[要旨]
中小企業診断士の長尾一洋さんによれば、営業スキルの高い「タレント」社員を、DXによってさらに活用することによって、会社の業績を高めることができますが、その活動によってDXを活用するノウハウを蓄積することができ、そのノウハウそのものが価値のあるものとして評価され、他社に販売できるようになっていくということです。
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今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長尾さんによれば、事業活動に影響を与える先行指標を事前にキャッチし、結果を予測して事前に何らかの手を打つことをフィードフォワードといいますが、営業DXによって案件先行管理や見積先行管理が行われるようになると、受注量の見込みが立ちますので、営業DXを進めることで、仕入れや製造の精度や効率を高めることができるようになるということについて説明しました。
これに続いて、長尾さんは、「タレント」社員の能力をDXによって最大化することが大切ということについて述べておられます。「顧客は同じサービスを受けるなら、仕事ができる人、感じのいい人から受けたいと思うでしょう。もちろん、単に商品を購入する際にも、できれば感じのいい、テキパキと段取りのいい営業担当者の方が望ましいのですが、サービス売りの方が関係性が継続的に続くため、より魅力的な担当者が優位となります。となると、サービス提供もできる優秀な営業担当者、すなわち個々の魅力を売り物とする『タレント』の存在が重要になるのです。
ですが、物理的・工数的な限界があるため、少数のタレントだけに依存するのは難しいでしょう。そこでデジタルの力を活用し、タレントの力を最大化します。オンラインサービスや動画配信などを使って、タレントの活躍の場を拡大・創出することができれば、亮上アップが実現可能です。同質化された商品(見た目では違いが分からない保険や金融商品などが典型)を属人的な魅力や努力で差別化して売る営業担当者に対しては、従来、その成果に対して高いインセンティプを支払うことで評価してきました。それと同様に、デジタルサービスを活用したタレント社員にもそれに応じた高い報酬を与えることは必要でしょう。
そうなると、人の採用、雇用、育成、活用に対する考え方や取り組みが変わり、それに伴い組織も変わり、経営の在り方も変わらざるを得ず、まさにDXが進むことになります。サービス化という点では、自社のDXをうまく進められた会社は、DXに成功したノウハウに基くアドバイスや作り込んだシステムを同業他社なとに販売することで、DXのコンサルティングサービス会社になることもできます。『うちの会社は○○屋だから』と、従来の業種やビジネスによって思考やチャレンジに制約を加える必要などありません。そう考之そう考えると、営業DXで実現する営業組織は(中略)、二層構造になります。
土台の部分は、従来の商品を扱うモノ売り部分。ここでは、普通の人が普通に頑張れば普通に成果が出る仕組みをデジタルで作ります。当面のビジネスを支える経営的な土台でもあります。二層目はサービス提供部分。ここでは、少数精鋭のタレントが生み出す、他社とは差別化された価値をデジタルの力で拡散します。この二層目に付加価値があることで、一層目のモノ売りが促進されるという相乗効果もあります。デジタル人材がいない中小企業は、リソースにも限りがあるので、担当者の顔が見えるリアルな要素を残し、完全にデジタル化された巨大企業とは一線を画す必要があります」(198ページ)
自社でDXによる事業改善を進め、さらに、そのノウハウを他社に販売した事例で私が思い出すのは、これまで何度かご紹介してきた、三重県伊勢市にある、土産物店等を営む、有限会社ゑびやです。同社では、需要予測システムを開発し、それを活用した結果、売上を4倍に増やし、従業員の平均給与も5万円増やしただけでなく、有給休暇消化率も80%に上昇させています。さらに、同社はその需要予測システムを他社にも販売しています。ここで注目すべき点は、長尾さんもご指摘しておられるように、現在は、DXを活用するノウハウに価値がある時代になっているということです。
かつては、「タレント」のある従業員は、そのノウハウが暗黙知のまま属人化されていましたが、現在は、情報技術の進展によって、それを形式知として会社内で共有することができるようになり、さらに、そのノウハウの価値が評価され、ノウハウそのものを他社に販売できるようになっているということです。ここまでDXは自社の業績を高めるためのツールとして取り上げてきましたが、そのDXによって得られたノウハウそのものが自社の収益機会を増やすことになっているということも、DXの特徴だと言えます。こう考えると、DXを推進することの重要性をさらに認識することができると、私は考えています。
2025/4/2 No.3031