[要旨]
神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の吉原精工の創業者の吉原博さんは、かつて、生産管理システムを導入したそうですが、このシステムを薦めてきた会社の営業マンに、システムを売り込む相手は、工場長ではなく経営者の方がよいと助言したそうです。その結果、その営業マンは著しい営業成績を収めたそうです。すなわち、生産管理システムが会社経営に与えるインパクトはそれくらい大きいものだということだそうです。
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今回も、前回に引き続き、神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の株式会社吉原精工を創業した吉原博さんのご著書、「町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、吉原さんは、ホームページに、設備が最新である、大きな工場があるなど、自社のすばらしさを「自慢」する会社が多くありますが、そのような自慢をする会社は、顧客から相談されにくいのではないかと考え、同社では、自社が対応できないことをホームページに記載し、その代わり、価格や納期でのメリットがあるということを伝えているということについて説明しました。
これに続いて、吉原さんは、生産管理システムの効果について述べておられます。「かつてある企業の営業マンが生産管理システムの売り込みにやってきたことがありました。そのシステムを使えば、工場の機械がどのくらい動いたか、社員のうち誰が機械を動かしたのか、機械が止まっていた時間はどれくらいあったのかといったことがすベて把握できるというもので、バプル期のことでしたから、当時としては非常に画期的だったと思います。私は、このシステムを使えば仕事を効率化できると思い、リースで導入することにしました。
後に聞いたところでは、このシステムを最初に入れたのは吉原精工と三菱重工業だったという話でした。結局のところ、このシステムについては稼働ざせるための作業に人手がかかることが判明し、吉原精工の規模ではメリットを活かすことができなかった苦い思い出があります。それでも、私にとっては面白い経験もありました。私が営業マンにこのシステムの売り方をアドバイスしたところ、なんと彼は社内で伝説を作ったといわれるほどの営業成績を残したのです。私が考えたのは、『このシステムを導入して喜ぶのは、現場ではなく経営者だ』ということでした。
仮に、生産管理システムによって空き時間を見つけ、1日に1台あたり3,000円分の加工賃がプラスされるとすると、20台の機械があれば1日6万円になります。1か月あたりだと、営業日が25日あるとすれば、150万円の売り上げアップとなるわけです。私は、まず重要なポイントとなるのは、こうした数字とリース料19万円を並ベて経営者に説明することだと考えました。もう一つ重要なのは、生産管理システムがあれば人の管理ができるということです。誰がどのくらい働いているか、誰がサポっているのか、システムを活用できれば一目瞭然となります。これは現場の社員からすれば迷惑な話かもしれず、工場長など現場の責任者に提案しても嫌がられる可能性がありました。
ですから、営業する相手は必ず経営者である必要があると考え、伝えました。このアドバイスを実践した営業マンはあっという間に昇進し、10年ほど経った後、運転手つきでひょっこり吉原精工を訪ねてきてくれました。『ずいぶん偉くなったなあ』と感心したものです。ちなみに、このシステムに関して私自身にはメリットはなかったわけですが、私が出入りの営業マンと付き合うときに考えているのは損得とは別のことです。基本的には、自社のためではなくお客樣のために働きたいと考えて動くタイプの営業マンとは、人として深く付き合いたいと感じます」(186ページ)
吉原さんが述べておられることと趣旨は異なりますが、情報技術の進歩により、生産管理システムが高度化し、多くの会社の生産性が高められています。それは、吉原さんが述べておられるように、三菱重工業が早い段階で生産管理システムを導入しているということからも分かるでしょう。この生産管理システムは、当初は、MRP(Material Requirements Planning、資材所要量計画)というものでしたが、その後、MRP2(Manufacturing Resource Planning、生産資源計画)、ERP(Enterprise Resource Planning、企業資源計画)と発展し、製造業以外の会社でも活用されるようになっています。
採算管理システムについては、詳しい説明は割愛しますが、吉原さんに生産管理システムを薦めたセールスマンが、その後、大出世したことからもわかる通り、多くの会社で評価されているシステムです。ただし、このシステムは、それを使いこなせるリテラシーが必要です。ところが、システムの導入について中小企業に提案を行うと、「机でパソコンをにらんでいるくらいなら、現場で製品をつくる方が利益になる」という反応をする経営者の方が少なくありません。
確かに、かつての時代は、製品をつくれば売れるという時代があり、そのような経営環境では、製造に専念することが利益の増加になりました。でも、現在は、どんな会社の製品も、性能がよく、価格が安く、納期も短いので、差別化が困難になっています。そこで、生産性の良し悪しで事業の優劣が決まる時代です。だからこそ、中小企業であっても、生産管理システムを活用する重要性が高まっています。したがって、現在、なかなか利益を得ることができずにいるという会社では、生産管理システムを導入することをお薦めします。
2025/3/22 No.3020