鄙のビジネス書作家のブログ

鄙で暮らす経営コンサルタント(中小企業診断士)・ビジネス書作家六角明雄の感じたことを書いているブログ

夜間運転の全面禁止で会社を成長させる

[要旨]

エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、福岡県粕屋郡にある福岡ロジテックでは、死亡事故が起きたことをきっかけとして、夜間運転全面禁にしたそうです。これを行うにあたっては、取引先との調整などに労力を要したものの、事故率が下がったり、労働環境が改善したりして、業績の向上にもつながったということです。


[本文]

今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、千葉県四街道市にある日東物流では、従業員の1か月あたりの拘束時間が、当初、400時間もある従業員もいた中、293時間以内に抑えるという目標を、スモールステップにして徐々に近づけて行き、10年間かけて達成することができたということについて説明しました。

これに続いて、谷口さんは、福岡県粕屋郡にある福岡ロジテックの、夜間運転全面禁止の取り組みについて述べておられます。「福岡口ジテックが『日本一楽な長距離運行』を実現するきっかけとなったのは、2017年に起きた1件の悲劇的な事故でした。静岡県で発生した死亡事故で、同社のトラックが関与したその出来事は、会社全体に大きな衝撃を与えました。事故後、被害者の遺族から『あなたたちにとっては交通事故でも、私たちにとっては殺人事件です』という言葉を受け、社長は経営者としての責任を深く自覚しました。この出来事を機に、同社は大きな決断を下します。

それは、『安全最優先』の経営方針を掲げることでした。まず取り組んだのが、夜間運転の全面禁止です。当時業界全体的に運行形態は拘束時間が長くて当たり前、過労運転が事故の原因となるケースも少なくありませんでした。そのため、深夜0時から早朝5時にかけての運転を停止し、夜間に9時間以上の休息を確保する新たな運行規定を導入しました。初めこそ得意先との調整や社員の意識改革が必要で困難を伴いましたが、結果的に事故率の大幅な低下を実現しました。

また、従業員が十分な休息を取れるようになり、働きやすさも向上しました。『安全最優先』の姿勢は、同社が成長を続ける中でも一貫して守られています。ドライバーの負担を徹底的に軽減するために、柔軟なシフト制も導入しました。これらの改革は、従業員のモチベーション向上だけでなく、安全性の向上にも寄与しています。『積み込み予定時間を基準として出勤してもらうことで、拘束時間の無駄を省いています。5時頃に積み込み予定の仕事が多いのですが、そうすると14時からの出勤で19時30分頃から休息時間になるので、長距離出発日の拘束時間は5時間30分。

そうすることで時間外労働時間は0時間、ドライバーの拘束時間を短縮し、夜間の休息時間を十分に確保できるようにしています。そうやって、とにかく無駄な勤務時間を徹底的に削減していきました』と、永山社長は話します。拘束時間のみならず、運転時間、連続勤務、その他の労働時間において全ての項目で改正された労働基準を十分に満たしている状況です。過労運転は限りなくゼロを目指してやってきたことで、同社の運行行程は同業他社のどこよりも楽々運行がやれていると自信を持って語ります。

ところが、不思議なことに、中には『休息時間が長すぎて息が詰まるし夜中運転した方が運転しやすい。だから自分にはこの運行工程は無理』と退職するドライバーもいるそうです。プラックな会社から来たドライバーは、『前の会社と給与が変わらないのに楽になった』、『この会社なら高齢になっても現役を続けられる』と喜んで仕事をしてくれる中で、そのように自分たちの習慣を変えられないドライバーも出てきます。『合わなくて退職するなら、それでいいと思っている。

会社のルールが守れない人が一人でもいたら悪い意味で他の社員へ連鎖していく』と永山社長は考えています。さらに、同社では残業やノルマを極力排除する運行形態を構築しました。運送業界では、過剰な残業やノルマが事故や離職の原因となることが一般的ですが、福岡ロジテックではこうした慣習を打破。ドライバーが『働きすぎ』を避けながら安心して業務に取り組める環境を整えています」

福岡ロジテックのように、夜間運転の全面禁止を行うことは、労働環境の改善になるし、それが事故のリスクを減らし、さらに業績を向上させることになるということは、どの会社経営者の方もご理解しておられると思います。ところが、それを行うことによって、顧客の要望に応じることができないこともあり、取引を解消されるかもしれないという懸念によって、なかなか実施に踏み出すことができないという方も多いと思います。

これについては、福岡ロジテックも、「初めこそ得意先との調整や社員の意識改革が必要で困難を伴いましたが、結果的に事故率の大幅な低下を実現」し、さらに、「従業員が十分な休息を取れるようになり、働きやすさも向上」したようです。これは想像ですが、100%の顧客から、夜間運転をしないという条件に応じてもらってはいないと思います。でも、労働環境の改善を優先した結果、それによるリスクの低下、従業員満足度の向上、そして業績の向上の方が大きいと思われます。また、最近は、レピュテーションリスク(風評リスク)を重視する会社も増えてきています。

すなわち、自社が取引先に過度な取引条件で仕事を依頼したり、または、仕事を発注した相手の会社が法令遵守をしていなかったりする場合、自社の社会的な風評が下がり、それが業績に影響することを防止しようとする考え方です。ですから、かつてよりは、安全性確保のために、取引条件を変更して欲しいという依頼は受け入れられやすくなってきていると思います。そこで、現在、労働環境の改善をしたいと考えている会社は、福岡ロジテックの事例に倣って、取引先との改善交渉をすることをお薦めします。

2025/2/28 No.2998