鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

営業担当者はモノ売りでなく謀報担当者

[要旨]

中小企業診断士の長尾一洋さんによれば、顧客のクレームや要望は、より良い商品やサービスにしていくための大切な情報であり、真撃に応じることで商品力が高まり信頼度の高い関係性を維持することができるので、継続的に企業が業績を上げていくためには、営業力と共に商品力も高める必要がありますが、そのために情報システムを導入することで、中小企業でも容易にそれを実践することが可能になるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長尾さんによれば、普通の人が普通に取り組んだら成果が出る仕組みを営業DXによって実現することが可能であり、具体的には、顧客のアラートに即座に対応できる仕組みをデジタルで作れば、それにしたがって仕事をした営業担当者は顧客から誠意のある担当者だと思ってもらうことができるということについて説明しました。

これに続いて、長尾さんは、DXを活用し、顧客からのフィードバックを商品づくりに反映させることが重要であるということについて説明しています。「営業DXは、営業部門の枠を超えて競争優位性を高める取り組みです。そのためには、最前線にいる営業部門が顧客の声に耳を傾け、素早く社内にフィードバックする仕組みを作らなければなりません。どうすればその目的を実現できるかを具体例と共に紹介します。弊社が提供している『顧客の声』というシステムです。

顧客からのクレームや要望を営業部門だけでなく全社で共有します。内容によって、あらかじめどの部署が回答するかのルールを設定しておき、たとえば開発部門が回答した場合、その回答内容も全社で共有します。決してクローズされた状態でやり取りしないことが大切です。基本的な考え方として、顧客からのクレームや要望にはタイミングはともかく必ず対応します。顧客のクレームや要望は、より良い商品やサービスにしていくための大切な情報です。

真撃に応じることで、商品力が上がり、非常に信頼度の高い関係性を維持することができます。継続的に企業が業績を上げていくためには、営業力と共に商品力も高める必要があります。営業力と商品力は企業経営の両輪です。ところが、『営業を何とかしたい』、『営業力を強化したい』と考える企業が、つい後回しにしがちなのが商品力の強化です。これは鶏が先か卵が先かという問題で、商品力が飛び抜けて高くて、営業力などなくても売れていく……という状況ではないから、営業力を強化したいと考えるわけです。

そこで、『いや、商品力も必要ですよ』と言うと、『商品力があったらこんな苦労はしませんよ』という話に戻っていくのです。繰り返しますが、営業力も商品力も、両方必要です。顧客を増やし、売上を増やしていくには、両方あった方がいいに決まっています。『営業DX』では営業力と商品力の両方を高めることが可能です。営業担当者は売り手の都合で商品を売り込むモノ売りではなく、情報のカで人を動かす謀報担当者すですから、情報のカで顧客だけでなく社内の仕入れ部門や開発・製造部門などの人たちをも動かしていくことができるはずです。

このとき重要な情報となるのが、顧客の購入後のフィードバック(顧客の声)で、『買ったはいいけど、使い勝手が良くない』、『営業担当者に乗せられて買ったけど、使ってみたらイマイチでがっかり』、『自分にはこの商品は期待はずれだった』、このような声が上がったら、すぐに仕入れ部門や製造部門に伝えて商品開発や改良に活かし、商品力を上げていく仕組みが必要です。そして、その改善・改良の成果は顧客に対してしっかり伝えて、次の成果につなげます。改善・改良の成果が顧客に喜ばれ、業績につながれば、仕入れ部門や製造部門も努力のし甲斐があるというものです。これもまた全社共有します」(182ページ)

長尾さんは、「営業力も商品力も、両方必要」と述べられておられますが、このことはほとんどの経営者の方がご理解するする一方で、実際に顧客からのフィードバックを活用する会社はあまり多くないと、私も感じています。ちなみに、これは、直接、DXとは関係がないのですが、マーケティング活動を最適化する考え方に、マーケティングミクスというものがあります。具体的には、製品(Product)に関する活動、価格(Price)に関する活動、流通(Place)に関する活動、販売促進(Promotion)に関する活動の、4つの活動ごとに最適の活動を選択し、それを組み合わせてマーケティング活動を行うことが大切という考え方です。

すなわち、マーケティング活動は、販売促進活動だけ、商品力だけという、ひとつの方向だけから行うよりも、多面的に行う方が効果が高く、望ましいということです。とはいえ、このことは容易に理解できるものの、経営重が比較的少ない中小企業では、多面的なマーケティング活動を行うことが難しく、営業力だけに頼るというようなことが行われがちです。そこで、DXを導入することで、多面的なマーケティング活動を行うようにすれば、中小企業であっても、大企業に近いマーケティング活動を行うことが可能になります。

ただし、これはあらゆる活動に共通することですが、情報システムを導入しただけでは情報化武装は奏功しませんので、長尾さんの事例では、フィードバックを活かすための情報システムを導入しても、それを活用できる人材も育成しなければならないことはいうまでもありません。でも、情報技術によって、中小企業が大企業と同じ土俵に立つことができるようになっているわけですから、このチャンスを活かすことが、成功するための鍵になるということは間違いありません。

2025/3/31 No.3029