鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

減価償却という会計処理は資産の費用化

[要旨]

多くの経営者は、最初に設備投資で費やした資金は、その後の複数年にわたる売上で回収しようと考えているはずであり、設備投資をした年にその全額を費用にすることは非合理的なので、設備投資額をその設備を使う期間にわたって分割して費用計上することで、その設備を使用する期間のすペての売上高と対応させることができます。このように、費用と売上を対応させることは、費用収益対応原則の考え方によるものです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、ユニクロは、2010年8月期にヒートテックを5,000万枚販売したものの、早期に売り切れてしまい、翌年は生産量を7,000万枚に増やすほどでしたが、もし、2010年8月期に7,000万枚を製造していれば、104億円の粗利益を増やすことができたと考えることができるので、在庫量は少なく見積もることで収益機会を逃す可能性があるということに注意が必要ということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、減価償却の意味について述べておられます。「歴史的な経緯を見ると、減価償却という処理は、多額のお金を使ったにもかかわらず、利益が出ているように見せるための便法のように感じるかもしれませんが、実は理論的にも理に適っています。第一に、株主であつた時期の違いによる不公平感をなくすことができます。設備投資をした年にその全額を費用計上すれば、その年は赤字になります。そうなると、その年に株主だった人には配当がなされません。一方、設備投資の翌年度以降は既に取得した設備を使うだけですから、費用はほとんと発生せず、多額の利益が出ることになります。そうると、設備投資の翌年度以降に株主になった人たちには十分な配当が行われることになります。

設備投資の翌年度以降の利益は最初の苦労があったからこそなのに、苦労した時期に株主だった人には配当されず、苦労した時期を知らずに後から株主になった人には配当がされるというのは、さすがに公平性に欠けます。新人選手を獲得し育成した監督が辞めた後にその選手が大活躍したら、活躍したときの監督だけが称賛され、苦楽を共にした最初の監督には何の報いもないようなものです。設備投資で使ったお金を分割して費用計上すれば毎期利益が平準化されますから、株主だつた時期の違いによる不公平感は解消されることになります。

第二に、費用と売上高の対応関係が合理的になります。そもそも、最初に設備投資で費やしたお金はその年のビジネスだけで回収しようとは思っていないはずです。その後の複数年にわたる売上高で投資した資金を回収しようと考えているはずです。それなのに、設備投資をした年にその全額を費用に計上し、その年の売上高だけと比較して赤字だと言うのは非合理的です。設備投資額をその設備を使う期間にわたって分割して費用計上すれば、その設備を使用する期間のすペての売上高と対応させることができます。

費用と売上高の対応関係という意味では、このほうが理に適っています。これは、費用収益対応原則の考え方です。費用収益対応原則とは、『費用は収益獲得の経済的儀牲なので、収益に貢献した部分だけを収益に対応づけて費用として計上する』というものでした。費用収益対応原則の典型例は(中略)、棚卸資産です。そこでは『費用は出口で認識する』という原則も紹介しました。減価償却は、その原則にも則っています。

設備の購入という“入口”でやっていることは、設備という資産と現金という資産の、資産どうしの等価交換です。ですから、この時点では資産は減少していません。では、その資産の価値はいつ減少ずるのでしょうか。棚卸資産の場合、そのタイミソグは販売という行為によって物理的に手放したときでした。しかし、固定資産は手放すことを目的としていません。自ら使うことを目的として所有する資産です。

ということは、その資産の価値は使用することによって減少する、言い換えれば時間の経過によって減少するのです。それが固定資産にとっての出口です。ですから、時間の経過に応じて費用を分割して認識し、その分だけ貸借対照表の資産価額を減額させるのです。減価償却という処理は、資産の費用化という点で棚卸資産とも理論的に整合しているのです」(155ページ)

減価償却は、会計を学んでいる方には、ひとつの壁になるかもしれません。でも、棚卸資産と同じく、費用収益対応原則に基づく会計処理と考えれば、理解が早くなるかもしれません。ただし、資産を複数年かけて費用化していくということは合理的なのですが、費用化する方法や、費用化する期間は、会計独自のものなので、慣れるまでは疑問に感じるかもしれません。まず、減価償却の方法ですが、定率法や定額法が主なもので、これによって計算した帳簿上の資産価額は、その資産を実際に売却したときの実勢価格とは異なります。

すなわち、資産価額は机上で計算された金額にすぎないという面があります。その一方で、決算の度に客観的な資産の時価額を調査することも、現実的には困難なことから、定率法や定額法といった、単純化した計算方法で資産価額を計算することは合理的な面もあります。したがって、減価償却の対象となる資産の価額は、実勢価額とまったくかけ離れているわけではありませんが、あくまでも会計の都合による価額ということに注意が必要ということです。次に、耐用年数ですが、中小企業のほとんどが、財務省令で定められた法定耐用年数にしたがっています。

耐用年数は、本来は、会社ごとに独自の判断で決めてよいのですが、それが法定耐用年数と異なる場合、別途、法定耐用年数によってる減価償却費を計算して法人税額を計算しなければならなくなります。そこで、その煩雑さを避けるために、会社の独自の耐用年数を定めずに、法定耐用年数にしたがって減価償却費を計算している会社がほとんどのようです。ところが、会社の事業の内容はさまざまである上に、法定耐用年数のカテゴリー分けもそれほど細かくないことから、経済的な耐用年数が法定耐用年数より短かったり、逆に、長かったりすることもあります。

技術革新の速度が速い事業では、2~3年で使えなくなるような設備、すなわち、経済的には価値がなくても、資産としては残さなければならないこともあります。また、例えば自動車は、法定耐用年数は長いものでも5年ですが、会社によっては丁寧にメインテナンスを行い、5年以上使用していることもあります。この場合、その自動車は貸借対照表に計上されていない(厳密には、備忘価額の1円で計上されることが多いようです)にもかかわらず、会社の資産として事業活動に貢献していることもあります。

このように、減価償却という制度によって、会社の資産の価額は、実際の価額通りではないのですが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、減価償却制度によって何らかの問題が起きたということは、あまりありません。しかし、どうしても、減価償却制度が問題になるというときは、会計上の資産の評価とは別に、実態の資産価額を計算し、それに基づいて修正した貸借対照表経営判断などを行うとよいと思います。

2025/4/20 No.3049