[要旨]
キャッシュ・コンバージョン・サイクルは、支払から入金までのタイムラグを意味していますが、ビジネスにおいては、支払が先に来て入金は後に来るというのが普通の順番であり、したがって、支払から入金までの間は資金が不足するので、その期間を乗り切る資金が必要になり、そのために必要となる資金を運転資金と言います。そこで、手元資金の乏しい企業は、短期に借り入れをしたり期日前に手形を割り引いたりなとの対策が必要になります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、利益の内部留保が多いことを理由に賃上げすべきという主張が行われることがありますが、人件費は利益を源泉として支払われるものではなく、人件費を差し引いた後が利益ですので、理論的に誤りであるということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、キャッシュ・コンバージョン・サイクルについて述べておられます。「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle、CCC)の単位は『日』を用いるのがふつうです。したがって、売上債権回転期問、棚卸資産回転期間、仕入債務回転期間もすべて単位が『日』のものを用います。そうするためには(中略)、(売上高、売上原価、仕入高は)年額を365で割ったものを分母に用います。
重要なのは、キャッシュ・コンパージョン・サイクル(=売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-仕入れ債務回転期間)の式の意味です。(中略)ある商品を仕入れると、仕入れた時点で在庫になります。在庫になった商品は、理論的にはそこから棚卸資産回転期間が経過すると販売されます。なぜならば、棚卸資産回転期間は販売までのタイムラグを意味するからです。販売されると、そこで売上高と共に売上債権が発生します。
その売上債権は、理論的には販売時点から売上債権回転期間が経過すると入金が行われます。なぜならば、売上債権回転期間は平均回収サイトを意味するからです。一方、最初に商品を仕入れた時点で仕入債務が発生しています。その仕入債務は、理論的には仕入れた時点から仕入債務回転期間が経過すると支払日がやってきます。なぜならば、仕入債務回転期間は平均支払サイトを意味するからです。
ということは(中略)、キャッシュ・コンバージョン・サイクルは、支払から入金までのタイムラグを意味することになります。(中略)支払が先に来て入金は後に来るというのがビジネスにおける普通の順番だということです。そうなると、支払から入金までの間は資金が不足する可能性があります。そのため、その期間を乗り切る資金が必要になります。それを運転資金と言います。
手元資金の乏しい企業は、短期に借り入れをしたり期日前に手形を割り引いたりなとの対策が必要になります。支払が先で入金が後なのは普通なので、キャッシュ・近バーション・サイクルは一般的にプラスになります。安全性の観点からは、キャッシュ・コンバージョシ・サイクルは当然短いほうが望ましいですし、短くなるように努めるベきです」(231ページ)
引用部分について補足すると、売上債権回転期間=売上債権÷(売上高÷365)、棚卸資産回転期間=棚卸資産÷(棚卸資産÷(売り気原価÷365)、仕入債務回転期間=仕入債務÷(仕入高÷365)と計算します。これらの計算式からわかることは、それぞれ、売上債権回転期間は売上債権(売掛金と受取手形)が売上高の何日分か、棚卸資産回転期間は棚卸資産が売上原価の何日分か、仕入債務回転期間は仕入債務(買掛金と支払手形)が仕入高の何日分かということを示しています。
次に、手形割引ですが、商品を販売した会社が、売上金を約束手形で受け取ることがあります。約束手形は、手形に記載された支払期日に、手形に記載された支払銀行へ呈示するか、自社の取引銀行に取立を依頼すると、手形金額を受け取ることができます。ちなみに、手形を受け取った会社は、その時点で手形金額を「受取手形」という勘定科目に計上します。
逆に、自社が約束手形を発行した場合は、その手形を商品を仕入れた相手の会社に渡した時点で、「支払手形」という勘定科目に計上します。(手形には為替手形もありますが、ここでは説明は割愛します)そして、手形割引とは、手形を受け取った会社が、融資取引のある銀行に手形を買い取ってもらうことです。手形割引は、法律上は手形の売買ですが、実質的には融資を受けることと同じ効果があります。すなわち、手形を売却した会社は、手形の支払い期日が来る前に、手形の売却代金として資金を受け取ることができます。
もちろん、手形を買い取ってもらった会社は、融資の利息に相当する「割引料」を銀行に支払いますので、手形を買い取ってもらった会社が受け取る資金は、手形金額から割引料を差し引いた残りの金額となります。なお、最近は、約束手形は発行されなくなりつつあり、その代わりに、ペーパーレス化された手形に相当する、電子記録債権が発行されるようになりました。この電子記録債権も、従来の約束手形と同様に、銀行に買い取ってもらうことができます。
なお、平均回収サイトとは、売掛金で言えば、売掛金が発生してからそれがなくなるまで(「なくなる」とは、現金(預金)になるか、または、受取手形に変わるという意味です)の期間です。例えば、毎月1日から末日までの1か月間の信用取引(掛売)の販売代金を、その翌月末に受け取ることになっている場合、平均回収サイトは、45日(=(最長回収期間60日+最短回収期間30日)÷2)ということになります。
さらに、売掛金の支払日に、その売掛金の金額を、3か月後の末日を支払期日とする手形、すなわち受取サイト90日間の手形で受け取っている場合、トータルの平均回収期間は135日(=45日+90日)ということになります。そして、この売掛金、受取手形は、商品を購入している会社からみれば、それぞれ、買掛金、支払手形ということになりますが、買掛金の平均支払サイトは45日、支払手形の支払サイトは90日、トータルの平均支払サイトは135日ということになります。
その次に、「運転資金」ですが、金子さんが述べている運転資金は、狭い意味での運転資金です。この狭い意味での運転資金は、正常運転資金、または、経常運転資金とも言われ、正常運転資金=売上債権+棚卸資産-仕入債務と計算します。一方、広い意味での運転資金は、会社の事業に使われている資金を指し、具体的には総資産の額を言います。
ちなみに、本旨から外れますが、仕入額よりも安い金額で商品を販売すること、すなわち、不採算取引によって資金が不足することがありますが、これは運転資金とは言わず赤字資金と言います。中小企業経営者の中には、採算管理を行っていないために、不採算取引に気づかずに事業を継続し、その結果、資金が不足しているのに、それを「運転資金が不足している」と説明することがありますが、これは誤りです。
このような資金不足が発生した場合は、融資を受けて急場をしのぐしかありませんが、根本的には不採算取引を解消しなければなりません。それにもかかわらず、採算を改善しないままでいると、さらに赤字資金が増加し、最終的には事業が行き詰まるということに注意しなければなりません。
話を本題に戻すと、CCCは、正常運転資金を日数で表したものと言えます。なぜなら、CCCの計算式の左辺と右辺に365をかけると、正常運転資金の計算式になるからです。したがって、CCC自体が何か特別な指標とは言えないのですが、資金不足を減少させるための手段として注目されつつあるようです。
というのは、正常運転資金は金額で表されていますが、これを減少させようとするときは、売掛債権と棚卸資産を減少させ、また、仕入債務を増加させることになります。では、それらを具体的にどのように行えばよいかというと、そのひとつは、事業活動の速度を速めるということになります。すなわち、受注を受けてからすぐに販売すれば、売上代金の改修も短くなります。
また、商品を発注して納品してもらう期間(リードタイム)を短くすれば、棚卸資産を減少させることができます。このようなアプローチにおいては、運転資金を日数で表したCCCを意識することで効果があると考えられます。したがって、現在、融資額をなるべく少なくしようと考えている経営者の方は、CCCを計算し、それをどのように短縮していくかということを検討することで、改善の手がかりが見つかるかもしれません。
2025/5/2 No.3061
