[要旨]
法人税等は会計情報を前提にしており、税務と会計は密接な関係にありますが、税務と会計は同じものではなく、会計は企業の経済的実態を忠実に描写することを旨としていることから、合理性や一貫性を重視していることに対し、税務は合理的判断ではなく政治的判断で決まり、ルールは毎年変わるので一貫性がないことから、会計基準と税制は乖離が広がる一方です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、iPhoneなどを製造している米アップル社は、実際には、企画・開発・マーケティングだけに集中しており、製品の製造は、鴻海などのEMSに委託していることから、自社の棚卸資産は少なく、CCCがマイナスになっていますが、それは融資や出資を受けるときと同じような資金調達の効果を実現しているということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、税務会計と財務会計の乖離について述べておられます。「巷では『税務会計』という言葉が使われることがありますが、実は税務会計という会計分野があるわけではありません。確かに、法人税等は会計情報を前提にしており、税務と会計は密接な関係にありますが、税務は会計ではありません。会計は企業の経済的実態を忠実に描写することを旨とするものですから、合理性や一貫性を非常に重視します。しかし、税務にはそのような性格はありません。
税務は民から徴収する年貢の額を決めるものですから、合理的判断ではなく政治的判断で決まり、それ故にルールは毎年変わるので一貫性もありません。実際のところ、会計基準と税制は乖離が広がる一方です。乖離が広がると、税務申告において調整しなければならない事項がどんどん増えることになります。
そういう調整は大変ですから、税務申告のためだけに決算書をつくっているような中小企業は、最初から税法を全面的に意識した決算書を作成するのです。そうすれば、税務申告における調整は必要最小限に抑えられますから、経理業務が楽になります。この、最初から税法を全面的に意識して決算書を作成する会計業務を、俗に『税務会計』と呼んでいるのです」(252ページ)
金子さんは、「実際のところ、会計基準と税制は乖離が広がる一方」なので、「税務申告のためだけに決算書をつくっているような中小企業は、最初から税法を全面的に意識した決算書を作成する」と述べておられますが、私も、実際にそうなっていると思っています。とはいえ、中小企業経営者の方の多くは、「税務署のいう通りに決算書をつくっているのに、何が問題なのか」と考えていると思います。しかし、これも金子さんが、「会計は企業の経済的実態を忠実に描写することを旨とするものですから、合理性や一貫性を非常に重視」しますが、一方で、「税務にはそのような性格はありません」と述べておられますが、税務会計では会社の業績を正確に把握できないことがあります。
例えば、「中小企業の会計に関する指針」の第50条第1項には、「賞与引当金等の法的債務(条件付債務)である引当金は、負債として計上しなければならない」と規定しています。この「賞与引当金等」には、退職給付引当金、製品保証引当金、売上割戻引当金などの、負債性引当金といわれるものが含まれます。しかし、これらの引当金は、税務上、損金算入が認められていないことから、多くの中小企業では、「損金算入できないから」との理由だけで計上していません。
財務会計と税務会計の乖離についての説明はここまでにとどめますが、より正確な経営判断を行うためには、「財務会計」に基づく会計記録を行うことが大切ということです。さらに、財務会計だけでは不足する情報を得るために、管理会計を導入すれば、より正確な経営判断ができるようになります。そこで、現在、「税務会計」に基づいて会計記録を行っている中小企業は、中小企業の会計に関する指針、または、中小企業の会計に関する基本要領に基づく会計記録を行うことをお薦めします。
2025/5/4 No.3063