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神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の株式会社吉原精工の創業者で会長を務める吉原博さんは、若手社員にもベテラン社員にも、ボーナスは一律100万円を支払っているというだけでなく、ベテラン社員の給料は能力に応じて待遇しているので、若手社員も、自分の将来の待遇が明確に把握できるようになっていることから、定着率が高くなっているということです。
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今回も、前回に引き続き、神奈川県綾瀬市にある、金属加工会社の株式会社吉原精工を創業した吉原博さんのご著書、「町工場の全社員が残業ゼロで年収600万円以上もらえる理由」を読んで、私が気づいたことについて述べてみたいと思います。前回は、同社では、リーマン・ショック後、業績が回復してきたことから、給与を引き上げていき、また、ボーナスは、会社の利益の半分を、従業員数で割った金額とするという方針を打ち出し、実施していったそうですが、このように給与やボーナスの方針を明確にすることで、従業員の方たちからも同社の方針について理解が得られるようになったということについて説明しました。
これに続いて、吉原さんは、ボーナスを一律100万円としたことで、若手社員が定着するようになったということについて述べておられます。「『古参社員から若手までボーナス額は一律』と聞くと、『古参社員が反発するのではないか』と思う人もいるでしょう。だからこそ、私は『ポーナス100万円』にしたのです。2011年に社員への還元を始める以前は、ボーナスを出すときは金額を人によって変えていました。過去の実績でいえば、もっともボーナスが多い人で50万円でした。
ですから、もしも『ボーナスは一律50万円』としていたら、過去に50万円もらっていた人は『どうして全員同じなのか』と不満を感じたかもしれません。『若手のボーナスを抑えれば、自分は80万円もらえたのではないか』そんな考えが頭をよぎったとしても、無理はないでしょう。しかし、もともと最高50万円だったボーナスが倍増するとなれば、他の人が同額もらうからといって文句を言う社員はいません。みんな大喜びでめでたしめでたし、というわけです。『利益が上がればポーナスが出る』という仕組みを導入した結果、面白い効果も生まれました。
会社の利益を社員が優先して考えるようになり、ベテラン社員が若手社員の能力を引き上げようとサポートする姿勢が見られるようになったのです。全員が一丸となって会社の利益アップに頑張るようになるのですから、これほどいい仕租みはないと思います。ちなみに、私がこれまで会社を経営してきて感じるのは、ベテラン社員は少々のことで簡単に辞めたりはしないということです。もちろん、できるかぎり給料を出すなど待遇はきちんとする必要がありますが、『よそに行っても同じだけ稼ぐのは難しい』という状況なら、ちょっと不満があるくらいで退職することはありません。
配慮しなけれぼならないのは、伸び盛りの若手です。『若手社員が定着しない』、『せっかく素人から一人前に育てたのに、これからというときに辞めていく』、こういった悩みはいろいろな会社の経営者が口にしますが、話を聞いてみると、給料やポーナスをアップするなどの手を何も打っていないことが少なくありません。『ほかの社員との兼ね合いもあるし、そう簡単に給料は引き上げられないよ』と言いながら、『将来は工場長にしたかったのに……』なとと嘆いているのです。これでは、若手に逃げられでも仕方ありません。
ベテラン社員を十分に遇しているなら、若手の待遇はどんとん引き上げ、成長したらスムーズにベテラン社員に近づけていくベきだというのが私の考えです。能力に応じてきちんと払うベきものを払ってこそ、能力のある社員が定着していきます。そしていずれは、若者だった社員がベテランとなり、会社の柱になっていくのです。吉原精工では、入社1年目でボーナスを手取り100万円もらった社員もいます。もしかすると、親よりもポーナス額が大きかったのではないかと思います。これなら、絶対に若手社員は辞めません」(69ページ)
私も、これまでお会いしてきた経営者の方から、「若い従業員の方の定着率を高めたいとは思っているけれど、いったん、給料を上げてしまうと、業績が下がったときに下げることが難しいので、なかなか給料を上げる決断ができない」という悩みを、しばしば、聞いています。そこで、吉原さんの会社のような事例は参考になると思います。吉原精工では、ボーナスを一律100万円にしていますが、そのことだけでなく、若い従業員の方も、このまま吉原精工で働き続けていれば、将来は給料が上がるということが分かっているから、定着率も高まるのでしょう。
一方、定着率の低い会社では、キャリアプランが明確になっていないことから、将来に希望を持ちにくくなり、それが定着率を下げる要因になっていると考えられます。キャリアプランが明確になっていれば、従業員の将来の待遇がも明確になるので、長く働く動機になります。ここで、繰り返しになりますが、将来の待遇を明確にすることは、経営者としては迷うこともあると思いますが、定着率が低く、何人も従業員が入れ替わるよりは、ベテランが増えることの方が効率がが書く、業績が高くなる確率は高くなることは間違いないと思います。ですから、吉原精工のように、若手従業員に、自分の将来の待遇が分かるようにすることは大切だと、私は考えています。
2025/3/11 No.3009