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神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の吉原精工は、かつて、業績があまりよくなかった時代は、創業者の吉原さんが、現場をベテラン社員に任せ切りにしていた結果、能力は高くないのにプライドだけ高い社員、個人プレーばかりして協調性のない社員、若手社員に仕事を押し付けている社員などがいたということに気づいたそうです。
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今回も、前回に引き続き、神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の株式会社吉原精工を創業した吉原博さんのご著書、「町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由」を読んで、私が気づいたことについて述べてみたいと思います。前回は、同社では、社員が自分の働きと給与の関係を常に明示されていれば、社員のモチベーションが高まるという考えにより、会社の業績を社員に公開し、さらに、残業が増えているのに売上が増えていないときは、経営者と社員の間でその事実を直視し、残業代と利益がリンクするよう働き方を変えていくきっかけになもなっているということについて説明しました。
これに続いて、吉原さんは、かつて、同社が業績があまりよくなかったとき、問題のある従業員がどのような従業員だったのかということについて述べておられます。「過去を振り返って私が大いに反省しているのは、バプルが彈けるまでの間、現場をしっかり見ていなかったということです。気づけば、勤続年数の長い社員に任せきりにしてしまっていました。私が改めて現場に目を向けたのは、バプルが弾けてしばらく経ち、いよいよ会社の経営が傾いてきて、『何とかして会社を立て直ざなければ』という危機感を強めたときでした。現場をよく見ることで、私は多くの気づきを得ました。
(1)仕事ができない社員ほど『自分は仕事ができない』という自覚がなく、プライドが高く、変化を嫌うこと。(2)社員の多くが、勤続年数に比例して頑固になり、自己流になり、個人プレーばかりで協調性がないこと。(3)そういった社員が組織の上に立ち、入社年次が若い社員に仕事をさせて、本人はあまり手を動かしていないこと。(4)たとえ年次の若い社員のスキルが高くても、ベテラン社員のほうが上だという雰囲気があること。(5)若手社員が、私の指示よりも、部門のトップの顔色を気にしながら仕事をしていること。
吉原精工は、こうした多くの問題をかかえた企業だったのです。また、かつては社員が自分の顧客リストを持って退職し、起業するケースもありました。これは、私が現場の社員に仕事をすベて任せていたのが原因です。見積もりをつくり、顧客と会って交渉までしている社員なら、退職後、『今まで吉原精工では10万円で受けていた仕事を9万円でやりますよ』と営業をかけるのは簡単なことです。もっとも、結果的に彼らの会社の経営はあまりうまくいかなかったようです。
こうやって独立した社員が過去に4人いますが、3人はその後破綻しています。これは、彼らが吉原精工のやり方を本当には理解できていなかったからでしょう。ちなみに独立した後や自己都合で退社した後、何人かは『また吉原精工で働きたい』と言って訪ねてきました。いざとなれば、私が再雇用してくれるだろうと高をくくっていたようです。もちろん、会社を裏切って辞めていった社員を再び雇うほど、私はお人好しではありません。私は、社員からずいぶんとなめられていたと言ってもいいでしょう」(82ページ)
本旨から少しずれてしまうのですが、私がこれまで中小企業の事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じていることなのですが、業績のよくな会社経営者の特徴は、吉原さんがご指摘した、問題のある従業員の特徴の、(1)、(2)、(3)と共通しているということです。すなわち、プライドが高く、個人プレーが好きで、自分ではあまり動かず部下に指示ばかりしているということです。このような経営者は、吉原さんを裏切って退職して起業したような元従業員と同じタイプなのかもしれません。
そして、ほとんどの方が、「そういう人が経営者なら、事業もうまくいかないのは当然だ」と感じると思います。しかし、それでも、こういうタイプの経営者の方は、少なからず、存在します。それは、「彼らが吉原精工のやり方を本当には理解できていなかったから」と吉原さんがご指摘しているように、会社経営を表面的な部分でしかとらえていなかったために、安易に起業したのだと思います。だからといって、私は、サラリーマンとしてスキルを高めた後、そのスキルを活かして起業することは問題ない、というよりも、どんどん、起業すべきだと思っています。
もちろん、そのような経緯で起業した経営者は、起業後も、自分を育ててくれた会社と良好な関係を維持し、お互いにピンチになったときは助け合う間柄にもなるでしょう。だからこそ、将来、起業したいと考えている方は、事業のスキルだけでなく、あわせてマネジメントスキルも磨き、しっかりと準備をしてから起業しなければ、せっかくの独立も無意味になってしまうと、私は考えています。そして、現在は、経営環境が成熟してきていることから、経営者のマネジメントスキルの重要性の比重が、より高まっているということも理解しておくことが大切です。
2025/3/13 No.3011