鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

原因が当期以前に発生した将来の費用

[要旨]

会計の独特の考え方である引当金には、賞与引当金、役員退職慰労引当金、商品保証引当金、貸倒引当金などがありますが、この引当金は、(1)将来の費用、(2)原因が当期以前に既に発生、(3)費用の発生可能性が高い、(4)費用の金額を合理的に見積もり可能という4つの要件を満たす場合に計上することが求められます。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、2016年2月、株式会社東芝は約5,000億円の損失を出し、それにより債務超過に陥りましたが、その原因となったのは、東芝の米国子会社が行った買収に伴うのれんから発生した6,200億円を超える減損損失によるもので、この減損損失は、買収相手の会社の価値を事前に正確に把握できなかったことによるものであり、買収をするにあたっては、事前に慎重な調査と判断を行うことが大切ということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、引当金について述べておられます。「図表4-9は、ヤマダ電機を展開する株式会社ヤマダホールディングスの連結貸借対照表です。同図表中の太字部分が引当金ですが、いろいろな引当金があることがわかると思います。貸倒引当金だけは左側の資産にマイナス計上されていますが、それ以外の引当金は右側の負債に計上されています。引当金は、以下の4つの要件を満たす場合に計上することが求められます。(1)将来の費用、(2)原因が当期以前に既に発生、(3)費用の発生可能性が高い、(4)費用の金額を合理的に見積もり可能

具体的な会計処理は、見積もった費用の額を当期の費用として計上し、同額を負債に計上します。4つの要件のうち、中心となるのは最初の2つの要件です。まず第1の要件は、将来の費用だということですが、これはまだ実際には費用は発生していないということです。しかし、その原因が既に発生しているならば、実際には発生していない費用を費用として計上しろということを第2の要件は言っているのです。第3と第4の要件は、言わば恣意性を排除するための要件です。

原因が発生しているだけで何でもかんでも費用の計上を認めるわけにはいきませんから、費用の発生可能性が高く、その額を合理的に見積もることができるという要件を付して、企業の恣意的な処理を抑制しているのです。図表4-9に見られる引当金を、4つの要件に照らして具体的に見てみましょう。賞与引当金は、翌期に支給する予定の賞与額です。実際に賞与を支払うのは翌期ですが、一般に、翌期の賞与額は、当期の下半期の業績や各人の人事考課に基づき決定されます。ということは、原因は既に当期中に発生しているので、当期の費用として計上します。

賞与引当金が支払われるのは1年以内ですから、負債の中でも流動負債に計上します。役員退職慰労引当金は、役員の退職金に関するものです。これが支払われるのは、該当する役員が退職する将来のことですが、それは役員としての働きに基づいて決まりますから、その原因となっている当該役員の在任中に費用として計上します。役員退職慰労引当金が実際に支払われるのは、一般に数年後のことですから、負債の中でも固定負倩に計上します。

商品保証引当金は、商品の販売時にヤマダ電機が付す商品保証に関するものです。商品保証を付した商品は、将来何らかの不具合があった場合、ヤマダ電機の負担で修理等をすることになります。それが顕在化するのは、実際に不具合が生じる将来ですが、商品保証を付した商品を販売したことが原因となっていますから、商品を販売した期に費用として計上します。メーカーの製品保証は1年間であることが多いのですが、ヤマダ電機は2年や4年の保証を付しているので、商品保証引当金固定負債に計上しています。

貸倒引当金は、売上に伴う債権のうち、将来、顧客が支払不能に陥って回収できない可能性の高い額です。損失が発生するのは実際に顧客が支払不能になったときですが、たとえば法人顧客であれば経営状況の悪化など、支払不能につながる原因が既に発生した期に費用として計上します。貸倒引当金だけは、右側の負債に計上する代わりに、左側の資産にマイナス計上しています。これは、貸倒引当金の対象である売掛金受取手形が計上されている流動資産から控除することによって、流動資産を『短期的な回収可能額』という意味にするためです」(184ページ)

引当金は、減価償却費と並んで会計の独特の考え方だと、私は考えています。そのため、引当金の考え方そのものは難しいものではないのですが、会計に関する知識がある人とない人では、コストに関して認識がずれてしまうことがあります。すなわち、引当金の考え方を持っていない経営者の方は、例えば、賞与引当金については、賞与を支払うのは将来なのに、支払う前から費用に計上しなければならないことに疑問を持つことが多いようです。

しかし、事前に賞与の引当をしていなければ、賞与を支払う時期になって、「利益が出ていないから賞与を支払うことができない」という判断をすることになってしまいかねません。でも、賞与を支払うことができないのは、利益が出ていないというよりも、賞与を支払うことを見越して、準備をしてこなかったことが本当の原因と考えられます。引当金の意義などについては、次回以降、説明をしますが、経営者の方が会計に関する知識を持っていれば、より適切な判断をできるようになるということを、引当金などの考え方からご理解いただけると思います。

2025/4/25 No.3054