[要旨]
費用収益対応原則は、損益計算書の費用に関する原則で、費用は収益獲得の経済的犠牲であり、収益獲得に貢献した部分を費用として収益と対応づけて計上するというものです。具体的には、販売費及び一般管理費は、費用の対価を支払った時点の会計期間の費用となりますが、売上原価は、必ずしも、売上原価となる商品の仕入れ代金を支払った時点の会計期間の費用になるとは限らず、その商品が販売された時点の会計期間の費用として計上されます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、実現主義とは、収益というポジティプな情報は、安易に計上を許すと、水増し計上や架空計上を行いやすく、また、保守主義の観点からも、収益というグッド・ニュースの計上には慎重になるベきという考えから、商品やサービスの企業外部の第三者への提供、その対価として、現金または現金同等物の受領を要件として、収益の計上を認めるという考え方であるということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、費用収益対応原則について述べておられます。「費用収益対応原則は、損益計算書の費用に関する原則です。それは、『費用は収益獲得の経済的犠牲である。したがって、収益獲得に貢献した部分を費用として収益と対応づけて計上する』というものです。これは、ある意味、費用とは何かということを規定している原則です。発生主義によって、キャッシュの支払は費用を意味しません。だったら、費用は何かということです。
費用収益対応原則によれば、それは『収益獲得の経済的儀牲』です。あくまでも、収益獲得に貢献したものを『費用』とすることです。費用収益対応原則の最も典型的な具体例は後述しますが、基本的なところでは損益計算書の構造に収益と費用の対応関係が見て取れます。売上高に商品を介して直接的に対応しているのが売上原価、期間的に対応しているのが販管費(販売費及び一般管理費)です。また、営業外収益という本業外の収益に対応しているのが営業外費用です。
特別利益を『特別収益』と言わないのは、何らかの経済的犠牲(≒努力)によってそれが獲得されたわけではないからです。対応する費用がない単独の経済的プラスなので、最初から利益と言っているわけです。特別損失を『特別費用』と言わないのも、何らかの収益獲得のための経済的儀牲ではないからです。単独の経済的マイナスなので、『損失』という言葉が使われているわけです」(127ページ)
販売費及び一般管理費は、給与、地代・家賃、光熱費、広告宣伝費、リース料、減価償却費など、会計期間内に発生した費用なので、ある意味、何の疑問もなく費用と理解することができると思います。(給料、地代・家賃、減価償却費などであっても、製造業や建設業の製造工程に関わる部分は、販売費及び一般管理費ではなく、売上原価の一部である製造原価として計算されますので注意が必要です)
一方、売上原価は、期間に対応せず、売上が発生するまで費用になりません。具体的には、商品の仕入代金は、最終的には売上原価になりますが、必ずしも、仕入れた時点の会計期間の費用になるとは限りません。もし、その商品が会計期間の末日までに販売されていなければ、一旦、棚卸資産として資産に計上されます。そして、その商品が販売された時点で売上原価として費用に計上されます。
具体的には、仕入れた商品は、仕入れた時点で、「仕入」という費用の科目で計上されますが、それが会計期間の末日時点で販売されていなかった場合は、棚卸資産に振替計上されます。そして、翌日に再び「仕入」として費用に振替計上され、それがその会計期間に販売されれば、そのまま費用になります。(実際の仕訳は、この説明の通りではありませんが、結果的にはこの説明の通りとなります)
繰り返しになりますが、費用は、その対価を支払った時点の会計期間の費用になるものと、その費用が収益を実現させた時点の会計期間に費用になるものの2つに分けられます。この費用収益対応原則は、会計の初学者の方には、直ちに理解できない部分かもしれません。ただ、それほど複雑な原則ではありませんので、学習を進めていくうちに、理解できるようになると思います。
2025/4/14 No.3043