[要旨]
実現主義は収益の計上だけを対象とする考え方で、収益というポジティプな情報は、安易に計上を許すと、水増し計上や架空計上を行いやすく、また、保守主義の観点からも、収益というグッド・ニュースの計上には慎重になるベきという考えから、商品やサービスの企業外部の第三者への提供、その対価として、現金または現金同等物の受領を要件として、収益の計上を認めるというものです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、会社の事業活動の実態を迅速に記録するために、発生主義に基づく記録は望ましい方法ですが、その結果、会計上は利益を得ていても、手元資金を十分確保できているかどうかを把握しにくくなったため、利益の管理と合わせて、手元資金も管理し、支払資金が枯渇して会社が倒産しないように注意しなければならないということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、実現主義について述べておられます。「発生主義は、損益計算書の収益と費用の両方に関わる原則ですが、実現主義は収益だけに関する原則です。実現主義は、『収益に関してはもう少し確実性が増してから計上を認めようという考え方です。収益というポジティプな情報は、安易に計上を許すと、水増し計上や架空計上がやりやすくなってしまいます。また、保守主義の観点からも、収益というグッド・ニュースの計上には慎重になるベきです。
そこで、収益については、次の2つの要件が満たされたときに『収益が実現した』と考え、計上を認めるこ上ごれが実現主義です。(1)商品やサービスの企業外部の第三者への提供。(2)その対価として、現金または現金同等物の受領。(1)を満たさない単純な例は、出荷前なのに前倒して売上高を計上するようなケースです。何としてでも期中に売上高を計上したいような場合に行われがちです。また、売ったはずの商品が、いまだに自社の倉庫にあるような場合もあります。顧客に保管場所かないために一時的に預かっている等の合理的な理由があればいいですが、そうでなけ九ば、(1)の要件は満たされていないことになります。
これを意図的にやると、在庫売上と呼ばれる粉飾になります。さらに、在庫売上を複雜にしてわかりにくくしたのが循環取引です。循環取引は、複数社が結託して商品を転売していき、最後は最初に販売した会社に転売します。個々の企業間には売買の実体がありますが、全体を見れば商品が戻ってきていますから、やはり(1)の要件を満たしていません。(2)は、対価としてキャッシュの獲得が確実に見込めるということです。ここでの現金同等物には短期的債権も含まれますので、必ずしも現金そのものの受領は要件とされていません」(128ページ)
実現主義は、会計が苦手な人にとっては、やや難解な考え方かもしれませんが、発生主義を少し厳しくして、対価の受け取りが確実になった場合に収益が成立するという理解で問題ないと思います。なお、実現主義の要件のひとつに、金子さんは、「対価として、現金または現金同等物の受領」をあげておられますが、これは、売上代金を受け取る権利である売掛金を計上できる状態も含まれると考えて支障はないようです。ここで、ひとつの事例をあげて説明します。ホームページ制作会社A社が、小売業B社から、B社の商品を紹介するホームページの作成を、2025年4月1日に、30万円で受注したとします。(ここでは理解を容易にするために、消費税は考慮しないこととします)
まず、2025年4月1日に、着手金として、A社がB社から10万円を受領したとします。これを、発生主義に基づいてA社の仕訳を行うとすれば、次のようになります。
(借方)預金10万円・未収入金20万円/(貸方)売上30万円
しかし、これは認められない仕訳なので、実際は、実現主義に基づいて、次のように仕訳をしなければなりません。
(借方)預金10万円/(貸方)前受金10万円
ちなみに、現金主義で仕訳をする場合は次のようになります。
(借方)預金10万円/(貸方)売上10万円
次に、5月1日にホームページが完成し、B社に正常に稼働することを確認してもらい、6月1日に残金を受け取ることになったとします。この時の仕訳ですが、発生主義で仕訳をする場合、すでに4月1日ですべての売上を計上しているため、ホームページが完成した時点での仕訳はありません。通常の記録の仕方である、実現主義で仕訳をするときは、次のようになります。
(借方)売掛金20万円・前受金10万円/(貸方)売上30万円
ちなみに、A社が現金主義で仕訳をしている場合は、5月1日は現金の授受がないので、仕訳はありません。
最後に、6月1日に売掛金を回収したときは、発生主義に基づくA社の仕訳は次のようになります。
(借方)預金20万円/(貸方)売掛金20万円
ちなみに、現金主義での仕訳は次の通りです。
(借方)預金20万円/(貸方)売上20万円
このように見てみると、収益に関しては、実現主義が最も実態を反映しているということがご理解いただけると思います。
2025/4/13 No.3042