[要旨]
DXとは、経済産業省の定義によれば、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。したがって、DXを成功させるには、「製品やサービス、ビジネスモデルの変革」を念頭にして取り組まなければなりません。
[本文]
中小企業診断士の長尾一洋さんのご著書、「売上増の無限ループを実現する営業DX」を拝読しました。長尾さんは、まず、DX(Digital Transformarion)の定義について述べておられます。「ここで営業DXを定義しておきましょう。そもそも、最初にDXを提唱したスウェーデンのウメオ大学の教授(当時)エリック・ストルターマンは、DXを次のように定義しています。
『人々の生活のあらゆる側面にデジタル技術が引き起こしたり影響を与えたりする変化のこと』これだけでは、デジタル化を進めていきましょうという話でしたが、その後、世界中のコンサルタントなどがDXを取り上げて、企業経営のキーワードに育てました。日本では、経済産業省によるDXの定義があります。少し長いのですが、DXで考慮すベき点を分かりやすく述ベているので紹介します。
『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』経産省の定義は、ビジネスモデルや経営全般の変革を伴うものであることを明記し、単にデジタル化、システム活用で終わらずに、結果として『競争上の優位性の確立』まで実現すベきであると謳っている点が評価できます。
この経産省の定義をふまえて、私は、営業DXについて以下のように定義します。『データとデジタル技術の活用を前提として、営業部門の枠を超えて顧客接点を見直し、新規客獲得から既存客フォローまで一気通貫させるプ口セスを構築することで、営業支援と省人化を実現し、営業生産性を高めること』重要なポイントは、営業DXと言いながらも、営業部門の枠を超えていくということ。さらに、キーワードは次項で解説する顧客データの『一気通貫』です」(27ページ)
現在は、DXという言葉を聞かない日はないと思いますが、一方で、DXとは何かということは、人によって曖昧になっていると、私は感じています。しかし、当然のことながら、それは望ましいこととは言えません。なぜなら、自社でDXを実践しようとしたとき、それを十分に理解していなければ、DXの効果も不十分なものになってしまうからです。そのありがちな失敗例は、単に、情報機器を導入しただけというものです。もちろん、このような例は少ないと思いますが、まず、DXを深く理解することが、成功への1歩と言えます。
そして、次のポイントは、経済産業省の定義の中にある、「製品やサービス、ビジネスモデルの変革」です。これは、端的に言えば、情報技術がなければできなかったことを、情報技術によって実践し、競争を優位するということです。このDXを実践した会社の事例として、熊本市にある、シタテル株式会社をご紹介します。同社は、衣服生産プラットフォームサービスであり、会社名と同じ名前の「sitateru(シタテル)」を運営する事業者です。
中小企業白書2018年版によれば、「sitateru」には、「1,00を超える国内の中小縫製工場等をデータベース上で把握し、都市部のデザイナーや小売店等、衣服を作りたい事業者とマッチングすることで、少 量・短納期での生産を実現」しています。具体的には、「最低ロットは50枚」であり、「生産のリードタイムも通常、半年から1年かかるところを、1~2か月まで短縮することが可能」になりました。このことによって、「中間業者を介す必要がなくなり、低コストを実現」しています。
さらに、「『スマート工場プロジェクト』として、縫製工場内に設置したセンサーによって、ミシンや裁断機等の稼働状況をデータ化するなど、連携する縫製工場のIoT化を進め」、生産性を向上させています。この「スマート工場」の実現は、情報技術の進展が後押しをしていますが、単に、生産効率の向上だけでなく、IoTによって暗黙知となっている製造技術を形式知に変え、技術継承を行いやすくしたり、人手不足への対応をしたりするという課題も解決することにつながっています。
この事例のように、DXは、単に情報機器を導入するのではなく、情報機器によって実現できる革新的なビジネスモデルを実践することを意味します。繰り返しになりますが、DXを成功させるには、「製品やサービス、ビジネスモデルの変革」を念頭にして取り組まなければなりません。
2025/3/25 No.3023