鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

損益計算書では手元資金を把握できない

[要旨]

会社の事業活動の実態を迅速に記録するために、発生主義に基づく記録は望ましい方法ですが、その結果、会計上は利益を得ていても、手元資金を十分確保できているかどうかを把握しにくくなりました。そこで、利益の管理と合わせて、手元資金も管理し、支払資金が枯渇して会社が倒産しないように管理する必要があります。なお、手元資金だけを管理しても、事業活動で利益を得ていなければ、最終的に手元資金が増えないということにも注意が必要です。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、発生主義とは、収益と費用は、収入と支出ではなく、その発生の事実に基づき計上するというもので、一方、現金の授受に基づいて収益・費用を計上する方法は現金主義といいますが、現金主義では事業活動の実態を正確に記録できないことから、現在は、ほとんどの会社では、発生主義に基づいて会計取引が記録されているということについてかきました。

これに続いて、金子さんは、キャッシュフロー黒字倒産について述べておられます。「企業の経済的実態をタイムリーに記録するという観点からすれば、発生主義は確かに望ましいやり方ですが、良いことばかりではありません。収益と収入、費用と支出が違うということは、当然、利益と収支も遠います。つまり、利益があるからといって、現金があるとは限らないということです。利益が黒字でもキャッシュがなくなることはいくらでもあり得ます。キャッシュがなくなれば倒産です。

利益が黒字のままキャッシュがなくなって倒産することを黒字倒産と言います。シャレにもならない話ですが、そういう事例は山ほどあります。逆に、利益がどんなに赤字でも、誰かがキャッシュを補填してくれれば、会社は倒産しません。キャッシュを補填してくれるのは一般的に取引銀行です。ということは、倒産の引き金を引くのも、多くの場合は取引銀行だということです。融資先の業績回復が見込めなければ、さすがの取引銀行も融資を打ち切ります。今まで貸したお金の返済も迫られるでしょう。それで資金ショートを起こして倒産するのです。

繰り返しますが、利益とキャッシュは違います。『全く違う』というくらいの感覚でちょうどいいです。キャッシュの状態は直接見ないとわかりません。だから、キャッシュ・フロー計算書の作成が上場企業に義務化されたのです。もしかしたら、多くの人は『キャッシュの状態は利益を見ていれば大体わかるだろうという感覚を無意識に持っているかもしれませんが、それは大間違いです。利益を見てもキャッシュのことはほとんど何もわからないのです」(125ページ)

前回、事業活動の実態を会計記録に反映させるために、多くの会社は発生主義を採用しており、その発生主義に基づけば、商品の販売代金を回収していなくても、商品を販売先に引き渡した時点で売上(収益)を記録すると説明しました。一方で、会社の倒産とは、支払資金がなくなることなので、業績が黒字であるか、赤字であるかは、直接は関係がありません。もちろん、多くの場合、赤字が原因で支払資金がなくなるので、「あの会社は赤字が続いて倒産した」ということが起きます。

しかし、黒字であっても、売上代金の回収が遅れると、支払資金がなくなって、黒字倒産が起きることがあります。そこで、一部の専門家は、「キャッシュフロー経営が重要だ」と主張しています。そのような専門家は、「売上代金をなるべく早く回収し、支払代金はなるべく遅く支払うようにすれば、『キャッシュを生み出す』」というような表現をします。この収入を早めて支出を遅らせることは、手元の資金が増加させる活動であり、正しい考え方です。

しかし、私は、収入を早めて支出を遅らせる活動は、「資金を増やす」のであって、「資金を生み出す」ことではないと考えています。とはいえ、「増やす」と「生む」は感覚的な違いでしかなく、私は、これは私がそう考えているというだけであって、このように考えなければ間違いであるという主張をするつもりはありません。ただ、中小企業経営者の方の中には、本質を見誤っている方もいると考えています。

というのは、資金の根源的な源泉は利益であることに間違いはないからです。現金商売をしている会社では、資金を増やすには、利益を出すしかありません。もし、利益が出ていなければ、資金は底をつき、事業活動を続けることができなくなります。でも、現金商売をしている会社が信用取引を始めるようになり、商品の仕入代金の支払いを先延ばしにすることが可能になれば、現時点で利益を得ていなくても、事業活動は当面は継続することができます。

そのため、あまり事業がうまくいっていない状況においても、収入を早めて支出を遅らせることで、ある程度は資金を増やすことができるかもしれませんが、それには限界があります。やはり、前述したように、最終的には利益を得なければならないのです。ところが、「キャッシュフロー経営が重要だ」という専門家の主張を曲解し、利益を得るための活動から目を背ける会社経営者も少なくないということも事実です。

そこで、私は、経営者の方は、短期的にはキャッシュフローが重視し、長期的には利益を重視しなければならないと考えています。どちらか大切なのではなく、両方が大切なのです。繰り返しになりますが、現金商売であれば、利益だけを重視していればよかったのですが、信用取引をすることによって、収益と収入を区別する必要が出てきたことから、それに合わせて資金と利益の両方を管理しなければならなくなったのです。

2025/4/12 No.3041