鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

営業DXで見積書発行の効率性を高める

[要旨]

中小企業診断士の長尾一洋さんによれば、SFAでは概算で扱われていた案件金額や商品価格を、見積書作成システムと連携させることで1円単位まで確定させることができるようになり、この確定したデータを販売管理システムの受注登録・会計システムに流して、請求書発行まで連携させることで、再入力や転記の手間をなくし、処理スピードを上げることで、効率的な活動や競争力を高めることが可能になるということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、長尾さんによれば、顧客との関係を強化するためには、SFAの活用が重要ですが、SFAは、元々、営業プロセスや見込み案件の管理を自動化するツールとして開発されたものであったものの、現在は情報共有や上司から部下への支援などを効率的に行うための支援ツールとなっており、経験の浅い部下でも一定の成果をあげることができるようになっているということについて説明しました。

これに続いて、長尾さんは、DXを活用した見積書発行について述べておられます。「商談を進めていくと、当然、見積書の作成が必要になります。この見積書の作成も営業DXの重要な部分であり、経理業務にデータをつなげる役割も担っています。営業担当者が個別に作成するエクセル見積もりではなく、クラウド上で共有していつでもどこでも作成、承認、発行できる見積書作成システムを利用することが不可欠です。

SFAでは概算で扱われていた案件金額や商品価格を、見積書作成システムと連携させることで1円単位まで確定させることができるようになります。この確定したデータを販売管理システムの受注登録・会計システムに流して、請求書発行まで連携させることで、再入力や転記の手間をなくし、処理スピードを上げるわけです。データ連携上の必要性だけでなく、見積書は、2023年12月末で宥恕(ゆうじょ)措置が終了し、電子保存が義務化された電子帳簿保存法(電帳法)の対象の一つです。

見積書は、経理部門が把握していないことが多いので、電帳法への対応で後回しになっているケースが少なくないのですが、現状、多くの会社で、メールで送受信(すなわち電子取引)される回数が最も多いのではないでしょうか。一度で決まらないことも多く、一件の商談で複数の見積書を提出することもあります。領収書や請求書の数よりも多くなることがあるでしょう。経理部門でまとめて処理するのではなく、各営業担当者が勝手にやり取りすることが多いのでその管理が大変なのです。

営業担当者が紙に出力して顧客に持参するのであれば、そのコピーを保管しておけばいいのですが、メールでやり取りした場合には電帳法に基づき、経理部門はすベてを電子データで保存しなければなりません。そのため、営業担当者は見積書を顧客に送るたびに、同じデータを経理部門にも提出する必要が出てきます。このような運用がうまくいくとは思えません。見積書の作成はエクセル見積もりによる属人管理から卒業し、見積書作成システムで一元管理して、電帳法にも対応すベきです。

そもそも、電帳法が施行されなくても、見積書は一元管理すベきであると考えていますが、現在でも、見積書の作成や管理をエクセルで行っている会社がまだまだ多いようです。『特に問題なく今まで使ってきたから問題ない』と考えている経営者や経理担当者もいますが、少なくとも10の問題点があることを指摘しておきます。(1)属人管理の罠:担当者が勝手に作成し、自分のPCで保存していると、本人以外には見積書の存在すら分かりません。不在時はもちろん、退職した場合にもきちんと引き継がれなければ行方不明となってしまい、会社として責任を持った顧客対応ができなくなります。

(2)手間ひま(労力・時間)のダブりによる無駄:同じ会社で同じ商品を扱っているので、それぞれの営業担当者が作る見積書も似たものになるはずです。個人のケアレスミスをなくし、また、時間や手間を短縮するためにも『使い回し』、『再利用』したいところですが、個人管理していると情報が共有されず、他の人が作った見積書を参考にしたり再利用したりすることができません。

(3)担当者の独断やケアレスミスが見過ごされる:担当者が勝手に書式を変えたり、間違ったまま提出したりしてトラプルになるリスクがあります。会社として定型のフォーマットがあっても、エクセルで作成したものは簡単に書式変更ができます。便利ではありますが、定型を崩し、我流の見積書が横行することになりかねません。上司のチェックや承認もなく見積書が提出されれば、間違いも発見できず、トラブルの種になる恐れもあります。

(4)情報漏洩のリスク:エクセルでの作成管理は、担当者のPCに保存されるものなので、もしもそのPCを移動中に紛失したりすると重大な情報漏洩につながります。あってはならないことですが、つい魔が差して競合企業に見積もりデータを見せたとしても、誰にも分かりません。本来、徹底した管理が必要な情報ですが、それが個人に任されているというリスクがあります。

(5)顧客対応が迅速にできない:作成も管理も担当者に属人化しているので、担当者の不在時にバックオフィスのスタッフに依頼して修正したり再発行、再送付してもらったりすることができません。結局は担当者本人がすベての対応を引き受けざるを得ず、そのため対応が遅れたり、送付漏れが起こったりすると業務に支障をきたします。(6)ミスが生じやすい:同じ商品であっても、顧客ごとに値入率や掛け率が違うことはよくあります。エクセルで見積書を個人管理させると、その数字や条件が徹底できずミスが生じやすくなります。また、同じ顧客の別拠点や別部署にバラバラの条件の見積書を提出するようなことも起こり、顧客クレームを引き起こすことも少なくありません。

(7)管理が煩雑となり手間がかかる:バラバラに管理されると、見積管理番号を付与できなくなるので、後々の管理が煩雜となり余計な手間がかかります。見積書は、作成して客先に提出して終わりではありません。受注時のチェックや条件確認などに必要となるため、営業部だけでなく経理部門など他部署にも影響を与えます。そのため、本来は見積書が発行された時点で管理番号などのコードが割り振られ、組織的に管理しやすいように整理されるベきですが、個人がエクセルで作成した場合には通し番号がつけられません。

(8)上司の承認印や会社の角印がないと発行できない:移動時間を有効活用するために、外出中でも見積書の作成や発行、客先送付が必要なことがあります。エクセルでの作成管理では上司の承認印など押印ができず一度、会社に戻って見積書を発行する必要があります。これではリモートワークや直行直帰も難しく、『働き方改革』も進まないでしょう。

(9)データ連携ができない:見積書のデータは、受注処理、発注処理などにも必要です。処理時にデータ転送で連携できると入力の手間が減り、ミスが生じることもありません。エクセルでの作成管理だと、データの連携が不可能です。二度手間、三度手間が発生するか、あるいは、別途高額な連携のためのツールを導入する必要が生じてしまいます。(10)営業見込みへのフィードパックができない:見積書の作成や客先への提出は、営業プロセス管理、商談進捗管理の重要なトピックスです。

見積書の内容は、営業見込み管理にも転用し、SFAなどのツールにもデータ連携すベきですが、エクセルで作っている場合は再度入力したり、コピー&ペーストしたりする手間が発生してしまいます。ITを使いながらも作業はアナログのままというおかしな事態になりかねません。これでもまだ、エクセルのままで見積書を発行するベきと考える人はおそらくいないでしょう。見積書のDXは一刻も早く着手すベき優先事項です。

見積書作成システムを使えば、マスター情報と連携させることで、商品を選ぶと同時に単価が自動的に入力されるようになります。さらに、『AとBはセット商品です』、『Bは年内で終売予定ですが、納品は間に合いますか』といった注意事項が画面上に表示されるので、チェック漏れによるミスがなくなります。AI機能を導入すると、もっと便利になります。過去の見積書をAIが学習し、『AとBを見積で選択したら、次にCを見積に入れるはずだ』といった予測をすることで、見積書作成時に商品選択の候補が自動的に挙がってきます。

このようにAIで学習しながら、見積書作成のアシスト機能を持った見積書作成システムのことをSQA(Sales Quote Assistant)と呼びます。見積書はパターンがそれほど多くないので、比較的少ないデータでも精度の高い予測が可能です。外出時にタブレットスマホで作成できるのも優れた点です。事前に設定されている候補の中から選ベるので、キーポードで文字や数字を打つ必要がありません。手間が省けて、スピードも速く、ミスも起こりません。

システム上で上司の承認を取れば、移動中に顧客に見積書を送付することも可能です。見積書が何度かやり取りされた後に受注が確定します。このとき、最終の見積もりデータがそのまま受注データになります。それを受注データとして処理のうえ、納品先の情報、納品の時期などを追記して、基幹システムに連携させます。この業務フローを確立できれば、打ち直しの手間も不要、ミスもなくなり、生産性が上がります。営業DXが目指す『省人化』の実現にもつながります」(152ページ)

長尾さんは、見積書作成の事例をあげていますが、データを共有することは、効率性や精度の向上や、セキュリティ対策となり、このことは最終的に競争力の向上につながります。同様の事例として、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)があります。これは、顧客の問い合わせ履歴、注文履歴、購入履歴、属性などをデータベースにして、精度の高いマーケティング活動を行うことができるようにするシステムです。

そして、前回も少し触れましたが、このようなシステムがあることで、経験の浅い従業員も、ある程度の効果のあるマーケティング活動ができるようになります。さらに、もうひとつ付け加えると、かつては売上や利益を増やそうとするときには、製品や商品の性能などを高めることに力が注がれる傾向にありましたが、現在は、製品や商品の性能などでの差別化が難しくなりつつあることから、効率的な販売方法などで差別化を図ることに力が注がれるようになってきています。これらのような要因を鑑みれば、DXの実践の重要性、必要性が高いということを容易に理解できると思います。

2025/3/29 No.3027