[要旨]
企業会計原則の一般原則の継続性の原則は、「会計処理の原則及び手続は毎期継続して適用し、正当な理由がある場合を除いて、みだりに変更してはならない」とする原則です。これは、会計処理方法がたびたび変わってしまったら、その前後で単純比較ができなくなりますから、その会社の業績が良くなったのか悪くなったのかという時系列判断ができなくなってしまうことを防ぐことを目的にしています。
[本文]
今回も、前回に引き続き、公認会計士の金子智朗さんのご著書、「教養としての『会計』入門」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、1998年に、アメリカのクライスラーとドイツのダイムラー・ベンツが合併した際に、ダイムラー・ベンツはドイツの会計基準では黒字だったのに、米国の会計基準では赤字だったことが問題視され、会計基準を世界で統一しようという動きが加速したということについて説明しました。
これに続いて、金子さんは、企業会計原則の一般原則の中の、継続性の原則について述べておられます。「継統性の原則とは、『会計処理の原則及び手続は毎期継続して適用し、正当な理由がある場合を除いて、みだりに変更してはならない』とする原則です。会計は『事実と慣習と判断の総合的産物』と言われることがあります。事実と慣習を総合的に判断してルールをつくってきたので、唯一絶対的なルールにはなっていません。これは一般の人にとっては意外かもしれませんが、会計制度では、1つの取引事実について複数の会計処理が認められていることがあるのです。
それは、会計処理に関して企業に選択の幅があるということです。自由度があるために、企業としては、どの会計処理方法を選ぶべきか迷うことがあります。ただ、会計処理方法に関しては、合法的かつ合理的な方法であれば、どの会計処理方法を選ぼうとも大きな間題になることはまずありません。重要なのは、どれを選択するかというよりも、一度決めたら変えないことなのです。会計処理方法が変わってしまったら、その前後で単純比較ができなくなりますから、その会社の業績が良くなったのか悪くなったのかという時系列判断ができなくなってしまいます。
さらに、会計処理方法を自由に変更することができたら、利益操作も簡単にできてしまいます。その都度、都合の良い会計処理を選ぶことが可能になるからです。継統性の原則は、会計処理に幅がある現実においては、適正な会計処理を担保するうえでの非常に重要な原則と言えます。継続性の原則に、『正当な理由がある場合を除いて、みだりに変更してはならない』とあるように、正当な理由がある場合は変更が認められます。
正当な理由の例は、簡便的な方法から厳密な方法への変更や、より合理的な方法への変更などです。ただし、正当な理由による変更であっても、変更したことは開示対象になっており、監査報告書にも変更があったことが記載されますので、目立つようになっています。また、時系列での比較可能性を担保するために、現行制度では可能な限り過去に遡って、変更後の方法に従って過年度の財務諸表を修正することが求められています」(112ページ)
企業会計原則は、日本の会計実務の慣習の要約を、1949年に企業会計制度対策調査会が公表したもので、一般原則、貸借対照表原則、損益計算書原則に分けられています。このうち、一般原則は、真実性の原則、正規の簿記の原則、資本取引・損益取引区分の原則、明瞭性の原則、継続性の原則、保守主義、単一性の原則があります。この企業会計原則は、法令などで定められたものではありませんが、実質的には法令と同等に遵守するものと解釈されています。
本旨にもどると、継続性の原則は容易に理解できるものですが、中小企業では、しばしば、まもられないことがあります。その典型的な例は、会社の業績が下がったときに、前年度まで計上していた減価償却費を計上せず、外見上の利益額を増やすことがあります。この他には、棚卸資産の評価方法を変えたり、貸倒引当金を計上しなかったりということが行われます。これらのような行為は、継続性の原則に反するだけでなく、財務諸表を歪め、自社の業績を直視しないことにつながります。表面的な業績を取り繕ったとしても、会社の実態はかわらないわけですから、継続性の原則にしたがって記録を行い、業績の改善に注力することが大切です。
2025/4/6 No.3035