[要旨]
かつて、資源安に伴い、保有権益という無形固定資産から多額の減損損失が発生したために、大手商社5社の減損額は合計1兆円近くに達したということがありました。しかし、減損損失が発生しても、キャッシュの流出は投資の時点で済んでおり、会計上は多額の費用が発生しても、経営上それほどのダメージはありません。むしろ、減損という会計基準が減損損失というアラームを鳴らすことを強制したおかげで投資の失敗に早期に気づくことができ、次のアクションを取るきっかけを与えてくれたとも言えます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、多くの経営者は、最初に設備投資で費やした資金は、その後の複数年にわたる売上で回収しようと考えているはずであり、設備投資をした年にその全額を費用にすることは非合理的なので、減価償却を行い、設備投資額をその設備を使う期間にわたって分割して費用計上することで、その設備を使用する期間のすペての売上高と対応させることができるということについて書きました。
これに続いて、金子さんは、固定資産の減損処理について述べておられます。「三菱商事株式会社と三井物産株式会社は2016年3月期に、同社が連結財務諸表を作成して以来初となる連結最終赤字に陥りました。いずれも原因は、資源安に伴い、保有権益という無形固定資産から多額の減損損失が発生したからです。減損損失は三菱商事が4,300億円、三井物産が2,600億円に上りました。
資源安の影響はずペての商社に及び、大手商社5社の減損額は合計1兆円近くに達しました。三菱商事は、直後の6月に予定していた全役員の賞与支給を取りやめ、社長は賞与を含めた報酬の5割、資源分野の担当役員は3割を削減することを発表しました。このニュースは日本経済新聞のトップ記事として大きく取り上げられました。大手商社が初の連結赤字に陥ったということで、記事もかなり深刻なトーンでした。投資が失敗したことは確かに事実です。
それが初の連結赤字で、しかも大赤字となれば、一定の経営責任を取るのもやむを得なかったかもしれません。しかし、『初の連結最終赤字』というセンセーショナルな活字ほどの深刻さがあったのかと言うと、必ずしもそうではありません。まず、多額の減損損失が出たからといって、経営上それほどのダメージはありません。減損処理によって会計上は多額の費用が発生しますが、新たなキャッシュの流出は何も起こらないからです。キャッシュの流出は投資の時点で済んでいます。
減損損失は、『既に支払った額を回収するだけの十分なキャッシュの流入が今後見込めないことがわかった』ということです。その見込み違いの額を一気に損失として計上するので、費用は多額になるのです。また、減損損失を計上したからこそ、次のアクションが迅速に取れた可能性があります。当時、総合商社各社の業績は好調な一方で、資源ビジネスに依存しすぎではないかと危ぶむ声も上がっていました。そして、実際に市況が悪化し、その危惧が現実のものとなったわけです。
しかし、もし減損という会計基準がなければ、投資額を回収しきれないということに途中で気づくチャンスすらなく、もっと手遅れになっていた可能性があります。減損という会計基準が減損損失というアラームを鳴らすことを強制したおかげで投資の失敗に早期に気づくことができ、次のアクションを取るきっかけを与えてくれたとも言えるのです。実際、三菱商事は翌年度早々に、権益の一部を約100億円で売却しました。それによって得た100億円のキャッシュは、新しい事業への原資となったはずです。
バッド・二ュースの早期開示によって適切なアクションが迅速に取れたというのは、保守主義の狙いそのものです。ビジネスはやってみなければわかりませんし、リスクを取らないところにリターンはありません。重要なことは、失敗をタイムリーに認識することと、次のアクションを迅速に取ることです。そういう意味では、役員の減俸という処分は、本当に必要だったのだろうかと思わなくもありません。結果責任を過度に追及しすぎるのも良し悪しです」(170ページ)
今回のテーマの減損処理は、会計を学んだばかりの方にとってはややこしい部分ではないかと思います。その理由の1つは、減損対象の固定資産が手元からなくなるわけではないし、損失分の資金が社外へ流出するわけでもないからです。単に、減損対象の固定資産の価額が低くなったから、その分を損失として計上するという、帳簿上の処理だからです。
そして理由の2つ目は、どのタイミングでどれだけの損失が発生したのかをどのように判断するのかということです。これについては、詳細な説明は割愛しますが、そもそも、会計処理の細かな部分は、会社独自で判断することになっているわけですから、損失額の多少にかかわらず、100%客観的に判断することそのものが困難だと思います。しかも、損失の発生が早かったり、損失額が多かったりすることは、経営者にとっては自らの評価が下がることにつながるため、その判断は消極的になるという面は否めないと思います。
そこで、金子さんも、「減損という会計基準が減損損失というアラームを鳴らすことを強制したおかげで投資の失敗に早期に気づくことができ、次のアクションを取るきっかけを与えてくれた」と述べておられるように、表面化しにくい問題点を迅速に把握しやすくなった、そして、そのことによって把握できた問題点の解決のための最善の対処が可能になったととらえ、この仕組みを活用しようと考えることが望ましいと、私も考えています。
繰り返しになりますが、所有している固定資産がなくなるわけでもなく、資金が出ていくわけでもないのに、帳簿上だけ損失を計上するという、ちょっと変な(?)会計処理を行うことは、理解が難しい面もありますが、それは、会計が株主や銀行などの資金提供者が正確な情報を得られるようにしたり、経営者が適切な判断をできるようにするための制度だからだということです。
2025/4/21 No.3050
