[要旨]
中小企業診断士の長尾一洋さんによれば、事業活動に影響を与える先行指標を事前にキャッチし、結果を予測して事前に何らかの手を打つことフィードフォワードといいますが、営業DXによって案件先行管理や見積先行管理が行われるようになると、受注量の見込みが立ちますので、営業DXを進めることで、仕入れや製造の精度や効率を高めることができるようになるということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長尾さんによれば、顧客のクレームや要望は、より良い商品やサービスにしていくための大切な情報であり、真撃に応じることで商品力が高まり信頼度の高い関係性を維持することができるので、継続的に企業が業績を上げていくためには、営業力と共に商品力も高める必要があり、そのために情報システムを導入することで、中小企業でもそれを容易に実践できるようになるということについて説明しました。
これに続いて、長尾さんは、DXによってフィードフォワードを行うことが大切ということについて述べておられます。「営業DXの、営業部門だけでなく他部門も巻き込む全社変革運動が短期的な成果にもつながることを、フィードフォワードという考え方で説明しましょう。もともとは制御工学の用語であったフィードフォワードという言葉ですが、今ではビジネス用語として広く使われるようになりました。
対比されることの多いフィードバックが、制御対象の状況を見て対応するのに対して、フィードフォワードは制御対象そのものではなく影響を与える先行指標を事前にキャッチし、結果を予測して事前に何らかの手を打つことです。フィードフォワードを行うためには、多くの情報が必要です。アナログ時代にはなかなかできなかったことですが、今はデジタル活用によつて大量の情報を集め、蓄積し、分析することができます。(中略)営業情報は仕入れや生産の先行指標となります。
注文を取ってから、必要な量を仕入れたり生産したりできると、在庫リスクもなく確実なわけですが、納品までに時間がかかるデメリットがありました。反対に、納品までの時間を優先して、先に見込みで仕入れたり生産したりする場合は、売れなかった場合の在庫リスクが生じます。これを、先行指標を使ったフィードフォワードによって解消します。営業DXによって案件先行管理や見積先行管理が行われるようになると、受注量の見込みが立ちます。
これはSFAや見積書作成システムによって営業現場の情報が全社にオープンになっているからこそできることです。その都度、社会の変化や流行、競合製品の出現など何らかの『外乱』が起こり得ますから、必ず見込み通りになるわけではありませんが、外乱の検知や予測にもデジタルやAIの力を活用できれば、見込みの精度をさらに上げることが可能です。営業DXを進めることで、仕入れや製造の精度や効率も上がります。データ連携によって、仕入DX、製造DXを進めていくこともできます」(190ページ)
引用部分の長尾さんの説明は製造業を前提にしておられると思いますが、製造業というと、労働集約型産業(労働力が中心の産業)や、資本集約型産業(設備などが中心の産業)と考えられがちです。これは、かつてはその通りだったのですが、20世紀の終わりの頃から、製造業にかかわらず、あらゆる産業が知識集約型産業(知的生産による業務の割合が大きい産業)に移りつつあります。
例えば、靴下メーカーのタビオは、1990年代の初めに、自らが主導してSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)を構築して成功しています。これについて、同社創業者の越智直正さんが、ご著書、「靴下バカ一代-奇天烈経営者の人生訓」で述べておられます。「売れる分だけ、作る、そんな仕組みが作れないものか、こう考えて生産管理の勉強会に出かけ、本を読み、実行に移そうとしました。
そして、25歳のときに読んだある本に、労働集約型産業、資本集約型産業、知識集約型産業などと、産業分類を解説した一節がありました。靴下は、当然、労働集約型産業だろうと思っていましたが、航空産業、コンピューター産業と並んで、知識集約型産業の三大産業の一つに挙げられていたのが、ファッション産業でした。しかし、それは、ハードウェア(商品)とソフトウェア(販売)の両輪が一体でなければ、意味をなさない産業だと書いてあったのです。
考えてみれば、いかに高度な航空機を造ったところで、パイロットが操縦できないのでは意味がありません。コンピューターも同じであることは理解できましたが、では、ファッション産業の一端を担いながら、産業分類の原理原則さえ実行できていない靴下業界は、一体、どうすればよいのか、このときからずっとこの課題を抱えていました。
35歳くらいのとき、今のNTTが主催した、ニューメディア説明会に参加して、知識集約型産業の原理原則を実現できるかもしれないと、大きく夢が広がりました。POSレジを導入して、上がってきた全品番のデータをカラー別に集約し直し、それを担当向上に直結することで、販売と生産を同時進行させれば、ハードとソフトが一体になると思ったのです。
要は、店舗で集めた情報を活用して、お客さんが欲しいものを即座に作ってお届けすること、それを徹底すれば、お客さんも売り手も作り手も喜ぶということです。ハードウェアとソフトウェアが一体になって動けないようなやり方では、商売が立ち行きません。昨日、何色の靴下が何枚売れたという情報が工場にスパッと流れていき、工場は、その状況によって生産方針を自由自在に変えていく、これが知識集約型産業のやり方です」(164ページ)
この事例からも分かるように、現在は、よい製品を安く販売できなければ競争に勝つことができなくなっていますが、これは、市場の情報などを生産現場が素早く把握することで実現できています。すなわち、事業活動に占める情報の重要性が大きいということであり、製造業に限らず、あらゆる事業に共通することです。そして、この情報の収集や伝達は、かつてはある程度の規模の情報機器を必要としていたのですが、年を追って、容易に導入できるようになっています。
したがって、経営者や従業員のITリテラシーの高さが、直ちに、競争力の差につながってしまうと、私は考えています。そこで、現在、あまり情報技術について積極的に活用していないという会社の経営者の方は、自社を知識集約型産業に変えて行こうとするところから改善を進めていいくことをお薦めします。
2025/4/1 No.3030