私も同様のことを感じています。中小企業経営者の方の多くは、税理士の方を信頼している(というだけでなく、よく分からないから任せきりにしている)ようなのですが、「税理士」の「守備範囲」はあまり広くありません。
確かに、税理士の方は多くの知識を持っておられますが、必ずしも、会計分野や、経営分野に詳しいとは限りません。もちろん、税理士の方の中には、会計や経営について学んでおられる方もたくさんおられます。しかし、税理士試験の多くは税務に関するものなので、税理士試験に合格したことだけでは、会計や経営の専門性があることを保証しているわけではありません。
ですから、「会社のことは税理士さんに見てもらっている」からといって、必ずしも、正確な決算書が作成されたり、経営判断のために適切な助言を受けたりすることができるとは限りません。また、税理士の方の中には、顧問先に対して、適切な決算書を作成したり、適切な経営判断ができるような助言をしたりする能力を持っている方も少なくありません。しかしながら、一般的な税理士事務所は多くの顧問先を持っており、1つの顧問先に多くの時間を割けないために、税務申告のためだけの最低限のサービスしか行わないことも多いようです。
また、顧問先が税務申告以外のサービスを受けようとしても、それに応じた追加の顧問料が発生することから、政務申告以外のサービスは利用しない中小企業がほとんどなのではないかと思います。したがって、正確な決算書を作成し、適切な経営判断が行えるようにするためには、まず、税理士の本来の業務の守備範囲は狭いということを認識することだと思います。そして、会計部門の体制整備を経営者の方が主体的になって行うこと、そして、そのために専門家の方の助言を受けることから始めることが肝要と言えます。
2025/5/5 No.3064