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エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、福岡県粕屋郡にある福岡ロジテックでは、同社の黎明期に、周囲の人からの協力で自社が発展してきたという経験から、「親切が先、商いは後」という経営理念を掲げているそうです。そして、荷主企業や運送会社に対して丁寧に接することで、同業者から評価されるようになり、関西からの帰り車を直接扱う市場占有率を向上させることができ、売上の約7割が運送取次事業になるという、先駆的な事業展開をするまでに至っているそうです。
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今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、福岡ロジテックでは、会社のデジタル化を進めるため、社内にデジタル委員会を設立し、同委員会で、例えば、簡易な勤怠管理システムを開発し、全社員が運行情報をリアルタイムで共有できる環境を整え、徐々に入力などを覚えていきながら、無理なく活用してもらえるシステムをつくるなど、確実にデジタル化を定着させていったということについて説明しました。
これに続いて、谷口さんは、福岡ロジテックの「親切が先、商いは後」という経営理念について述べておられます。「福岡口ジテックの成功の背後には、『親切が先、商いは後』という経営理念があります。この理念は、創業者の経験と、それを支えてくれた多くの人々との関わりの中から生まれました。単に利益を追求するのではなく、親切心を基盤とした経営を目指す同社の姿勢は、社員や取引先だけでなく、物流業界全体に大きな影響を与えています。永山社長の胸の内には、常に起業して間もない同社を支えてくれた、多くの人々の親切な支援のおかげが刻まれています。
例えば、トラックヤードの提供を申し出てくれた地主や、遠方でトラックが故障した際に修理の手配をしてくれた運送会社の社長、燃料調達に協力してくれた同業の方たちなど、様々な人々が助けてくれたおかげで、会社は少しずつ経営基盤を整えることができました。こうした支えへの感謝の気持ちが、『親切こそが信頼を生み、事業を支える』という経営の基本理念を形成しました。先に触れたように、創業当時にトラックをえるための資金が乏しく、信用もないということで新車を購入するためのローン審査に通らなかった経験から、同じように困っている会社に対してできる事を支援するなど、今度は支える側に回ることで『親切を先に』という理念の実践になっています。
創業期、同社が直面した課題の一つが、帰りのトラックに荷物を積む効率性の向上でした。着荷主に電話で『うちのトラックは何を積んで帰りましたか?』と問い合わせた際、『そんなことはドライバーに聞け』と冷たくあしらわれた経験は、社長にとって強烈な教訓となったといいます。この言葉を受けて社長が痛感したことは、ネガティブな思いよりも何よりも、『どのような状況でも、人に親切であるベき』ということだったそうです。
その後、平成15年には『関西の帰り車を直接扱う市場占有率でトップを目指す』という目標を掲げ、関西の運送会社との連携を強化。荷主企業や運送会社に対しても『親切が先、商いは後』という理念を徹底しました。この取り組みが功を奏し、福岡口ジテックは関西圏に強い会社としての地位を確立できたといいます。さらに、同社は求荷・求車システムWebKitやローカルネットを活用し、関西圏だけでなく関東圏にも営業エリアを拡大しました。その結果、WebKitでは荷物成約日本一を9連覇し、ローカルネットでも月間日本一を何度も達成するなど、業界内での地位を確固たるものにしました。
また、WebKit、ローカルネット、トラポックスを合わせたウェプでの取引額は月1億円を超えることもあり、全国規模での取引ネットワークを構築しています。福岡ロジテックの売上の約7割が運送取次事業から成り立つことも特徴です。一般的に、運送会社の主軸は自社便ですが、同社ではマッチングを主体とした取引を展開。『マッチングを業とする商社』としての自負を持ち、全国5000社の運送会社と繋がり、約10万台のトラックをパソコン画面上で管理しています。この取り組みは、ウェプでの取引が主流となる未来を見据えた、先駆的な事業モデルといえます。
同社はさらに、自社開発の配車システムを稼働させ、全国規模の配車システムを効率的に活用できる体制を整備しました。この成果を基に、同社は新たな挑戦を続けています。福岡口ジテックの経営理念『親切が先、商いは後』は、取引先や業界との強固な信頼を築き、同社を物流業界で際立つ存在へと成長させました。その理念が、同社の成長の土台を築き、取引先や社員との信頼関係を重視し、親切経営の理念を基に対応を徹底することで、業界内で高い評価を得る企業へと成長しました。
創業期の苦難と感謝の経験、そしてそこから得た教訓を生かしているのです。さらに『親切』の理念の向く先は、対外的だけではありません。社内の世代間ギャップを埋めるためにも『親切な対応』を企業文化として浸透ざせています。たとえば、配車係の多くが平成生まれで、ドライバーより若い世代が多い中、常に丁寧な言葉遣いを心がけることで、気持ちの良いコミュニケーションを実現しています。このような配慮は、ドライバーが安心して業務に集中できる環境作りに貢献しています」
私は、福岡ロジテックの経営理念を評価していますが、これを道徳的に理解してしまう人も多いのではないかと考えています。すなわち、「他人(他社)に親切することは道徳的によいことだから、『親切が先、商いは後』という経営理念はよい経営理念である」と評価することです。しかし、ビジネスに道徳は必要であるものの、道徳だけで評価するだけでは浅い理解によるものになってしまうと、私は考えています。そこで、他社の事例をあげたいと思います。2019年9月5日午前、神奈川県横浜市にある、京浜急行電鉄神奈川新町-仲木戸駅間の踏切で、電車とトラックの衝突事故が起きました。
この際、東日本旅客鉄道の保守作業の社員の方たちも、会社の垣根を越えて、京浜急行の復旧に協力していたことが話題になりました。これについては、京浜急行が早く復旧してくれた方が、東日本旅客鉄道の混雑も早く解消するからという理由もあることは間違いないと思いますが、その前に、福岡ロジテックの経営理念と同様に、「親切が先」という考え方もあることも明らかだと思います。さらに、京浜急行は、かつて、東日本大震災のときに、東北新幹線の復旧を支援していたそうです。
京浜急行のレール幅は、東北新幹線と同じ1,435mmなので、東北新幹線の復旧に必要な検査測定用の車両や機器が役立ったようです。復旧にあたっては、京浜急行以外の会社からの支援もありましたが、こういった会社を超えた協力で、49日後に東北新幹線は全線で運転再開ができたそうです。これは、阪神淡路大震災のときに山陽新幹線が復旧するまでに要した81日の半分近い速さです。この事例のように、同業他社との協力は、自社がピンチになったときに、迅速に復帰することにつながります。
福岡ロジテックも、他社との協力関係が、運送取次事業として業績を伸ばすことにつながりました。したがって、同業者とは、普段は競合しつつも、二宮尊徳の言葉と言われている「盥(たらい)の水の原理」(盥の中の水は、自分の方に寄せようとすると反対側に行ってしまうが、逆に自分の反対側に水をやると自分の方に返ってくるということから、他者に行った親切は自分に返ってくるという考え方)の考え方で接することが大切であると、改めて感じました。
2025/3/2 No.3000