鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

収益は損益計算書をプラスにする取引

[要旨]

日常使われている収入と収益は同様の意味で使われることがありますが、会計では、収益は、売上、営業外収益、特別利益など、損益計算書の貸方の科目の総称で、一方、収入はキャッシュの増加を指します。逆に、収益の対になる費用は、損益計算書の借方の科目の総称で、収入の対になる支出はキャッシュの減少を指します。


[本文]

今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、重要性の原則は、「重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便的な方法によることが認められる」というもので、重要性が乏しいものまで厳密に処理しても、財務諸表全体としてはあまり意味がなく、業務を過度に煩雑にしないようにするためのものであるということについて説明しました。

これに続いて、金子さんは、会計における収益と収入の違いについて述べておられます。「『収益』と『収入』の違いは何でしょうか?皆さんは、この2の言葉をどのように使い分けていますか?私はいろいろなところでこの質問をしていますが、一番多い答之は、『ちゃんと考えたこともなかった』という答えです。答えてくれた中で一番多い答えは、『収入は入ってきたものすベて、収益はそこから費用を引いた残り』という答えです。日常用語としては、こういう意味で使われていることがほとんどだと思います。特に『収益」はそうです。

実際、新聞等のメディアやテレビで話しているアナウンサーもほとんどそういう意味で使っています。しかし、会計上の正しい意味はそうではありません。まず、『収益』は何に関する言葉かと言うと、損益計算書に関する言葉です。ですから、『収益』という言葉を使った時点で話題は損益計算書です。『収益』は、損益計算書のプラスの総称です。日常用語の『収益』と何が違うかわかりましたか?まだ何も引かれていないのです。

ここが日常用語における『収益』と決定的に違うところです。プラスの総称ですから、具体的には売上高、営業外収益、特別利益の総称です。収益を、その性質に応じて、売上高、営業外収益、特別利益に分けて計上しているとも言えます。損益計算書のマイナスの総称は『費用』と言います。これは日常用語のイメージ通りだと思います。具体的には、売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失の総称です。

これも、費用をその性質に応じて売上原価、販売費及び一般管理費、営業外費用、特別損失に分けて計上しているとも言えます。収益と費用の差額が『利益』です。(中略)多くの人は収益と利益を混同しているということです。実際、『利益』の意味で『収益』という言葉を使う人が非常に多くいます。おそらく、『益』という字によって混同しているのだろうと思いますが、『収益』はグロス概念、『利益』はネット概念ですから、両者の混同は決定的な誤りです。

さて、では『収入』はどういう意味でしょうか。まず、『収入』は何に関する言葉かと言うと、キャッシュに関する言葉です。ですから、『収入』という言葉を使った時点で話題はキャッシュです。『収入』とは、キャッシュが入ってくることです。キャッシュ・インということです。キャッシュが出て行くことは『支出』と言います。キャッシュ・アウトということです。収入と支出の差額は『収支』と言います」(119ページ)

今回の引用部分の主旨は、非論理的にしか説明できないので、そのように決まっていると理解していただくしかありません。ただ、私の経験からは、会計(簿記)を学んでいると、収益と収入、の使い分けは自ずと身についてくると感じています。ちなみに、収益と費用、収入と支出、利益と損失、益金と損金は、それぞれ対になっています。そして、これらの違いは、次回以降、改めてご説明する予定ですが、収益と収入の違いの例をあげると、まず、商品を掛売で販売したとき、商品代金は売上という収益が得られます。

念のために掛売について説明すると、商品を販売するものの、その時点で販売代金は受け取らず、後日、現金や銀行送金などで受け取る販売方法です。ただし、販売した時点で「売掛金」という販売代金を受け取る権利を得ることになり、その販売代金相当額を資産に計上します。また、売上がなぜ収益なのかがピンとこない人がいるかもしれません。これについては、簿記の三分法という記録方法の知識が必要なのですが、これに関する説明は割愛しますので、ここでは売上は収益であると理解してください。

話を戻すと、次に、前述した商品の販売代金を、後日、販売先から銀行送金で受け取ったとします。このとき、その代金相当額の銀行預金残高が増加し、収入が得られたということになります。このように、収益と収入は因果関係がありますが、必ずしも、同時に起きるとは限りません。もちろん、商品の販売をした時点で販売代金を受け取ることもあるので、その時は、収益と収入が同時に得られたことになります。そして、このような取引の例を数多く見ていくことで、収益、収入などの区別を容易にできるようになっていきます。

2025/4/10 No.3039