鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

従業員に利益の構造を理解してもらう

[要旨]

エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、埼玉県入間市にある野村運送では、従業員の方たちに会社の財務情報を公開し、モチベーションの向上につなげているそうです。具体的には、ドライバーが1日で稼いだ金額から経費を差し引いた利益を説明することで、会社の仕組みや給料がどのように成り立っているのかを理解することができ、自分がどれだけ会社に利益をもたらしているかや、自分の仕事の価値を実感しているということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、千葉県成田市にある運送会社のロジックスラインは、2024年問題は、運送会社の課題となっただけでなく、運送会社を利用する会社にとっても、新たな運送会社と取引を始めなければならないという課題にもなっていると考え、営業に力を入れたところ、1年で12社との新規取引を獲得することができ、運賃の適正化も進めることができということについて説明しました。

これに続いて、谷口さんは、埼玉県入間市にある野村運送では、従業員の方たちに会社の財務情報を公開し、モチベーションの向上につなげているということについて述べておられます。「野村運送では、従業員に対して原価計算の教育も行っています。目的は、従業員が自身の業務がどれだけの利益を生み出しているのかを把握し、会社の経営構造を理解することだと青山会長は話してくれました。

そうすることで、給与の額の正当性を知り、もっと上を目指すにはどう働いたら良いかを先輩ドライバーを見て叶えていくのが良い、と伝えていると。たとえば、ドライバーが1日で稼いだ金額から車両維持費や保険料などの経費を差し引いた実質的な利益を説明することで、会社の仕組みや給料がどのように成り立っているのかを明確にしています。

この取り組みによつて、誰もが会社の数字を見られることもあり、従業員は自分の仕事の価値を実感できます。自分がどれだけ会社に利益をもたらしているかを実感することで、仕事が楽しくなる、と青山会長も野村社長も考えは一致しています。原価計算ほか、同社では個人の給与以外の社内の数字を社員に開示しています。そうすることで、経営者が利益を独占しているわけではなく、どのように使われているのかを理解してもらえるような体制に努めています。

また、野村運送では、収支改善のための経費の細分化を行っています。経費削減は第一ですが、昨今の状況のようにそれでも改善が見込めないということになれば『売り上げを増やす』必要が出てきます。経費がかかり、粗利が出ていない仕事であることを説明する説得材料として、運賃アップの必要性をお客様に直接説明することによつて、理由の納得できる運賃交渉となり得ます。2024年問題が常識化している中で、荷主側としても取引を継続するために必要なことを理解してもらえる状況となってきたことは、実感しているとのことです。

交渉にあたっては会長・社長自らが顧客を訪問し、『ドライバーの平均年収を向上きせ、業界全体の魅力を高めたい』という具体的なビジョンを共有しています。こうした直接的なコミュニケーションによって、お客樣の信頼を得ながら、協力を仰ぐ姿勢が功を奏しています。このようなトップセールスの取り組みは、単に運賃を上げるだけではなく、業界全体の課題解決を目指した取り組みでもあるのです」

従業員の方に能動的に仕事に臨んで欲しいと考えている中小企業経営者の方は多いと思いますが、そのためには、自社の会計情報を共有してもらうことは欠かせません。なぜなら、自分の活動と、会社の業績のかかわりが明確でなければ、自分の活動の意義が明確にならないからです。

例えば、自社の付加価値率(≒売上総利益率=売上総利益÷売上高×100(%))が25%、労働分配率(=人件費÷付加価値額×100(%))が80%であるとすれば、自分が売上高を1,000万円増やすと、そのうちの200万円(=1,000万円×付加価値率25%×労働分配率80%)を従業員の給与に充てることが可能になるということが理解できます。(売上高を増やしても、従業員の方の給与は歩合制ではない場合、直ちに給与が増加するわけではありませんが、昇給の余地を増やすことができるということを理解することができます)

そして、このことがモチベーションの向上になり、能動的な活動につながります。また、谷口さんが、「経営者が利益を独占しているわけではなく、どのように使われているのかを理解してもらえる」と述べておられるように、会社の会計情報を共有することは、経営の透明性を高めることでもあり、このこともモチベーションの向上の要因になります。ただし、このような活動をするためには、月次の業績を迅速に把握できるようにする体制を整備する必要があります。

月次で把握することが求められる理由は、従業員の方たちの努力の成果が、年に1回しかわからないということであれば、モチベーションを維持しにくくなるからです。また迅速に把握するということは、例えば、当月の業績が2か月後に把握できるというような状況であれば、機動的な活動ができないからです。少なくとも、当月の業績は、翌月の10日から15日までには把握できるようにすることが大切です。

そして、これは、私が何度も述べてきていることですが、このような業績を把握するという管理活動は、直接的な利益を生む活動ではないので、経営者の方の中には、消極的に考えている方も少なくありません。でも、このような管理活動がなければ、従業員の方たちが積極的に仕事に取り組むこともできなくなります。そこで、会計情報を従業員の方に共有してもらうことで業績を高めている野村運送の事例に倣い、業績を迅速に把握し開示する体制を整えることをお薦めします。

2025/3/7 No.3005