鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

悪玉コストと善玉コストを見極める

[要旨]

公認会計士の金子智朗さんによれば、費用は、一律に減らせばよいということではなく、キャッシュ・アウトの原因になる悪玉コストと、売上の源泉となる善玉コストがあるので、両者をしっかり見分け、悪玉コストは徹底的に減らし、善玉コストはさらに増やすという判断をしなければならないということです。そして、コスト削減は利益を増やすための1つの手段であり、自己目的化するようなことは避けなければならないということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ドラッカーの著書、「ポスト資本主義社会」によれば、資本主義社会の後にやってくるポスト資本主義社会では、最も重要なステークホルダーは、株主ではなく従業員であり、「重要な経営資源」と呼ベる知識を提供できる従業員がより重要になるということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、善玉コストと悪玉コストについて述べておられます。「費用と言うと、多くの人はほとんど条件反射のように『削減』と言います。費用は、とにかく嫌われ者です。なぜそれほどまでに嫌われるかと言うと、それは当然で、キャッシュの流出原因になるからです。しかし、費用を考える際にはもう1つ、決して忘れてはならない重要な側面があります。それは、費用は売上高の源泉でもあるということです。ビジネスにおいて、お金をかけないところから新たな富は生まれません。

これは私の造語ですが、費用には、善玉コストと悪玉コストがあるのです。キャッシュ・アウトの原因にしかならない費用が悪玉コストです。これは、徹底的に削減すベきコストです。一方、売上の源泉となる費用は善玉コストです。これは、むしろ増やしてもいいのです。業績が悪化した企業に限って、『費用一律10%削減!』などという大号令を掛けますが、これは無策の極みてす。

重要なのは、自社にとって何が善玉コストで何が悪玉コストかを見極め、悪玉コストは徹底的に削減する一方で、善玉コストはむしろ『増やせ』と言えるかどうかです。もし、善玉コストを削減すると、売上高の源泉を削減することになりますから、今まで以上に売上高が減少します。そうなると、相対的な売上高費用率は上がってしまいます。これでは本末転倒です。

逆に、善玉コストを増やすことによって売上高が今まで以上に増えれば、相対的な売上高費用率は下がります。これは、言わば『良い費用増加』です。これが、『売上高利益率は売上高と費用の“兼ね合い”で決まる』ということの真意です。多くの人はあまりにも『費用削減』と言い、費用削減が自己目的化しているところがありますが、費用削減は目的ではありません。単なる手段の1つです。本当の目的は利益を増やすことです。そのためには、費用を増やすという手段もあり得るのです」(208ページ)

費用に関することではないのですが、あるローカルスーパーが、販売する商品の見直しを行い、販売数が比較的少ない地場醤油の販売をやめたことがあったそうです。その結果、そのスーパーは来店客が減少し、売上が減ったそうです。そこで、その原因を調査したところ、そのスーパーでは、他店では売っていない地場醤油を買うために来店していた固定客がいたものの、その醤油の販売を止めたために、固定客を減らしたということがわかったということです。このように、商品数の絞り込みは、一般的によいことなのですが、他の商品の売上に貢献する商品を外すことは避けなければなりません。

同様に、コストについても、善玉コストと悪玉コストを見分ける必要があります。ただし、善玉コストと悪玉コストの見分け方は容易ではありません。特に、中小企業でそれを見分けることが困難となっている要因のひとつは、管理会計を導入していない会社が多いということです。中小企業の場合、多くは、税務申告のために最低限の記録だけを行わないため、会社全体として利益が出ているかどうかしか分析ができません。したがって、いきなり高度な管理会計は導入できなくても、商品別、部門別、顧客別、地域別など、簡単な分析ができるところから始めることをお薦めします。

もうひとつ、中小企業にお薦めしたいことは、バランススコアカード(BSC)を導入することです。BSCを導入することで、KPIを設定することになりますので、目標が達成できないときに、どのKPIが目標を達成できない要因になったのかが、すぐにわかります。少なくとも、経営環境はますます不透明になっていくなかで、精度の高い経営判断を行うためには、善玉コストを見分けることができるような体制を整えることは、ライバルとの競争に優位に立つために重要なことは間違いないでしょう。

2025/4/30 No.3059