[要旨]
売上原価は、費用収益対応原則が適用される費用なので、仕入を行ったときに支払った代金がすべて売上原価になるのではなく、仕入れた商品のうち、その会計期間に販売された商品分の仕入代金だけが売上原価に計上されます。そして、販売されなかった商品は、会計期間の末日に、棚卸資産として資産に計上され、次の会計期間で販売されたときに、売上原価に計上されます。このように、商品の仕入代金は、支払った時点では費用にはならず、販売された時点で、その売上を得るために犠牲になった費用として、費用に計上されます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社が取得した資産を貸借対照表に計上するときは、取得時の支出額に基づき計上し、保有中は、時価の変動があっても評価替えしないという、取得原価主義に基づいて計上するということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、棚卸資産と費用の関係について述べておられます。「棚卸資産に関して是非知っておいてほしい論点は費用との関係です。次の例を考えてみてください。1個100円の商品100個を10,000円支払って仕入れました。このうち、期中に80個売れた結果、期末には20個が在庫として残りました。当期の費用になるのはいくらでしょうか。これに対して、非常に多い答えは10,000円という答えです。理由は『既に10,000円支払ったからです。感覚的にはごもっともな答えです。ところが、会計上はそうではないのです。
会計上、費用になるのは、販売された80個分の8,000円だけです。これが売上原価という費用になります。その理論的根拠は(中略)、費用収益対応原則です。費用収益対応原則とは、『費用は収益獲得の経済的儀牲である。したがって、収益獲得に貢献した部分を費用として収益と対応づけて計上する』というものです。先ほとの例では、確かにキャッシュは10,000円支払っていますが、そのうち売上高という収益に貢献したのは実際に販売された80個分だけです。ですから、この販売された80個分に相当する8,000円だけを売上原価という費用にするのです。売上原価は、費用収益対応原則の最も典型的な具体例です。
ちなみに、売上原価を英語で言うと、Cost of Goods Sold(COGS)となります。直訳すると、『売られた品のコスト』ということです。つまり、『売上原価』とは『売上の原価』という意味なのです。仕入に要した10,000円は、言うなれば『仕入原価』です。販売されずに残った20個は棚卸資産として貸借対照表に計上されます。売れ残った商品は来年度に売れる可能性のある財産なので、財産一覧表である貸借対照表に計上するのです。売上原価の理論的根拠は費用収益対応原則ですが、それを直感的に言うならば、『費用は出口で認識される』ということです。これは会計全般に通用します。(中略)
商品を仕入れるという企業の“入口”でやっていることは、商品という財産と現金という財産の、財産どうしの等価交換です。ですから、この時点では財産は減少していません。財産が減少するのは、販売によって商品を企業外部の第三者に引き渡したときです。このときに財産が企業から出て行くのです。この“出口”で費用を認識するということです。ここではわかりやすいように『財産』という表現を使いましたが、会計的に言うならば資産です。商品は仕入れた時点では、すベて棚卸資産という資産です。そのうち、外部に出て行った部分だけが費用になります。企業から出て行かなかった部分は資産として残り統けます。それが期末の貸借対照表に計上される棚卸資産です。
『費用は出口で認識される』というのは、言い方を変えれば、『財産が消失または消費された時点で初めて費用になる』ということです。ですから、切手も未使用分は棚卸資産になるのです。というよりも、これも、購入した時点ではすベて資産です。実原、換金することが可能ですから、換金価値を有するれっきとした資産なわけです。重要性の観点から、切手などは購入した時点で全額を費用とするということも実務上あり得ますが、厳密な会計処理としては、購入したもののうち、使用した分だけが通信費などの費用になります」(142ページ)
今回の引用部分の主旨は、費用収益対応原則ですが、これは、会計を苦手とする方にとっては、難解な部分かもしれません。というのは、これを理論的に説明することは難しい、というよりも、不可能だからだと私は考えています。費用収益対応原則は、なぜ、この原則があるのかという根拠は、金子さんが説明した通りですが、その根拠の最終的なところは、会計のルールでそういうことにしようと決めたということに尽きるからです。会計には、このルールのように、論理的に説明できないルールは多いので、そのようなルールについては、そうなのだと納得するしかないようです。
そして、費用収益対応原則については、金子さんは、「当期の売上原価はいくらになるかという問いに対して、非常に多い答えは10,000円という答えで、感覚的にはごもっともな答えです」と述べておられますが、私も仕入額=売上原価となる考え方は、決して間違っていないと思います。というのは、会計の始まりに関する説明でよく例に出される大航海時代の貿易にあてはめれば、仕入額はすべて費用になるからです。というのは、貿易は、1回の航海がただひとつの会計期間であり、インドで仕入れた香辛料は、母港にもどったときにすべて販売されるという前提なので、インドを出航するときに支払った仕入代金はすべて費用と認識されます。。
しかし、現在の株式会社は、強制的に会計期間(通常は1か年)で区切り、会計期間ごとに利益を計算するので、その会計期間で販売された商品に対応する仕入代金だけを、その会計期間の費用にすることにするというルールを後付けでつくったのです。したがって、前述のように、仕入代金は、それを支払った時点ですべて費用と考えることが本当の考え方であり、後になってから、会計期間ごとに売れた分の仕入れ代金を費用にするということにしたのです。今回のまとめは、会計には不思議なルールはあるのですが、それはあまり深く考えずに納得することも必要になるということです。
2025/4/16 No.3045