[要旨]
エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、福岡県粕屋郡にある福岡ロジテックでは、同社の黎明期に信用力不足で苦心したことから、現在は、信用調査機関の評点を60点にすることを目指しているそうです。この信用力を高めることで、取引先との交渉や、銀行の融資審査が円滑になるほか、従業員の士気も向上し、同社の事業の成長を支えているということです。
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今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、福岡ロジテックでは、「社員を第一に考える」方針に基づき、家族を含めた「人」を大切にする文化、温かみのある福利厚生、個人を尊重する職場環境を実現しており、例えば、社員が子どもの入学式や運動会といった家族行事に参加できるよう、柔軟な休暇取得を推奨しているそうですが、その結果、社員の満足度やモチベーションを高めるだけでなく、同社の業績や信頼性の向上にもつながっているということについて説明しました。
これに続いて、谷口さんは、福岡ロジテックは、信用調査機関からの評価を高めるための取り組みについて述べておられます。「(会社の)スタート時に信用という点で辛酸を舐めた同社も、今では帝国データバンクや東京商工リサーチの評点を着実に向上させてきています。同社の戦略は、信用力を数値化し、それを向上させるために具体的なアクションを積み重ねるものです。この地道な努力が、同社の成長を支える強固な基盤となっています。
企業評点とは、信用調査機関が企業の財務状況や経営の安定性を分析し、評価するものです。運送業界では一般的に評点が低い傾向がありますが、福岡口ジテックはこの評点を改善することで他社との差別化を図ってきました。同社が目指しているのは、業界平均を大きく上回る『評点60』という高水準です。社長は『信用がなければ何も始まらない』との考えのもと、この目標を掲げました。信用力の高ざは社員採用や社内の士気向上にも貢献しています。
『評点60』という目標を掲げ、実現に向けた取り組みを全社一丸で進めることで、社員は会社の成長に誇りを持ち、日々の業務に自信を持って取り組むことができるようになります。評点が向上すれば、取引先との交渉や新規契約がスムーズになるだけでなく、修理部品や燃料の購入条件が優遇されるなど、日々の運営にも大きなメリットがあります。また、金融機関からの融資を受けやすくなるため、資金繰りが安定し、事業拡大にもつながります。
同社は創業期に信用の欠如がどれほど経営に影響を与えるかを痛感しており、その経験をもとに信用力を強化することに力を注いでいます。この評点向上に向けた取り組みは、単なる数字の改善を超え、福岡口ジテックの信頼性を高める重要な戦略となつています。同社はこの信用力を企業価値と位置づけ、それを高めることで市場での優位性を確立しています。このような取り組みが、同社を『信用のある会社』として認知させ、持続可能な成長を支えています」
信用調査機関の評点ですが、例えば、東京商工リサーチでは、「独自に対象企業を『経営者能力・成長性・安定性・公開性及び総合世評』の4つの視点で総合的に評価」し、「100点満点の実数表示」で行われるようです。銀行も、融資をしている会社に対して、財務諸表を中心に会社を評価し、信用格付を行っていますが、こちらは融資方針を定めるために行っています。これに対して、信用調査機関の評点は、事業会社が新たに商品などを販売する相手に対して、販売代金の回収に不安がないかといったことを判断するために、信用調査機関に利用料などを支払って、評点などの情報を入手します。
これは蛇足ですが、銀行は、融資相手の会社から、融資基本契約(銀行取引約定書)によって、財務諸表を提出してもらうことができますが、信用調査機関は、調査対象の会社に対して、必ずしも財務諸表を提出してもらえとは限らないようです。したがって、これは私の予想ですが、信用調査機関の評点は、財務諸表を入手しないで行われていることもあるのではないかと思います。とはいえ、評点を見ずに取引を判断するよりも、評点を見た上で取引を判断することの方が懸命であることは間違いありません。
話を戻すと、谷口さんも述べておられるように、会社の信用力が高いと、銀行から融資を受けやすくなるだけでなく、取引先からの評価も高くなり、ライバルとも差をつけやすくなるだけでなく、従業員の方の士気も高くなります。ところが、これまで私が中小企業の事業改善のお手伝いを行ってきた経験から感じることは、福岡ロジテックのように、信用力を高めようとする会社はあまり多くないと感じています。
その理由の1つは、信用力が高いことが望ましいことは理解しているものの、業績を維持することだけで精一杯で、なかなか信用力を高めるところまで至ることができないということだと思います。もう1つは、経営者の方が会計的な知識が乏しかったり、または、経理担当の従業員の方の知識が十分でなかったりするために、信用力を高めるためにどのようなことをすればよいのか具体的にわからなかったり、改善のためのその余力がなかったりするからだと思います。
しかし、谷口さんも、「(福岡ロジテックは)信用力を企業価値と位置づけ、それを高めることで市場での優位性を確立」しいると述べておられるように、会社の信用力を高めることは、会社の発展のための重要な活動です。もちろん、日々の営業努力も欠かせませんが、信用力が高ければ、営業活動の効率も高まります。したがって、現在、信用力を高めるための活動にあまり注力していない会社は、この活動にも注力していくことをお薦めします。具体的には、毎月の業績を、翌月の上旬までに確認し、改善を要する点があれば、改善策を講じ、直ちに実践するというところから始めるとよいと思います。
2025/3/4 No.3002