[要旨]
エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、千葉県成田市にある運送会社のロジックスラインは、2024年問題は、運送会社の課題となっただけでなく、運送会社を利用する会社にとっても、新たな運送会社と取引を始めなければならないという課題にもなっていると考え、営業に力を入れたところ、1年で12社との新規取引を獲得することができたそうです。さらに、運賃の適正化も進めることができたそうです。
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今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、物流業界向けのクラウドサービスの開発を行っている、株式会社canuuの濱田崇裕社長は、現在の物流業界が持続的に成長するためには、IT活用が不可欠であると考えており、ITを活用した次世代インフラの構築が実現すれば、業界全体が効率化し、持続可能な形で成長していくことができると考えているということについて説明しました。
これに続いて、谷口さんは、千葉県成田市にある運送会社のロジックスラインが、2024年問題というピンチをチャンスと捉えて、事業を拡大したことについて述べておられます。「2024年問題がクローズアップされる中で、物流業界はかなりの厳しい状況を覚悟していましたし、その影響で深刻な状況に陥っている企業は少なくありません。しかし、ロジックスラインの沢田秀明社長は『ところが違った』と話してくれました。2024年問題による規制強化が進む中で、荷主側にも危機感が広がりました。
これまで一部の荷主は、限られた運送会社に依存し、低コストで安定した物流を確保できると考えていました。しかし、労働時間や残業時間に対する厳しい規制が施行されると、運送会社が十分に車両を手配できなくなる可能性が現実味を帯び、荷主側は新たな取引先の確保の必要性を感じるようになったのです。また、運送業界における下請け構造の問題も影響を及ぽしました。多くの中小運送会社が直接荷主と契約する機会を持てず、大手運送会社や同業他社を通じて仕事を受注していたため、運賃交渉や業務条件の改善において交渉力不足は否めません。
しかし、ロジックスラインは下請け依存の構造から脱却し、直荷主との取引が中心だったため、荷主と直接交渉することが可能でした。この立場は、交渉を有利に進めるだけでなく、荷主に対して迅速かつ柔軟な提案を行う強みとして発揮されました。こうした状況下で、同社は荷主の危機感を的確に捉え、タイミングを逃さず営業活動を展開しました。この結果、2024年問題に対応するため、営業に力を入れた同社はわずか一年間で12社もの新規取引先を獲得しました。
また、これまで以上に取引先との交渉に力を入れ、適正な運賃や付帯料金の請求を徹底する方針を採用しました。そして運賃の適正化だけでなく、社員の労働環境改善にもつながる成果を上げました。特に、高速道路の利用に関する費用の負担を荷主に求める取り組みは、労時間の短縮やドライバーの安全確保に直接的な影響を与えました。これにより、効率的で安全な運送体制を構築しながら、社員の負担軽減にも成功しています。
『運送会社の成功というものは何なのかと言われたら、もちろんホワイト企業であることやいい人材を確保していることなどいろいろあるでしょうが、会社である限りまず、黒字経営の結果を出すことが、社員の給与や環境の整備といったところにつながるわけです。経営者としては、まず黒字経営があっての成功だと思います』と社長は話します。この営業力強化の結果、新規荷主との契約が相次ぎました。
特に2024年問題が断行される中で12社もの新規契約を実現したことは、会社の安定性を高めただけでなく、社員たちにも大きな自信をもたらしています。例えば、コカ・コーラ・ポトラーズジャパンや大手飲料メーカーの物流会社などトラック業界に従事する者なら誰もが知る企業との直接契約は、社員にとって誇りとなり、業務への意欲を高める原動力になっています。それは輸送品質の向上にもつながっている、と沢田社長は感じています。
このようなプランド力の高い取引先との直接の関係構築は、会社全体の評価を押し上げ、さらなる取引拡大の可能性を広げています。もちろん、直接の契約であれば収益が上がり、安定した収入が得られることで、人材の確保につながることになります。2024年問題を規制順守の面で課題と捉えるのではなく、その先にある可能性を模索する姿勢が、同社の大きな強みです。この変革を推進する中で、未来志向の取り組みを続けていきます」
2024年問題は、運送会社にとって課題であることに間違いはありませんが、運送会社を利用する顧客にとっても課題となっていました。それを商機ととらえた点は、ロジックスラインの沢田社長のセンスの高さを伺えます。とはいえ、それだけで1年間で12社の新規取引先を獲得したり、運賃の適正化や付帯料金の請求ができるようになったとは、私は考えにくいと思っています。
では、ピンチをチャンスにできた要因は何かというと、私は、沢田社長が、「経営者としては、まず黒字経営があっての成功だと思う」と考えていたからだと分析しています。そのような考え方があったから、2024年問題を商機として捉えることができたのでしょう。ここで、「会社を黒字にしようと考えている経営者は、沢田社長だけではなく、日本のすべての会社経営者がそう考えているはずだ」と思っている方も多いと思います。
確かに、これまで私がお会いしてきた経営者は、全員が自社の業績を高めたいと口にしています。でも、上から目線で恐縮ですが、私が事業改善のお手伝いをしてきた経験から感じることは、行動レベルで自社の業績を高めようとしない経営者も少なくありませんでした。というのは、現状で業績の改善が必要な会社経営者は、まず、経営者自身が活動内容を変えなければなりません。
でも、私がコンサルタントとして改善案を提案し、その実践を了承していただいたにもかかわらず、遅々として行動に移さない経営者の方も少なからずいました。むしろ、改善が必要な会社ほど、その傾向が高いと感じています。もちろん、私の提案が必ずしも正しいとは限りません。しかし、事前に正しいかどうかがわかる改善案も存在しません。すなわち、改善案は事前に正しさを確かめることができないのであり、実践と検証を繰り返して精度を高めていくものです。
したがって、正しいことがわからないというだけでは、実践しない理由にはなりません。その一方で、私は、改善策をなかなか実行できない経営者の気持ちも理解できます。それは、もし、改善策を実行して、うまく行かなかったとき、さらに自分の責任が大きくなってしまうという恐れがあるからだと思います。
ただ、この恐れについては、経営者という重責に就いた人は逃げてはいけないものです。それが、限られた人しか務めることができない経営者の厳しさでしょう。沢田社長の場合、「経営者としては、まず黒字経営があっての成功だと思う」という強い信念を持っていたことから、2024年問題を危機ではなく商機ととらえることができ、そして、1年間で12社の取引先を獲得するということに繋がったのだと思います。
2025/3/6 No.3004