[要旨]
会社が取得した資産を貸借対照表に計上するときは、取得時の支出額に基づき計上し、保有中は、時価の変動があっても評価替えしないという、取得原価主義に基づいて計上します。なお、取得時の支出額とは、購入代価と付随費用の合計額であるという点に注意が必要です。また、資産の時価が著しく下落したときは、時価主義にもとづき、評価替えを行うことが妥当です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、費用収益対応原則は、損益計算書の費用に関する原則で、費用は収益獲得の経済的犠牲であり、収益獲得に貢献した部分を費用として収益と対応づけて計上するというものであるということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、取得原価主義について述べておられます。「貸借対照表に関して知っておくベき原則は、取得原価主義です。これは単に『原価主義』とも言われます。取得原価主義は、貸借対照表への計上額に関する原則です。具体的には次の2つの要件からなります。(1)資産・負債の貸借対照表への計上額は、取得時の支出額に基づき計上する。(2)資産・負債の保有中は、時価の変動があっても評価替えしない。
第1の要件は、貸借対照表への計上額、つまり取得原価は取得時の『支出額』で決めるということです。支出額とは、キャッシュ・アウトした額ということです。具体的な取得原価は、次のように計算します。取得原価=購入代価+付随費用購入代価とは、その資産そのものの価額です。付随費用とは、その資産を取得するために要した運搬費や据付費、手数料なとです。重要なことは、取得原価は購入代価だけではないということです。それに付随費用を加えたものが取得原価になります。取得原価とは『その資産が使えるようにするまでにかかった総支出額』だからです。これは、有価証券、棚卸資産、有形固定資産、無形固定資産など、すベての資産に共通です。
取得原価主義の第2の要件は、一度計上したら評価替えせずに、ずっとそのままの価額ということです。その対立概念が、時価主義です。いわゆる時価会計と言われているものです。現在は何かと『時価会計』と言われるので、時価会計が基本だと思われているかもしれませんが、そうではありません。日本基準において時価会計の対象になるのは有価証券ぐらいです。しかも、その一部です。現在においても、取得原価主義が貸借対照表に関する基本的な原則です」(129ページ)
金子さんが述べておられるように、取得原価は購入代価と付随費用の合計額を計上するということについては、容易に理解できると思います。ただ、多くの中小企業の実務においては、例えば商品を仕入れたときの運賃は、売上原価に計上せず、販売費及び一般管理費の「荷造運賃」などに計上していることが多いように感じています。これは、運送会社に支払う運賃は、運んだものによって売上原価にしたり、販売費及び一般管理費にしたりすると、事務が煩雑になるので、それを避けようとしているからではないかと思います。
このように計上しても、最終的な利益額に変わりはなく、また、売上原価にしめる運賃が多額でなければ「重要性の原則」を当てはめて、販売費及び一般管理費に計上しても問題はないと思いますが、原則は、売上原価に計上し、正確な売上原価を把握することが望ましいと言えます。また、評価替えですが、これは、中小企業では、ほとんど行われないようです。
確かに、評価替えを行わなければならないような状況になることはあまりないということも事実ですが、仮に、保有している資産の時価が著しく下がったときに、その資産の評価替えを行えば、簿価と時価の差額(評価損)を特別損失として計上(場合によっては、売上原価、製造原価、販売費、営業外費用などに計上されることもあります)しなければならなくなる、すなわち、損失が表面化することから、評価替えを行うことを避けていることもあるようです。しかし、適切な評価替えを行わない場合であっても、その会社に融資をしている銀行は、提出された財務諸表を、評価損を適切に計上した場合の実態の財務諸表に修正して融資審査を行いますので、評価替えを行わなかったからといって、会社の評価が維持されるということはないと考えなければなりません。
なお、金子さんは、「日本基準において時価会計の対象になるのは有価証券ぐらい」と述べておられますが、「中小企業の会計に関する指針」(中小会計指針)では、例えば、固定資産について、「予測できなかった著しい資産価値の下落があった際には、取得原価を減額しなければならない。なお、当該減損額は、減損損失として損益計算書の特別損失に計上する」と記載があるように、実質的には、固定資産や棚卸資産についても、時価会計と同様の会計処理を行うことが規定されています。時価会計の対象がどれかはともかく、正しい経営判断を行うためにも、財務諸表ができるだけ会社の実態を反映させるものとなるように努めることが望ましいと言えるでしょう。
2025/4/15 No.3044